第2話 俺は異世界でリスタートする

「……本当に転生したんだな」


 葉の隙間から、わずかに差し込んだ光に当てられて、俺はふと目を覚ました。


 俺はすぐに状況を理解し、体を起こして周囲を見渡す。


 ひとまず危険がないかの確認だ。

 序盤で魔物に襲われるネット小説を、何度も見たことがあるからな。


 次に体をペタペタと触る。

 まず不精髭がなくなっている。

 顔も手もスベスベ。

 余計な贅肉が落ちて体も軽い。


 確かに若返っている。

 ただ一つだけ違和感がある。


 ぶかぶかのスーツと、クタクタになった革靴。

 引き締まったせいか、服のサイズが合わない。


 足下を見ると、長年愛用している黒いリュックが、木の根にもたれかかっていた。


 一応、リュックの中身を確認しておく。


 スマホ、財布、書類、ボールペン、ペットボトルの水、口臭用タブレット、折り畳み傘。


 スマホは電源すら付かず、ただのガラクタと化した。

 ここはもう異世界なんだと割り切ることにした。


 ペットボトルの水を飲んだ後、爺さんの最後の言葉を思い出した。

 

「街までほど近い安全な森の入口付近でええじゃろ?」


 転生直後といえば、やはり森の中が鉄板だ。

 見たこともない綺麗な植物が咲き誇り、小鳥のさえずりが聞こえてくる神秘的な森……って、言ってたことと全然違うぞ……。


 不気味な植物が咲き乱れ(多分人喰い植物)

 闇の影に包まれた木々(絶対幽霊出る)

 風が吹くたび、木の葉が不気味にささやく(ほらまた聞こえた)

 深く暗い緑の葉で覆われた大森林(迷子確定)


 ここが俺の出発地点だ。


 どちらかというと、ラスボスの前に立ちはだかる雑魚が、ボスより強い高レベルステージの気がする。


 よし、とっととズラかろう。

 と、その前にしておくことがあった。


 異世界転生、定番中のド定番。

 <鑑定>に勝るとも劣らない、第一声の第一位であろう魔法の言葉。


「ステータスオープン」


 あれ? 

 あ、そういうこと。

 この異世界は、世界か。


 ステータスが見れるか見れないかで、人生の難易度に雲泥の差がでる。


 楽しみであり、醍醐味であったが、無念だ。


(さすがにゲームのようにはいかないか)

《マスターのステータスをゲーム表示にします》


 名前:切開大地きりひらだいち

 LV:1

 性別:男

 年齢:16才

 種族:人族

 職業:開拓師

 スキル:なし

 称号:<異界の開拓者><転生者>

 称号効果:<開拓術・極><?>

 KP:0


 

 あれ、見えたぞ。

 ええと、俺のレベルは1で、今は16才なんだな。


 職業が開拓師? 

 面接も行ってないのに?

 そもそも何それ? 


「いやいや、というか誰……?」


 突然、映し出されたステータスと、頭の中に直接声が聞こえたことで動揺してしまう。


「だ、誰だッ!?」

《わたしは<称号:異界の開拓者>の効果により生まれた、マスターの開拓をサポートする存在です》


 サポートする存在?

 あのバグっていた称号には、そんな力があったのか。

 何とも言えない不思議な感覚だが、今は頭の中のコイツに聞くしかないか。


「お前、名前は?」

《わたしに名前はありません。AIに酷似しているものとご理解ください》


「なぜ、AIなんてものを知っている?」

《わたしがマスターと同期したからです》


「同期ってのはどういう意味だ?」

《言葉の通り、わたしとマスターが繋がった、という意味です》


「今一つ分からないが、お前は何ができる?」

《マスターの開拓サポートがメインになりますが、この世界の大半の情報をお伝えすることも可能です。その他、念話やマッピング、危機察知など、できることは多々あります》


「開拓とはそもそも何だ?」

《マスターは町や国をつくる能力があります。実際に開拓を行うと分かりますが、この土地では<開拓術・極>を使用できません》


 うーむ、漫画やネット小説で見た〈ユニークスキル〉のようなものと思えばいいのか?


 仮にそうであれば、この脳内ガールは俺の超優秀な秘書だと思っていいだろう。

 それに念話と言ったな。

 心の中で念じるだけで、意思疎通ができるスキルだよな。


 やってみるか。


(これで分かるのか?)

《さすがマスターです。それでは、今すぐこの森から出てください。まずは南へ向かうことを推奨します》

(ま、夜になる前に行くか)

《危険な魔物が迫っていますので、お急ぎください》


「……マジ?」

《マジです》

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