番外編その1【スフィアの日記】
私はスフィア。スフィア・エス・ドーラという魔族の王女で、ダンジョンマスターをしています。
といっても、今は元王女というべきですね。
時間ができたので、毎日書き記していた日記をまとめてみようと思います。
◇
〜私のダンジョン日記〜 300年間の総まとめ。
「お父様、お母様。仇を討てなかった娘をどうかお許しください……」
蒼く輝いていたダンジョンコアも、今や血のように赤く染まり、刻一刻とダンジョンの終わりを告げていた。
「私の命は、本日をもって最後となります……」
ダンジョンマスターとして、目標である100万DPを貯めるために、これまで300年ほど頑張ってきました。
本来のダンジョンマスターは、ダンジョンをより大きく、強固に凶悪にし、世界へ浸出するのが目的となりますが、私だけは違います。
忘れもしない300年前のことです。
ゼルディウスという魔族の副官が反旗をひるがえし、私の父である魔王を裏切ったのです。
ゼルディウスは魔王となり、世界を征服する。
なんと愚かな考えでしょうか。
ただ自分の欲のために、私のお父様とお母様を手にかけ、魔王となったのです。
さらには自分の娘を王女にするため、邪魔だった私を遠く離れたこの地へ追放するだけでなく、強制的にダンジョンマスターにさせられてしまう呪いを受けてしまいました。
「思い出すだけでも腹立たしいですね……」
父と母の仇を討つ思いで、これまで必死に頑張ってきました。
幸い、ここには大きな湖や森があり、多くの種族や自然発生する魔物が沢山いましたので、思った以上にDPを増やすことができました。
40年ほど経った時です。
ダンジョンを広げれば、魔国に住む友人に助けを求めることができるかもと考え、ダンジョンを魔国がある北へと広げていきました。
「結局、帰らずの森の入口周辺までしか広げることができませんでしたね……」
あと少しでDPが貯まるという時に、ある出来事が起きました。
それは後に、英雄戦争と呼ばれる魔族と人族の戦いでした。
戦いは日に日に激化し、たくさんの者が死に、地上の湖は枯れ果て、やがてダンジョンには魔物一匹足りたりとも訪れることはありませんでした。
ダンジョンの様子を見に行こうと思いましたが、なぜか外に出ることができません。
原因を確かめようと、私の長年相棒であるインビジブルスライムに様子を見させに行くと、とんでもないことが判明しました。
いつも開くはずのボス扉に、大規模な魔法障壁が展開されていたのです。
さらに魔法陣の形状から、強行派の仕業だということも分かりました。
そればかりか、なぜかDPが減っていくのです。
もう諦めようとしたその時です。
突然ダンジョンコアが警報を鳴らしました。
それも英雄戦争以来の大きな音が、コアルームに響き渡ります。
警報の原因は、帰らずの森に突如として計り知れない力を持った者の反応を感知したためです。
私はすぐにインビジブルスライムに偵察へ行かせました。
すると、そこに映ったのは若い男の人族だったのです。
木の陰から見るように指示をして待機させていたのですが、突然彼が立ち止まり、見えないはずのインビジブルスライムを認識したかと思うと、不思議な黒い武器を変形させて、こちらに迫って来たのです。
さらに黒い剣から盾へと変形する奇妙な武器を使い、視界をふさがれ、身動きも取れないまま踏み倒されてしまいました。
たった一撃です。
認識阻害、物理攻撃無効、聖属性以外は完全に無効化するインビジブルスライムを、いとも簡単に討伐する彼なら、私を救ってくれる力があると思いました。
しばらく魔力反応だけを追い続けていると、魔国に棲むはずの魔獣が、彼を追っているではありませんか。
どうしてあの森にいるかは分かりませんが、あの者であれば大丈夫だと確信していました。
「あれほどの力を持つ者は、世界でもそうはいないでしょうからね」
案の定、森を出ると地上にある人族の勇者村にやって来ました。
あ、勇者村というのは、かつての英雄戦争時に作られた対魔族の拠点です。
「今となっては廃村ですね……」
