第3話 逃げも隠れも名付けもする

「ハァ、ハァ、ハァ……」


 あれから南に向かって、二時間が経過した。

 道中、幸いにも大きなトラブルは起きていない。

 すべては脳内ガールのおかげだ。


 ちなみに脳内ガールは即席で付けた。

 名前を考えてもいいが、今はそれ所ではない。


 それにしてもコイツは超が付くほど優秀だ。

 魔物がいる場所や俺の職業、称号のこと、さらには世界のことまで幅広く教えてくれる。


 今は情報をまとめる余裕はないが、若返ったためか同期した影響か、今の俺はすこぶる記憶力がいいことが分かった。


《マスター、この先にある川の橋を渡り、右側から迂回してください》


 俺はサバイバルレースをさせられているかの如く、険しい道を歩いたり走ったり、時には熊や猪のようなデカい魔物を、木の陰に隠れながら移動している。


《出口までもう少しです。立ち止まらないで頑張ってください》


 なんでも俺を追って来る恐ろしい魔物がいるとのことで、疲れて立ち止まると、すぐに脳内ガールから声援が飛んでくる。


 どちらかといえば、鞭が飛んでくるが正しいが……。


 なんでも森の出口を抜けた先に、小さな村があるらしい。

 ひとまずの目的地はそこだが、まずは森から一刻も早く出たい。


《マスター、止まってください。大木の陰に魔物がいます》

(また魔物かよ。どこに隠れればいい?)

《いえ、今回は隠れずに戦ってください》

(マジ……?)

《マジです》


 ◇


 俺の初戦闘が開始した。

 序盤の雑魚の代名詞、スライムだ。

 初めて見たスライムは半透明で……いや、完全に透けている。


 俺と対峙しているのは、インビジブルスライム。

 この森に生息していないだけでなく、幻といわれるほど超激レアの魔物らしい。


 レアだけに強敵だ。

 物理攻撃無効、魔法に耐性があり、唯一有効な攻撃は聖属性魔法と、それに属する武器だけという。


 さらに姿が見えないというオマケ付き。

 まぁ正確に言うと、非常に見え辛い。

 視力がいい俺でも、目を凝らしてようやく認識できるほどだ。


 物理攻撃しかできない俺にまず勝ち目はない。


 まず俺は、このスライムがいつ飛びかかってきてもいいように、リュックから折り畳み傘を盾代わりにした。


 スライム十八番のジャンピングアタック体当たりは有名だからな。


 もちろん、こんな普通の傘では何の意味もなさないことは分かっているが、そこは気持ちの問題だ。


《マスター、踏んでください》

(え、踏むの?)


 俺は言われた通りに、まず逃げられないように開いた傘でグリグリとインビジブルスライムを抑えつけた。

 身動きが取れていないのを確認した後、全力で踏みつける。


「ピキャッ!」


 インビジブルスライムは、悲鳴のような声をあげて光と共に消えていった。


 不思議なことに、避けるそぶりも攻撃を仕掛けてくることもなかった。


「弱っ……」

《マスターのレベルが12に上がりました》


 え、そんなに上がるの?

 まぁ激レアだし、俺レベル1だったし。


 いや、それよりなんで倒せたんだ?

 普通に物理だぞ。

 

《マスターが装備している防具には聖属性の力があります》

(装備? この傘とか革靴のこと?)

《マスターが所持しているもの全てが古代の遺物オーパーツです。とても貴重で特殊な力を秘めています》

 

 漫画やゲームで聞いたことはあるが、こんなものがそこまでの代物だったとは……。

 

《マスター、魔石を取ることを推奨します》

「魔石?」


 あー、この綺麗な石っころが魔石か。

 ほのかに光る蒼い石を手にしたが、そこそこデカいし思ったより重いな。


(魔石の使い道は?)

《魔石は魔力を源とする鉱物の一種です。魔力を流すことで属性に応じた効果が発生するため、魔力がない種族でも魔法を使えるアイテムとなります。また利用用途も幅広く、世界で流通しています》


 なるほどな。

 俺も魔石を使う時があるかもしれないと、リュックに入れておいた。


 再び歩き始めようとした時だった。

 俺の後方で、鳥が一斉に羽ばたき出すと地響きがした。


《マスター、例の魔物が迫っています。お急ぎください》


 俺は全力で走り出す。

 それなら戦闘なんかせずに逃げた方がよかったと思う。


《マスターのレベル上げに最適な魔物がいたからです。現にレベルが上がり、身体が楽になっているはずです》


 言われてみれば、確かに体が軽くなっている。

 流れていく景色は明らかに違い、今までの疲れもない。


 おそらく俺は、陸上のトップアスリートと変わらないほどまでになっていた。


「すげえな。これがレベルアップの力か」


 俺は再びサバイバルレースを開始した。


 走りながら考えていたのだが、脳内ガールの名前を付けようと思う。

 

《マスター、わたしは脳内ガールが気に入っています》


 え、気に入ってんの?


 ま、俺もそこまで悪い名前ではないと思うが、名前と思って呼んでいたわけじゃない。


 これから俺の中に棲むいることを考えると、脳内ガールのままでは可哀想だ。


 そこで候補がコレだ。


 1.俺のサポートをしてくれるという意味で、サポ。

 2.俺をアテンドするという意味で、アテン。

 3.人生をプランニングするという意味で、プラン。

 4.物知り博士の意味で、ホーキン。

 5.革命のAIという意味で、GPT。

 6.知の巨人、ウィッキーペデアから、ペデア

 7.世の先駆者から、グーゴル先生。

 8.便利機能という意味で、ベンコ。



 むむむ。

 我ながらナイスネーミングセンス。

 これは悩む。


 機械っぽい音声とはいえ、女性の声だしな。

 それっぽいのを絞りこむか。

 ということで、やり直し!


 1.サポ

 2.アテン

 3.プラン

 4.ペデア

 5.ベンコ


(この中では、やっぱりベンコが一番だな)

《ベンコ。とてもいいと断定します》


 うーむ。

 だが名前はいいが、便利機能を利用しているだけの感じが嫌だな。


 サポートする存在で、サポってのは単純すぎるか。

 アテンはどこか男っぽく感じる。

 ペデアは悪くはないが、屈強そうなイメージだ。


「よし、決めた」


 脳内ガール。

 改め、プランにする。


《わたしもベンコがベストだと思ったのですが、マスターの意向に従い、プランとしてインプットしました》

(プラン、よろしく頼む) 

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