第34話 難民と鑑定

《マスター、おはようございます。今日も晴れのち東から難民でございます》

「おはよ、プラン……また難民!?」

《東から白装束の者たちが向かって来ています》


 ティシリス聖教国から亡命した者たちだな。

 それならガトーに出迎えさせるのが得策か。


「ダイチ様、おはようございます。今日も難民が来るようですね」

「御領主様、本日も素敵な難民日和でございますわね」

「領主様、晩御飯を食べて帰る時はお伝えくださいね」

「ん。ダイチ、おはよ」

「――あのさ。朝からお前たちを叱るのはやめておくが、シルフィ。なぜ、お前までここにいる?」

「ん? シルフィもダイチの妻。当然の如し山の如し」

「山の……お、おう」


 もう諦めるしか無さそうだ。

 そんなことより、難民の対応を急がないとな。


「あッ、ダイチ様、私も行きます」

「お待ち下さい、領主様」

「あら、逃げなくてもいいですのに。それでは難民は皆様にお任せするとして、わたくしはルナリス姉様と一狩りして来ますわ」

「ん。シルフィ、ダイチのヘルプ」


 ◇


「もはや残された者たちは国から出られないでしょう。ここにいる我々が最後になるかと……」

「そうか。だがスミノフまで聖教国を出たということは……いや、今は再会を喜ぶとしよう」

「は、はい。僕もガトーさんたちに会えてよかったです」

「色々と辛い思いをしてきただろうが、ここにいればもう大丈夫だ」


 外に出ると、早速ガトーがプランから聞いたのか、難民たちと話をしていた。


 城壁の外には長蛇の列。

 千人以上はいるだろうか。


「ガトー、出迎えさせて悪いな」

「いえ、顔見知りもいますからな」

「あ、あのガトーさん。このお方は?」

「こちらのお方が領主様だ」

「は、初めまして。僕はスミノフと言います」


 スミノフと名乗る白装束の男がフードを外す。


 茶髪に茶色の犬耳と、ふさふさの尻尾。

 コイツは獣人族か。


「事情は把握している。お前たちもここで暮らせばいい。それより今日は一段と大勢だが、何人いるんだ?」

「国を出た時は三千人以上いたのですが、警備兵に捕まった者や、道中で魔物に襲われ、はぐれてしまった者たちを除くと、おおよそ千七百人前後だと思います……」


 千七百人以上……。

 聖教国がどれほどの悪政を敷いているのか分かるな。


「ダイチ様、今日はとてもにぎやかですね」

「そうだな。ここまでいるとは思わなかったが」


《マスター、人族1,117名、獣人族605名、1,722名が住民になりました》

《マスターの拠点住民が2,500名を突破しました》

《拠点レベルが7に上がりました》

《レベルアップボーナスで700KP獲得しました》

《一日経過しました。25,120KP獲得しました》


 任務:〈No14〉を達成しました》

 任務:〈No14〉獣人族を住民にしよう。

 達成条件:獣人族を住民にする。

 達成報酬:10開拓ポイント。



 おー、大量のポイントだな。

 早速ステータスチェックといきますか。


 拠点:難民の町

 LV:7

 住民:2,511

 開拓:<召喚><強化><?>

 任務:48

 スキル:<念話共有><配置変更><住民鑑定>

 領域:半径25km、南側直径40km、クワトロ大森林南入口から半径2km

 KP:27,625(1日経過+25,120KP)


 

 名前が村から町に変わり、拠点領域がバカみたいに広がった。

 さらにスキル<住民鑑定>が増えた。


「プラン、<住民鑑定>って何だ?」

《その名の通り、住民を鑑定できるスキルです。試しに使用することを推奨します》


 ま、何となくは分かってたけど使ってみるか。

 念じればいいんだよな。


 ひとまず隣にいる、スフィアを鑑定する。


 名前:スフィア・エス・ドーラ

 LV:34

 性別:女

 年齢:318才

 種族:魔族

 適職: ダンジョンマスター・王女

 スキル:<ダンジョンクリエイト>

 称号:<ダンジョン開拓者>



 お、見えた。

 〈適職〉か、その者に適した職業が分かるというのは超便利なものだ。

 王女は職ではないと思うが、ここはスルーしておく。


「ひゃ!?」 


 300才越え!?

