第37話 最終兵器

《メルセス、フォルクス、ルーシェ、オペルが住民になりました》


「おいッ! 俺たちを捕まえて、ただで済むと思っているのかッ!」

「あきらめた方がいいっすよ、フォルクスさん」

「これは普通の牢屋じゃないわ」

「ふっ、さすがに降参かな。先ほどの木柵といい、この牢屋も僕の魔剣を持ってしても斬れないからね」


 プランから教えてもらった方法とは、〈牢屋〉に入れるというものだった。

 もちろん、ただの牢屋ではない。


 牢屋:罪人を閉じ込めておく檻。

 効果:不壊・不潔・改心

 必要KP:100



 この牢屋の〈改心〉という効果は、どのような不届者でも一日経てばたちま更生改心するそうだ。

 なぜ、すごいシリーズでは無いのか、それは開拓七不思議の一つだ(適当)

 後はこいつらをどう処分するかになるが、その前に聞いておく事がある。


「お前らの目的は偵察だろ? 詳しい話を聞かせてもらおうか」

「ふっ。僕たちが言うと思うのかい?」

「誰に向かって言ってやがる。鼻垂れなんかに話すわけねえだろ」

「そうか、それなら話をしてもらうまで拷問でもするとしよう」

「ひっ!? ちょっと待って! いくら何でも女の私にまでひどい事しないわよね? こ、ここから出してくれたら、お姉さんがいい事してあげるわよ?」


 メガネ娘のいい事とは、おそらくあんな事やこんな事だとは思うが、うむ、確かになかなかのスタイルではないか、悪くはない。

 ただスフィアたちに何を言われるか分からないし、何よりまたプルプルし始めてる。


 それに勢いで拷問って言ったけど、結局何をしたらいいのかよく分からないし、痛めつけるのも魔物と違って人間だ。

 そこまでの度胸は無い。と思ってたんだが、あながちやれそうな気がする。

 おそらく俺の称号<拷問好き>の効果、〈拷問時精神耐性大UP〉が働いているんだろう。


 拷問していないのに効果が発揮されるのは、七不思議の二つ目だ。


 どちらにしても、こいつらが罪人なのは間違いないので、改心するまで許すことはないし、多少傷つけたとしてもスーパー温泉で全回復するからその点は安心だ。


 さすがに人殺しにはなりたくないからな。


「何をしても僕たちは口を割らないよ。君が殺すというなら好きにしてくれたまえ」


 おーッ、さすがS級冒険者は言うこともイケメンだな。でもちょっと目が泳いでるのは気のせいか?


「おいらも死にたくねえっす。殺すならフォルクスさんにしてくだせえ」

「おい、オペル! てめえッ!」

「私も死にたくないわ! お願い見逃して! 殺すならフォルクスだけにして!」

「ル、ルーシェまで何てこと言いやがるッ!」


 おい赤バン、お前どれだけ嫌われてるんだ……。


 S級パーティっていうからには、仲間の結束が固いと思っていたが、どうやら違うみたいだな。

 特に赤バンは。

 こういうことが滑稽というのか。


 イケメン君だけは最後まで貫き通している所を見ると、なかなかに良いイケメンだと思うし、個人的に嫌いじゃない。

 でも真っ先に斬りかかってきたのは、リーダーのイケメン君だ。

 やはり責任者には罰を与えなければいけない。


 イケメン爆ぜろと顔面パンチを繰り返してボコボコにするべきなのか。それとも一番うざい赤バンだけを吊し上げて、文字通り、この世界から垢バンする方がいいのか。

 

