転生開拓者のRestart 〜ご都合主義が激しすぎる能力で死の荒野を開拓しています〜

上下サユウ

第1話 プロローグ

《この場所を拠点にしました》

《拠点設置ボーナス100KP獲得しました》

《拠点ステータスを表示します》


 拠点:ゴーストヴィレッジ

 LV:1

 住民:0

 開拓:<召喚><?><?>

 任務:100

 スキル:<?><?><?>

 領域:半径100m

 KP:220(1日経過+10KP)



「拠点にもステータスがあるのか」

《マスターのご意向を元に作成しています》


 俺の意向?

 あぁ、ゲームのように表示された方が分かりやすいからってことか……。



 突然だが、俺は荒野で開拓を始めることになった。

 これもすべて、あの日に起きたことが原因だ。

 

 ◇


「はぁ……帰るか」

 

 終電はとっくに過ぎて、気付けば深夜2時。

 法定外残業、パワハラが当たり前のブラック企業に勤めて早16年。

 今では当たり前の如く順応している男が、誰もいない部屋を後にした。


 これが、この男のルーティンだ。


 しかしこの日が、男の命運を分かつ日になるとは、思いもしなかっただろう。


「一杯だけ行くか」


 男は行きつけのバーへ足を運んだ後、帰宅中に車にはねられた。

 やけ酒で酔っていたこともあるのか、走馬灯が見えることもなく男の俺。こと、切開大地きりひらだいち の38年間の人生は、静かに幕を下ろした。


 ◇


 事故の後、ふと目を覚ました俺は、白い空間で不思議な爺さんに会った。


 爺さん曰く、俺が事故にあったのは単なる偶然ではなく、自分の責任だと言った。

 お詫びに記憶は消さず、身体を若返らせて異世界へ転生させるというものだった。

 

 俺にとっては漫画やネット小説のような話で、むしろ願ったり叶ったりだったが、記憶が残り若い頃に戻る?


 剣と魔法の異世界で、それだけでは心許ない。


 俺は他にも魔法やスキルが欲しいというと、善行ポイントが足りないため、これ以上は無理だと言われた。


 自分で言うのもなんだが、俺は悪いヤツではない。

 とはいえ、徳を積み重ねるような善人でもなかった。


 その善行ポイントやらが足りないからといって、ここで引き下がるわけにもいかない。

 できることなら、強くてニューゲーム人生の方がいいし、何より俺の来世がかかっている。


 社会経験16年、人生経験38年。

 社会で培った交渉術。

 ブラック会社で鍛えられた体力と忍耐力。

 たまの休日にやり込んだゲームで身に付いた集中力。

 電車通勤中に読み漁ったラノベと漫画の知識。


 これらをフル動員して、この爺さんから、何か一つだけでも手に入れてみせる。


 ◇

 

「何度も言っておるが、これ以上は無理なんじゃよ」

「なにも魔剣や無双チートスキルをくれなんて言ってないだろ? せめて――・・」


 そこからの俺は、粘り強く食い下がる。


 本当に詫びの気持ちがあるのか?

 現代人の俺が、魔法やスキルも無しに、異世界で生きていけると思っているのか?

 転生後、すぐに死に戻ったら爺さんの責任だからな?

 

 怒涛の如く言い立てた。


「わ、分かったのじゃ。サービスで10ポイントじゃ。それ以上言うのであれば強制転移するからの」

「チッ、まあ仕方ないか。それで、その10ポイントで何ができるんだ?」

「神であるワシに舌打ちしよってからに、罰当たりめが――・・」


 爺さんは小声でブツブツ言いながら、手に持つ大きな杖を振ると、俺の前にディスプレイが現れた。


 <善行ポイント:残り10ZP>

 〈能力値〉 10ZP〜

 〈装備〉  50ZP〜

 〈ジョブ〉 100ZP〜

 〈スキル〉 500ZP〜

 〈ギフト〉 1,000ZP〜

 〈加護〉  5,000ZP〜

 〈称号〉  10,XXXZP〜



「完全にゲームじゃねえか……」

「お主に分かりやすく表示させておる。操作方法も、お主が使っておったスマホと同じじゃ。10ポイントじゃと、取得できるのは〈能力値〉だけじゃがの」


 俺は仕方なしに〈能力値〉をタップする。


 〈能力値〉 <残り10ZP>

 体力(小UP) 10ZP

 魔力(小UP) 10ZP

  力(小UP) 10ZP

 俊敏(小UP) 10ZP

 知力(小UP) 10ZP

  運(小UP) 10ZP

 体力(中UP) 100ZP

 魔力(中UP) 100ZP

   ・      ・

   ・      ・

 知力(大UP) 1,000ZP

  運(大UP) 1,000ZP

 

 〉戻る



 爺さんの言う通り、10ポイントで取れるものは少ない。

 さらに(小UP)がどれほどの効果かも分からない。

 ただ結局どれを選んでも、大した違いはないだろう。


(せっかくだ。この際、他も見てみるか)


 取得できないと分かっていても、気になってしまうのは必然だ。

 

 〈スキル〉 <残り10ZP>

 剣術(LV1) 500ZP

 槍術(LV1) 500ZP

 弓術(LV1) 500ZP

  ・      ・

  ・      ・

 隠密     2,300ZP

 隠蔽     2,400ZP

 鑑定     2,500ZP

  ・      ・

  ・      ・


 どれだけあるんだよ……。

 スキル一つ取るのに、ここまでのポイントが必要なら、聖人君主でもない限りは、チートを持つ主人公にはなれないってことか。


「余計なものは見なくてええから早くせえ」


 俺は渋々〈能力値〉をタップしようとした、その時。


 ん?

