第33話 討伐狙い


 ひとまず食糧安全確保のため、俺は急いで小島を作ることにした。


 食料を置く用の島を町の外に造ってしまえば安全だ。


 町の中にいる野盗たちは外に出られない。出たら黒獄虫に殺されるので食料を奪われることはないからだ。


 そして海に覆われた島ならば黒獄虫も入ってこれない。なのでひとまずは食料は盗られないと。


 急いで土を盛って島を造り、町の空いていた倉庫をひとつまみ運んで島に置く。


 後は町の食料をこの倉庫に入れて、今後収穫できた麦なども同じようにすればひとまず大丈夫だろう。


 流石の野盗も黒獄虫の危険を冒してまで、町の外に出てはこれまい。


 そうして俺は港町の自分の屋敷に戻った。そしてレティシアちゃんとエリサと一緒に、応接間で席について会議を始めている。


「風魔法を無事に手に入れたので、次に小型犬……いや巨獣が出てきたら討伐したい」


 火事のせいで少しゴタついたが、俺は風魔法を会得したのだ。あの魔法はかなり速い上に見えないので、遠く離れた犬でも当てれたら倒せるはずだ。


 問題は命中精度だけどな。


「そうよね。あいつがいたら町が危ないことになるし」

「城壁より巨大な獣ですからね。スズキ様がいなければ対抗できる気がしません」


 エリサとレティシアちゃんも俺の意見に賛成のようだ。


 実際、あの小型犬に町が襲われたら本当にマズイ。


 城壁なんて簡単に飛び越えて、怪獣映画のように町をぶっ壊してしまうだろう。なんとしても阻止しないと。


「ちなみに参考に聞きたいんだけど。レティシアちゃんが使えた攻撃魔法でも、あの巨獣には通用しなさそう?」

「どうでしょう……全ての魔力を一発に注ぎ込めば、少し吹き飛ばすくらいは可能だったかもしれません。ただ倒せはしないでしょうが」


 レティシアちゃんは少し悩みながら口にする。


 そこに自慢とか驕りとかはなさそうで、純粋に脳内シミュレーションしたような雰囲気だ。


 凄いな。レティシアちゃんと小型犬の体格差は、それこそ怪獣に対する人間くらいあるのだ。なのに吹き飛ばせるだなんて。


「なるほど。ちなみにエリサはどうだ?」

「巨獣の毛を焦がすくらいなら出来るかも! 倒すのは絶対に無理だけど!」


 エリサも結構自信満々だ。


 火魔法って小さくても普通に効果的だよな。マッチくらいの火を出せれば、使いようによっては大火事を起こせるわけだし。


 黒獄虫相手ならばレティシアちゃんの方が強いのだろう。なにせ風で吹き飛ばしてどんどん死体を増やすらしいから。


 でも対巨獣ならばエリサの方が相性がいいのかもな。風で多少吹き飛ばすよりも、小さな火でもあったほうが勝てそうな気がするし。


「エリサ、お前って空を飛べるよな? 頑張ったらどれくらい飛び続けられる?」

「どんなに頑張っても五分が限界! そうじゃなかったら外でももう少し飛んでるわよ」


 エリサはいつも俺の肩なり頭なりに乗っているが、それはあまり長く飛び続けられないからだ。


「ところでどうして空を飛べる時間なんて聞くの?」

「可能であればあの小型犬、いや巨獣の後ろに回って攻撃して欲しいんだ。そうすれば俺から気がそれるからやりやすくなる」


 俺は風魔法を覚えた。だがそれだけで小型犬を倒せるかは怪しい。


 いくら不可視と言っても相手は獣でたぶん野生の勘とかあるだろう。俺が手を向けたら、撃つまでに察知されて避けられるかもしれない。


 そして不意打ちが通じるのは一度切りだと思う。ようは俺が風魔法を外したら、あの小型犬は今後警戒してさらに距離を取って来るかも。


 そしたら結局当てるのが難しくなる。なので一発で決めるために、小型犬の注意を俺からそらしたい。


 なのでエリサに空を飛んで小型犬の後ろに回ってもらい、炎魔法でもぶつけてくれたらと思ったのだが。


「うーん……私は飛び続けられないから無理ね」


 エリサは一瞬、おそらく無意識にレティシアちゃんに視線を向けてしまった。


 レティシアちゃんはかなり長時間飛べるので、小型犬の後ろに回るなど簡単だろう。


 だが彼女は攻撃魔法が使えないので、今度は後ろに回ってからなにもできなくなる。


 とは言えこの問題の解決方法は簡単だ。


「じゃあレティシアちゃんが、エリサを抱いて空を飛んでくれないかな? そうすれば飛び続けられるし攻撃魔法も放てる」

「わかりました」

「それしかないわね」


 レティシアちゃんは小人化した俺を抱えて空を飛んだこともある。ならエリサくらいは簡単に運べるだろう。


 そしてエリサの火魔法で小型犬を驚かせてくれたら上々だ。後は俺が風魔法を当てれば倒せる。


 問題は外す恐れがあることだがそこは頑張るしかない。命中精度を上げる練習をすればなんとか……。


「わかった。じゃあ俺は風魔法の狙いをつけるように練習するよ。一発で当てられるように」

「お待ちください、私に考えがあります。私がスズキ様に教えた魔法は、風魔法では一番弱くて魔力消費が低いものです。なので下手に狙いをつけるよりも、こうしたほうが……」


 レティシアちゃんの案の方がよさそうだったので、彼女に従うことにした。


 そうして俺は小型犬を倒すために風魔法の練習を行うのだった。




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