 思わず変な声が出てしまったじゃないか。

 見なかったことにしよ……。


 次はエリスとシルフィだな。


 名前:エリス・ウィンドウッド・エルフィン

 LV:49

 性別:女

 年齢:222才

 種族:エルフ

 適職: 妻・料理人・メイド長・大工

 スキル:<風魔法LV3><支援魔法LV7><料理LV8>

 称号:<料理上手><万能娘>



 名前:シルフィリア・ウィンドウッド・エルフィン

 LV:56

 性別:女

 年齢:215才

 種族:エルフ

 適職: 魔法使い

 スキル:<風魔法LV9>

 称号:<シルフに愛されし者>



「ぶはッ……!?」


 みんな色々すごいが年齢に目がいってしまう。

 エルフだから、やっぱりそうなのかと思っていたが。


「ダイチ様、どうなされたのですか?」

「領主様、顔色がよくありませんが大丈夫ですか?」

「ん。ダイチ、普通じゃない」

「だ、大丈夫だ……」


 待てよ。

 この世界に住む者たちは、みんな長寿かもしれないぞ。

 俺と同じ人間ならどうだろ?


 名前:ガトー・オーフレーズ

 LV:42

 性別:男

 年齢:35才

 種族:人族

 適職: 騎士隊長

 スキル:<身体強化LV8><剣術LV5><槍術LV8><統率>

 称号:<騎士の鑑>

 


「よかった、ガトーは普通で……」

「普通とは……? 領主様、いかがなされた?」

「いや、何でもない」


 案外、見た目より若いんだな。

 人って見た目じゃ分からんものだ。

 ついでにスミノフも鑑定しておくか。


 名前:スミノフ・ウッカ

 LV:20

 性別:男

 年齢:34才

 種族:獣人族

 適職: 大賢者・先生・秘書

 スキル:<算術LV10><解析術LV10><統計術LV10><指導>

 称号:<<<古の大賢者>>>

 


 え、俺と同い年ぐらいと思ったら、獣人族も見た目は若いのか。

 適職〈大賢者〉だと!?

 確かにスキルは全てLV10。

 コイツはとんだ逸材かもしれない。

 

「称号はバグか?」

《マスター、こちらはバグではなく、条件未到達のためロックされている状態です。残るは教会で神託を受けると解放されると断定します》


 つまり研鑽して条件は達成したが、教会で神託を受けないと、いつまでも経っても取得できないということか。


 教会か。

 あ、もしかすると……。


「ガトー、後は頼んだ」

「お、お任せください」


《任務:〈No52を達成しました》

 任務:〈No52〉住民を鑑定しよう。

 達成条件:住民鑑定をする。

 達成報酬:10開拓ポイント。

 

 ◇


 <強化前>   <強化後>

 壊れた教会 → 教会  500

 壊れた教会 → 大聖堂 2,500


     <残り27,635KP>

ーーーーーーーーーーーーーー



「お、やっぱり強化できるな」


 前回は強化できなかったが、あれから修復が進んでいたからな。


「どうせなら〈大聖堂〉にしておくか」


 いつものように轟音と地響きがする。

 真っ白な大理石の壁。

 両サイドに高い尖塔。

 大聖堂の正面には巨大な扉があり、ステンドグラスが幻想的な光を放っていた。


 これまたとんでもない教会、いや大聖堂だな……。


「おい、みんな見てみろよ! あの入口の石像は救世主様じゃないか?」

「あら? 本当ね。なんと神々しいのかしら」

「何と美しい……」

「こんなに立派な教会は初めて見たわ」


 住民が騒ぎ始めたぞ。

 また変な方へいかなければいいんだが。


「御領主様!? この壮大で神秘的な建物は、まさか教会ではありませんこと! わたくしのためにお力を使っていただいたのですね!」


 レーナが狩りから帰ってきたようだ。


「おいッ、レーナ! 途中で置いていくな!」


 レーナが魔物を引きずるのをやめたから、ルナリスが困ってるみたいだぞ。

 ま、シルフィがいるから大丈夫そうだな。


 それにレーナのために強化したわけではないが……一応そういう事にしておくか。


「そ、そうだな。レーナは聖女って言ってたからな。ま、教会というより大聖堂なんだが、好きに使ってくれて構わない」

「ありがとうございます! あぁ、なんて素晴らしい響きなのでしょう、ダイチ聖堂……」


 え?