 〈称号〉10,XXXZPって何だ?


 〈称号〉  <残り10ZP>

 煎餅愛好家  10,000ZP

 爆笑の達人  10,100ZP

   ・      ・

   ・      ・

 無双の闘士  49,900ZP

 孤高の竜殺し 50,000ZP

   ・      ・

   ・      ・


 相変わらず膨大な数だが、特にこれといって変わった所は見当たらない。


 ただの表記バグか?

 それにしても〈煎餅愛好家〉やら〈爆笑の達人〉とか、これは一体なんなんだよ。


「選べるものは少ないが、それでもありがたく思うとくれ」


 そう言った爺さんをチラッと見ると、いつのまにか、ちゃぶ台の前に座り「ズズズッ」とお茶を啜っていた。


 この爺さん、何でもありかよ……。

 呑気なものだ。

 こっちは来世がかかっているというのに。


 ま、無視だ。


 どうせなら最後まで見ようと、軽い気持ちでスワイプしていった。


 〈称号〉  <残り10ZP>

  ・       ・

  ・       ・

 厄災の大魔王 100,000ZP

 救世の勇者  100,000ZP

 異界の開拓者 10XXXXZP

 

 〉戻る


 〈異界の開拓者〉か。

 コイツがバグの原因だな。

 

「なぁ爺さん。バグが…」「そこじゃ! ボリボリッ、押し出しゅのじゃ!」

『のこった、のこった……』


 爺さんは、煎餅を頬張りながらテレビを見ていた。


「ん? 決まったにょかにょ?」

「……いや、ちょっと待ってくれ」

「大して変わぬのじゃから早う決まるがよい」


 俺は流し見していたが、最後は気になる称号ばかりだった。


 〈救世の勇者〉か。

 タップしたらどうなるのかと、遊び半分で押してみる。


『称号:救世の勇者を100,000ZPで取得しますか?』

 〈Yes/No〉


 無理だと分かりながらも〈Yes〉を押すと『善行ポイントが足りません』と表示された。

 ま、当然の結果だ。


 それなら〈異界の開拓者〉を選ぶとどうなるか。


『称号:異界の開拓者を10XXXXZPで取得しますか?』

 〈Yes/No〉


 続けて〈Yes〉を押すと、ここで思わぬ事態を招いてしまう。


『エラーが発生しました』

『エラーが発生しました』

『エラーが発生しました』

     ・

     ・


 え? 

 まさか壊れたのか?


 画面いっぱいに広がるエラー表示。

 俺は何か悪いことをしてしまった気分になった。


『緊急メンテナンスを実行します……失敗しました』

『シーケンスの設定を解除します……成功しました』

『再度緊急メンテナンスを実行します……成功しました』

『称号のポイント設定に不具合を見つけました。バックアップから初期設定を実行します……失敗しました』


 これは俺のせいじゃない。

 バグだからな。


『称号:異界の開拓者の10XXXXZPが不具合の原因と判明しました』

『称号:異界の開拓者の10XXXXZPのXを削除します……成功しました』

『称号:異界の開拓者の取得Pを10Pに変更しました』

『称号:異界の開拓者を取得しました』


 あれ?

 画面に取得しました、って書いてあるよな?

 まさか取れたのか?


「よっしゃあああああああああッッ!!」


 俺は生涯一の雄叫びをあげた(死んでるけど)


「急に大声をあげてどうしたのじゃ!?」

「いや、なんでもない。それより爺さん、待たせたな」

「ようやっと決まったか。では最後にワシからお主に質問じゃ」


 爺さんが質問に答えろと言ってきた。

 質問の内容はコレだ。


 新しい人生をどのように歩んでいくのか?


 その質問に、俺は答えを出せずにいた。

 無意味な仕事に追われ、夢も希望もない孤独な人生はもう二度とごめんだ。


 そうだな、のんびりまったりしながら生きていくのも悪くない。

 食いたい時に食って、好きな時に寝る。

 スローライフってやつだな。


 ただ、それで満足できるのか?

 何か違う気がする。


 人生、金より愛だ。

 人との絆を大切にしろ。

 親を大事にしろ。

 なんていうヤツもいたが、俺は愛を知らない。


 今となっては顔も覚えていないが、俺が幼少の頃、父が酔った勢いで母を罵倒しては殴る蹴るの毎日。


 離婚後、俺は母親と住むことになるが、それもすぐに母は病で倒れ、帰らぬ人に。

 父は会社の倒産後、自殺したと後から聞いた。


 その後、俺は親戚の叔母に引き取られたが、赤の他人のように愛情なく育てられた。

 そのせいか、人より心が歪んでいたのかも知れない。


 そんな中、俺の人生をリスタートする機会に恵まれた。


 せっかくの異世界ファンタジーだ。

 誰もが驚くような事を成し遂げてみせる。


 答えは決まった。


「異世界にドデカい国でも作って一旗上げてやる」


 こうして、俺の人生はリスタートした。


 ◇


 某日。某白い部屋。


「やってしもうたッ! あのミスだけでなく転生場所も間違えてしもうたわい……ま、まあええじゃろ」


 爺さんは、何もなかったことにした。

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