第18話 伝説の武器
「ダイチ殿、この短剣に我が家の家紋が刻まれているのだが、この弓も同じ家紋が刻まれているのが分かるか?」
ルナリスは二本の短剣と、井戸に立てかけていた一張の古い弓を俺に見せてきた。
「ん? あー、確かに同じマークだな」
以前、俺が豪華な装飾が付いただけで選んだ聖剣と同じく、この弓にも負けず劣らずの装飾が施されていた。
俺は弓道部でもなければ扱い方も知らないため、到底武器としては使えないと判断し、弓には目も向けなかった。
「ということは、この弓はルナリスの家の物ということになるな」
「それがあたし達には分からないんだ。ここで水を飲んでいた時に気付いたんだが、なぜこのような物がここにあるのか不思議でならない。あたし達エルフ族にとって死の荒野は禁断の地。村の者は決して立ち入ってはならない掟があるからな」
元現代人の俺からすれば、例え掟があっても、誰かが破って持って来るなど十分に考えられる。
もしくは他種族がここへ持って来たか、ここで作られたかのいずれかだろうな。
「ま、お前が分からなくとも、この弓はお前たちの物だろうから勝手に持って行くといい。あ、そうだ。アレを使ってみるか」
「アレとは何だ?」
俺は
「コレで軽く擦ると元通りになるぞ」
「これはタワシか?」
「ま、だまされたと思ってやってみろって」
「本当にこんな物で元に戻るとは思えないが……」
ルナリスは井戸水で洗いながら磨き始めると、ものの数秒で年季の入ったボロ弓が、光り輝き始めた。
「どひゃーッ!? ダ、ダダダダイチ殿! これは一体……?」
ルナリスが尻もちをついて叫んだ。
「お、この聖剣みたいに蒼くなったな」
《マスター、この弓は〈聖弓ミラテスラ〉と呼ばれる伝説の武器です。聖剣と同じく、莫大な魔力量を誇る武器の一つで、魔力を矢に変換して使用する貴重な弓ですす》
これも伝説の武器か。
ミラテスラって確か魔法国だったか。
ま、よく分からんが、これで二つ目だな。
とりあえず、伝説シリーズは蒼光りすることが分かった。
ただし、俺はいくら伝説だろうが使えない物に興味はないし、価値があったとしても、ここでは金に換えることもネットオークションに出すこともできない(元々、俺の物でもないし)
仮に金に換えれたとしても、ここでは必要ないので、ルナリスに有効に使ってもらおう。
「これは聖弓ミラテスラという伝説の武器だ。魔力を矢に変換して使うことができるようだぞ」
「伝説の弓……? そのような物を本当にいいのか?」
「元々お前たちの物だろ。好きにしろ」
「では、ありがたく使わせてもらう。これほどの弓であれば、あの森の魔物でも苦戦することは無さそうだ」
やっぱ苦戦してたのか。
無傷で帰って来たから、てっきりエルフなら余裕なのかと思っていた。
「あの森に棲む魔物は異常だ。レーナの回復魔法がなければ、あのデカ物にやられていたかもしれない」
回復魔法か。
あのお色気フェロモ…レーナが使えるのか。
「俺はここに来るまでの道中で、あの森で巨大な森のヌシに襲われた。運よく逃げることができたが、あそこには近付かない方が身のためだぞ」
「そ、そうか。だがここで生活していく以上は、無駄飯食らいにならないようにするさ。これ以上ダイチ殿に迷惑をかけるわけにもいかないからな。それに今はこの弓もある。その森のヌシとやらも、いつかあたしが狩ってきてやる」
あの化け物を本当に狩れるのか?
それが本当であれば何とも頼もしいものだが、あの森には化け物を飼い慣らす連中もいる。
いくら伝説の武器があっても気をつけてもらいたいものだ。
「せっかくだ。試し射ちでもするか」
ルナリスが弓を空に向かって構えると、突然眩い光りの矢が出現した。
放たれた矢が、「バシュッ」と音を立てて空へと切り裂き進む。
上空の厚い雲を突き破り、激しい光りが天を包み、死の荒野に一時の光が差し込んだ。
「すごいなこの弓は! 魔力を吸い取られた気はするが、これほどとは思わなかったぞ!」
確かにこれほどの威力なら、あの化け物でも倒せるかもしれないな。
それ以前に、森もただじゃ済まないだろうけど。
「領主様! ルナ姉様! 何があったのですか!?」
エリスが慌てて駆け寄ってきた。
「あぁ、エリスすまない。例の弓で試し射ちしてみたんだが、想像以上のことが起こってしまってな」
「例の弓? 我がエルフィン家の家紋が入っていた弓ですか?」
「そうだ。ダイチ殿のおかげで、あの古びた弓がこのような神々しいものになったんだ」
「領主様はやはり人族を越えたお力をお持ちのようですね。わたしごときのお料理で、ご満足いただけるか不安になって来ました……」
いや、不安になる所がそこかよ。
もっと、そんな危なかっしい弓とかあるだろ。
「さ、落ち着いたことですし、領主様。ルナ姉様もお夕食の支度ができましたので、どうぞいらして下さい」
◇
「どうぞ。こちらが特製ベアシチューです」
おぉ、これは所謂ビーフシチューだな。
どこから取ってきたのか分からないが、ジャガイモと人参、カリフラワーみたいな白い野菜が付け合わせにある。
そして俺は初めて魔物肉を堪能することになる。
「「「おッ、おおおおおおお美味しーいッッ!!」」」
「「うッ、ううううううううめえええええッッ!!」」
ブラッディベアという、いかにも凶悪な名前と見た目からは想像がつかないほど美味い。
ジビエのような野生味も感じられるが、これは何とも美味い。
《任務:〈No29〉を達成しました》
任務:〈No29〉魔物を食べよう。
達成条件:魔物肉を食べる。
達成報酬:10開拓ポイント。
「領主様のお口に合ったようで何よりです。他にもパンやお酒があればよかったのですが、今はこれが精一杯で申し訳ありません……」
「いや、十分だぞ。俺の方こそここまで美味いものが出てくるとは思わなかったぞ」
確かにパンや酒もいいが、今はそれはわがままというものだろう。
どうしても飲みたければ、シキさんにお願いしてガチャればいいのだ。
当たるかは分からないが。
「ダイチ殿、あたしとレーナで麦や酒を必ず手に入れて来るから、それまで待っていてほしい」
それはマジで期待したい。
今の楽しみは飲み食いしかないからな。
「また、わたくしですの!?」
「あっはっはッ。あたし達ができることは魔物を狩ることぐらいだろ? 村のことはエリスとシルフィに任せておけばいいんだよ」
「そうですが、わたくしの本来のおつとめは、お祈りですからね。エリス姉様、シルフィリア。教会の修繕もお願いしますわよ」
「ん。シルフィ、任された」
「あの教会を修復するには素材も人手も足りません。まだまだ時間はかかりますよ」
今お祈りと言ったか?
確か金持ちだけが<称号>の有無を確認できるものだったよな。
それなら、俺の<転生者>の詳細が分かるかもしれないな。
「レーナは神官なのか?」
「あっはっはっ! レーナが神官だって? そんなわけないだろ」
「ちょっとルナリス姉様、失礼ですわよ! わたくしはエルフ族のれっきとした聖女として、そのお役目をしていますのよ」
「レーナは聖女なのか。そいつはすごいな」
「ご、御領主様にすごいなんてお言葉をいただけるとは、では今夜にでも聖女のわたくしを味わってはいかがでしょうか?」
完全に性じ…そ、そっちの人だな。
「ダイチ殿、レーナはビッチだが経験はないから心配しなくて大丈夫だぞ?」
「ちょっ、ちょっと! ルナリス姉様ったら何てことを言うのですか!?」
「こら! ルナ姉様もレーナも! そういうはしたないお話を領主様の前で言うものではありません!」
「ん。シルフィもそう思う」
その後も、にぎやかな食事会が続き、他愛もない女子会トークをマジマジと見ることになったが、四人との距離が少しは縮まった。
その後、自宅に帰った俺は慣れない女子会トークに気を使ったせいか、ベッドに倒れるように眠りに落ちた。
◇
「おい!? お前達、あの光りを見てみろ!」
「父上、あそこに村が見えます」
「ねえねえ、父ちゃん。あれなーに?」
「すっごいピカピカしてるねー」
「死の荒野にあのような……あぁ、これはティシリス神様のお導きかもしれないわ」
「お前達もう少しの辛抱だ。頑張ってくれ」
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