 あ、いい拷問こと思いついたぞ。


「スフィア、お願いがあるんだ」

「は、はい。何でしょうか?」

「コレを押してくれ」

「これはあの魔道具ですね。左と右はどちらを押せばいいですか?」

「ま、とりあえず左だな」

「はい、それでは早速……「チーンッ!」ダイチ様、相変わらず重いですね。銀のトレイですが、これをどうされるのですか?」


 やっぱり俺の予想通りだな。

 俺の見立てだと、スフィアの運の無さは尋常じゃない。

 むしろマイナス方向に限界突破してる可能性すらある。それを自覚できていない所が、また何とも言えない。


「ありがとな。お陰で欲しいものが手に入った」

「いえ、ダイチ様のお役に立てたなら押した甲斐があったというものです♡」

「おい、クソガキ。お前みたいな鼻垂れが俺たちを拷問するだと? どうせ口だけだろがッ!」


 いや今準備してる所だぞ。

 それにしても捕まっているというのに、よくそんな口が叩けるな。

 やはり赤バンだけは、ちょいと痛い目を見てもらうとするか。


「何度も言うけど僕たちは口を割らないよ。拷問といえど痛みには慣れてるからね。S級冒険者をあまり舐めないでほしいな」


 ま、数々の修羅場をくぐり抜けてきてるだろうから、これまでに負った傷も数え切れないかもな。

 ただ痛みとは違うんだよな、コレ。


 あ、みんなを退避させておかないとな。


『みんな、ただちに自宅に帰ってくれ。これは警告だ。俺はお前たちを傷つけたくない。繰り返す―・―・・』


 ◇


 みんな帰ってくれた所で、俺も装備を召喚しないとな。


 <マスターの必須品>

 鼻栓      1

 すごい鼻栓   10

 ゴーグル    2

 すごいゴーグル 20

 

   <残り284KP>

ーーーーーーーーーー


 すごい鼻栓:鼻を完全ガードするすごい鼻栓。

 効果:不壊・不匂・清潔

 必要KP:10


 すごいゴーグル:目を完全ガードするすごいゴーグル。

 効果:不壊・不入・清潔

 必要KP:20



 何ら開拓には関係ないものまで召喚できるのは七不思議の三つ目だ。


「おい鼻垂れ。いつになったら拷問してくれんだよ。本当はビビって何もできねえんだろが!」

「何かおかしいっす。わざわざ一人になる必要なんてないっすからね」

「一人になるというより、みんなを避難させたように見えたけど……」

「君はいつまで僕たちを閉じ込めておくつもりかな? 殺すつもりがないなら、やめておきたまえ。僕たちは忙しいんだよ」


 まだごちゃごちゃ言うのか。

 このまま放置させて餓死寸前で牢屋の前でシキ神様の飯でも食べようとも思ったが、時間がもったいないしな。


「おまへら、痛みにたへられるかほしれないが、これにゃらどうた」

「ブハハハッ! 何してやがる! 笑わせてくれるじゃねえか」

「違うっすよ、フォルクスさん。あれに毒が入ってんす。食べない方がいいっすよ」

「そんな物食べるわけないじゃない」

「なるほど、君は僕たちを毒殺するつもりなんだね。でも僕たちは毒を治す手段があるんだ」


 毒だと?

 そんな物入ってるわけないだろ(多分)

 消費期限が切れ過ぎてるだけだし、何よりシキ神様に謝れ。


「とくと味わふがひい」


 鉄蓋を半分ほど開いて、臭いを前方へ向けた。

 特に赤バンの方へ手を振って風を送る。


「「「「く、く、くくくくくくくくくくくくくくっせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇーッッッ!!!」」」」


 あー、俺もこんな感じだったな。

 なんか色々流しちゃって、何が鼻垂れのクソガキだよ。それはお前の方だろう。

 泡まで吹いちゃって情けねえな。


 ま、ここらで閉じてやるか。


「ぐはッ! ハァ、ハァ…………ク、クソガ、キ……」

「お、お、お願い、やめ、やめて…………」

「こ、これはやばいっす……」

「ぼ、僕たちはS級冒険者だ。これぐらいでは屈しないよ……」

「どこまへ耐へられふかな?」


「「「「イギャー―・―・・」」」」


 魔物の悲鳴のように聞こえるな。

 だが、さすがはS級だ。泡を吹きながら気絶するまでにかかった回数、なんと脅威の十回。

 イケメン君だけは十二回耐えた。

 君には公式ギネル記録を進呈しよう。


「は、話す、よ…………」


 ようやく話す気になったと思ったら、気絶してしまったな。

 ま、目覚めたら聞くとするか。


 ◇


「それでお前らS級冒険者が選ばれたわけか」

「そ、そういうことだね」


 要約すると、王国領の許可無しに町をつくるとはいかがなものか。仮に町があれば武力で乗っ取るからよろしくということだった。


 ま、国が考えるようなことは、大方そんなものだろう。わざわざ聞き出す必要も無かったが、俺が何もしなければ、仲間たちがあの世に送っていたかもしれないからな。

 結局の所、みんなプルプルしてたって聞いたし。


「こ、ここまで話したんだ。僕たちを解放してくれないかな?」

「ん? お前が俺に剣を向けてきた結果、今こうして拘束されてるわけだ。特に赤バン、お前はアレだけで済むと思っているなら大間違いだ。お前らもこの程度で済むと思うなよ」

「「「「ひぃーッ!」」」」


 俺がトレイの蓋をつまむと、四人は顔を引きつる。

 まさにトラウマ級の最臭兵器だ。

 ま、この程度で済むとはと言ったものの、このまま牢屋に入れておいて、改心した時に解放してやろうと思う。


 ◇


 現在の開拓ポイント:残254KP。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る