本来はもっと大きな拠点だったのですが、形あるまま残ったのが、今の小さな村です。
荒野にこの村だけが形を残しているのも、ダンジョンコアの魔力があるためですが……。
「ここは書かなくてもよさそうですね。消し消し……」
私は残されたわずかなDPを使って、あの者に念話を飛ばしました。
『見つ……け…た……け…て』
ここから距離があるためか、封印魔法が妨害しているのか、うまく届きません。
『教会にある祭壇を見つけてください。私を助けてください!』と、念話を送りました。
DPで使用する念話は、私から一方的に送ることしかできません。
念話が届いているかどうかは分かりませんが、あの者ならば、きっと届いているに違いないと信じて何度も送ります。
そのおかげでしょうか。
教会から地下に繋がる道を見つけてくれました。
「さすがですね。もはや私の英雄です」
ダンジョンマップを見ながら念話で誘導していると、スライムハウスで立ち止まってしまいました。
何をしているのだろうと思いましたが、私に残された時間はないのでドキドキです。
進み始めた頃には一時間ほど経過して、しばらくしてから再度念話を送ります。
『そのまま真っ直ぐお進みください。私は扉の奥でお待ちしています』
ようやくボス部屋の前まで来てくれました。
ここからが本番です。
直接会ってお話をすれば、きっと力を貸してくださると思い、必死に説得を試みます。
ですが、扉を開ける気配はありません。
「あの、まだでしょうか!? 私は悪い者ではありませんから!」
私は思い切って扉越しに大声で言いました。
「そんなに来てほしければ、お前がこっちに来い! 第一に自分から悪いヤツじゃないなんて言うヤツは大体悪人だ」
すると、彼が応えてくれました。
あまりに無我夢中だったので、彼に言われるまで気付きませんでしたが、ボス部屋の中から誘導する者に、善人がいようとは誰も思いません。
私は悪者ではないと伝えても、きっと信じてもらえない。ですから私は必死に説得を続け、最後は冷たい紅茶と、お茶菓子で納得していただけました。
対面して彼を見た時に驚いたのは、とても素敵な男の子…「コホンッ……」
伝説の聖剣エルエスを装備していました。
エル・エスドーラ興国で作られた伝説の剣で、私も幼い時に叔父に見せてもらった記憶があります。
(ワシの最高傑作を心意気のよい若者に譲ってやろうと思っとるのじゃ)
叔父との記憶が蘇ります。
あ、私は魔族とはいっても、母が人族のハーフです。
ゼルディウスに執拗に狙われていたのも、純粋な魔族の血族ではないからだと思っています。
「話が逸れてしまいました」
英雄戦争で使っていた勇者が隠していたのでしょうが、黒の武器もとても禍々しく戦慄さえ覚えました。
コアルームまで案内して、お茶を飲みながら話を続けていると、突然彼が立ち上がって言いました。
「あー、うまくいけば、お前の呪いを解除できるかもな」
私は感極まって膝をついて泣いてしまいました。
続けて彼は言いました。
「ただしお前の呪いを解くには、俺の拠点の住民になってもらう必要がある」
住民になるというのは、勇者村に住めばいいだけのことでした。
そんな事で呪いが解けると思いませんでしたが、彼が言っているのだからと、信じることにしました。
「あ、あの! その魔法障壁はものすごく強力な魔法で、いくら貴方様でも…」「バリーンッ!」
まさかあれほどの大規模な封印魔法を、いとも簡単に打ち消す力があるとは思いませんでした。
彼の持つ伝説の聖剣と禍々しい黒の剣。
これほどの力は、ゼルディウスが持つ魔剣以上のものです。
おかげでボス部屋の帰還魔法陣も作動できるようになり、一見落着となりました。
呪いが解除されたおかげで、ダンジョンコアが蒼い輝きを取り戻し、今まで貯めてきたDPも戻ってきました。
両親の仇討ちもいずれ成し遂げたいと思いますが、命の恩人のダイチ様に忠誠を誓い、役に立つ女としてお側に仕えさせていただこうと思っています。
「おしまい。と」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます