第32話 火事


 俺は急いで町まで走ると、見下ろして燃えている建物を確認する。


 固まっている複数の建物が燃えていた。しかも……よりにもよって集合倉庫のよう建物に見える。


「お、おい!? 火事だぞ!?」

「そんな!? 今は町にほとんど人がいないはずなのに!?」


 城壁の上にいる大勢の小人達が大騒ぎだ。この町の人たちのほとんどが、俺の島作り見学のために城壁の上に登っていたのだから。


 燃えている建物を見て最悪な事態が頭をよぎるが、考えている時間はない! 急いで火を絶たないと燃え広がってしまう!


「息を吹きかけて消す……いやそんなことしたら、他の建物も壊れてしまうか! そうだ!」


 俺は魔法で手元に二本の小さな鉄の棒、ようはハシを作成。


 鉄のハシで燃えている建物を掴むと、急いで町の外に運んで捨てる。


 ……葬式の時の遺骨拾いを思い出してしまったのは内緒だ。そうして他の燃えている建物も同じように町の外に捨てて、なんとか燃え広がるのは防いだ。


 だが燃えていたのは倉庫のような建物である。そこに懸念があった。


 ……食糧庫だったらヤバい、と。


 俺は城壁の小人が立っていない箇所に、指をつけると急いで小人に戻る。


「エリサ! どこにいる!」

『燃えてたとこ! 女王陛下と一緒!』


そして階段で町へと降り始めた。


「スズキ様! 私が運びます! どこへ向かわれるつもりですか!」


 レティシアちゃんが俺の横を走りながら叫んでくる。


 確かに彼女に運んでもらった方が遥かに速いか。


「女王陛下のところに運んで欲しい! さっき燃えていた倉庫のところにいるはずだ!」 

「わかりました!」


 レティシアちゃんは俺の両脇をギュッと腕で掴むと、周囲に風を出現させてフワリと空に浮いた。そして広場に向かって飛んでいく。


 彼女の飛行魔法はエリサに比べるとかなり安定感がある。おそらく風で全体のバランスをとってくれているのだろう。


 そうして俺たちは急いで火事跡、というより建物跡地に飛んで到着する。


 三つほどの倉庫があったはずの場所は、無残な姿と化していた。


 焼け焦げた地面とわずかに残った柱が立っているだけだ。俺が無理やりハシで建物を引き抜いた上に、火事だったのだからこうもなるか。


 そんな建物の前には、呆然と立ち尽くす女王陛下がいた。


 俺は急いで彼女の元に走って、


「女王陛下! ご無事ですか! 怪我人は!?」

「だ、大丈夫です! 倉庫には誰もいませんでした! ……ちょっと内密の話がありますので、屋敷でお話ししましょう」


 女王陛下と俺たちは、彼女の屋敷へと向かう。


 そして応接間の席に座って話し合いが開始された。


 さっそく女王陛下が真剣な顔で俺たちに視線を投げかける。


「燃えていたのは食糧庫でした」

「!? な、なら食料が燃えたんですか!?」


 ただでさえ食料が不足しているというのに、さっきの火事で貯蔵が全滅したらどうしようも……!


「いえ、それは大丈夫です。食料は一時的に他の場所へと隠していましたので」

「そうなんですか? それならよかった……」


 思わずホッと息をなでおろす。


 ただでさえ人が増えて食料難だったのに、これで燃やされていたらおしまいだった。


 しかし何故、食料を隠していたのだろうか。そんな俺の疑問を察知しているのか、女王陛下はさらに言葉を続ける。


「食料を避難させていたのは念のためでした。黒獄虫の巣から町に戻ってきた民たちが、もし絶望してヤケになられては困ると。流石に食料を焼くのは、考えすぎかと思っていましたが……」


 暗い顔をする女王陛下。


 確かにすごく大勢の人物がこの町に新たにやってきたのだ。なにかしらのトラブルが発生してもおかしくないし、最悪の事態を想定しておくのは悪くない。


 何も起きなければ考えすぎで済む。だが考えすぎどころか、現実に起きてしまったと。


 ただ少し気になることもあるので聞いてみよう。


「えっと、食料を隠していたから、倉庫に見張りはいなかったんですか?」


 この町において食料は最も重要なモノと言っても過言ではない。普通に考えて警備も多くつけるだろうし、そう簡単に火をつけられるとも思えない。


「いえ。それだと食料がないと感づかれかねないので、警備体制は変えていませんでした

「では警備の兵士が油断していたのですか? 倉庫に食料がないと知ってか、あるいはまさか食料を燃やすなどあり得ないと」


 そうでもなければ、兵士の目を盗んで火をつけるなど無理だろう。


 だが女王陛下は首を横に振った。


「いいえ、それも違います……警備の兵士たちは殺される、もしくは大怪我を負わされていました」

「……武装した兵士ですよね?」


 女王陛下は小さくうなずく。


 ……武装した兵士が簡単に倒されるなんて、そんなことあるのか?


 食糧庫を襲ったのが凄腕の暗殺者とかなら理解できる。だが犯人は町に戻ってきた人たちなはずだ。


「えっと。町に戻ってきた人たちの中に、超凄腕の兵士がいたとか……」

「そこまでの者はいないとは思います。ただ何分、人が多すぎて身元が分かっていない者もそれなりにいます。そこに野盗などが紛れ込んでいるかもしれません」

「あー……」


 黒獄虫に囚われていた者に、野盗が混ざっている可能性もあるのか。


 そういう奴なら食料を盗むのは納得できる。こうなると町に食料を置くのも安全ではないかも……。


「いやでも野盗たちでも食料を盗むならともかく、燃やそうとします? 食料は凄く貴重なのに」

「私もそこは少し疑問です。ですが現に燃やされましたので、そう考えるのが一番つじつまが合うかと。巨人様は他になにか思いつきますか?」

「……いえ」


 違和感はあるが、他に犯行する者も想像がつかない。


 なんにしても町に厄介な者が混ざっているのは確実だ。


 とりあえず食料を安全に守れる場所を確保しないと、隠し場所がバレて燃やされたらシャレにならない。


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建物掴むならピンセット使った方がよさそう。

私はハシまともに使えないので、ポロッと落とす自信があります。

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