 いやいや、大地聖堂じゃなく大聖堂だからな!


「これでわたくしもお祈りを捧げることができますわ。それでは、みなさん。今から聖女のわたくしがお祈りをさせていただきますわ。このダイチ聖堂で」

「いや、だから大聖…」「おい、レーナ。聖女が魔物をぶん殴ったり、引きずるようなことはしないだろ」


 おい、俺の話を聞いてくれ……。


「またルナリス姉様ったら、そのようなことはございませんわ。何度も言いますが、わたくしは聖女でございますわ」


 まぁ何にせよ、レーナが本当に聖女かどうかは鑑定すれば分かるか。


 名前:レーナ・ウィンドウッド・エルフィン

 LV:52

 性別:女

 年齢:220才

 種族:エルフ

 適職: 武闘家・神官・娼婦

 スキル:<身体強化LV9><回復魔法LV5><遠視><称号解放>

 称号:<鉄拳制裁><フェロモンの権化><聖女>



 確かに聖女の称号はある。

 だが、それに相反する適職と称号もあるぞ……。


 何にしても適職〈神官〉で、スキル<称号解放>とやらがあるから、スミノフの称号を解放してくれるな。


 何に役立つかは知らないが。


「みなさん、お待たせ致しました。それではダイチ聖堂の中へどうぞ」

「ダイチ聖堂じゃとッ! これは是非とも礼拝させていただかねばならん」

「わたしもお祈りしていただこうかしらね」

「キャーッ♡ みんな、ダイチ聖堂ですって。わたしここに通うことにしたわ」

「「「みんな見て。この神々しい教会はダイチ聖堂っていうみたいよ」」」 

 

 殺到しすぎだろ。

 またまた何でこうなるんだよ……。


 この日を境に、レーナは朝から祈りを捧げて、昼には森へ狩りに行く日々を送ることになった。

 住民たちは毎日礼拝するようになり、夜な夜な集会まで開くようになるのは、まだ誰も知らない。


 ◇


《マスター、称号を解放できる者が250名います》


 え、そんなにいるのか。

 称号持ちってレアのはずだよな?

 住民のうち十人に一人とかかなり多いな。


 とりあえず神託を受けてもらうとするか。


『レーナ、聞こえるか? 250名ほどお祈りしてもらいたいんだが?』

『あ、ダイチ神様のお声が……え、ええ。お一人、五分ほどで終わりますが、精神を研ぎ澄まさなければなりませんので一日十名が限界かと……』


 ん? 神様がどうのと聞こえた気がしたが、一日に十名か。

 気長に待つとするかな。

 一時間ほどで終わるなら、レーナは深夜遅くまでお祈りしてたと聞いたが、何をしてたんだろ?


『それじゃ、よろしく頼む』

『お任せくださいませ、御領主様』


《マスター、現状で称号を解放させたとしても、適職に合う職場が足りません。召喚することを推奨します》


 あ、そうか。

 職場が足りてないんじゃ意味ないか。

 でも、先に何を建てればいいんだ?


「お爺さん、大丈夫ですか?」

「あー悪いね、お嬢さん。足場が少しよくなれば杖も付きやすいんじゃがの」

「確かに足場が整備されていれば歩きやすいですよね。どうぞ私に掴まってください」


 スフィアが爺さんに手を貸すと、団地の方へと歩いて行った。


「うーむ、足場か。確かに白っぽいだけで砂利道なのは変わりないもんな。それによくよく見ればお年寄りも子供も増えたな」


 あ、先に住民の意見を聞けばいいだけの話か。


 <マスターの必須品>

 目安箱    5

 すごい目安箱 50

 

  <残25,135KP>

ーーーーーーーーーー


 目安箱か。

 そういや学校で習ったことがあったが、〈すごい目安箱〉って何……?


 目安箱:住民が意見や要求を書いて投稿する木箱。

 効果:不壊

 必要KP:5


 すごい目安箱:住民の本音が自動集約されるすごい木箱。

 効果:不壊

 必要KP:50


「おぉ、自動集約とかすごいな」


 人数も多いことだし、〈すごい目安箱〉を召喚。

 「ポンッ」と出てきた〈すごい目安箱〉から、溢れるほどの紙が大量に出てきた。


「早速、見てみるか」


 ◇


 現在の開拓ポイント:残25,085KP。

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