第15話 難民がやって来た

 異世界生活3日目の朝。


「おはようございます。ダイチ様」

「ん? あ、おはようスフィア……って、何でお前が俺のベッドにいるんだよ!?」

「あら? 何か問題でもございましたか?」

「問題しかねえよ!」


 朝起きると、きわどい姿のスフィアが俺の隣にいた。

 部屋割りを決めたにも関わらずだ。


 家屋(大)は風呂もトイレも各階に設置されている

こともあり、一階は俺、二階をスフィアにした。


 昨夜も露天風呂に俺がいるというのに、平気で全裸で入ってきたり、魔族という種族なのか、王女なのか、どこか羞恥心というものがなかった。


 スフィアを部屋から追い出した俺は、井戸水で洗濯をしたスーツに着替えて、一度外に出ることにした。


《マスター、南から難民と思わしき者達がこちらに向かってきています》

(難民だと!? 数は?)

《四名のエルフ族の女です。かなり疲弊していると推定します》


 俺は一応の用心のため、聖剣と傘を持って教会まで急ぎ向かう。


「ダイチ様! プラン様から連絡があってエルフの難民がやって来ると……剣を持っているところを見ると、すでにお気付きのようですね」

「あぁ、敵ではないと思うが、一応の警戒は必要だからな。スフィアは家に帰って避難しといてくれ」


 さすがに女の子を危険な身に晒すわけにはいかない。


「ダイチ様、私もお供させていただきます。最悪の場合は私を盾にしてお逃げください」


 盾にして逃げろだと……それはこっちのセリフだ。

 どうしてもついて来ると聞かないので、ひとまず俺の後ろにいるようにした。


 教会に着くとエルフたちが見えた。


 それにしても全員が絶世の美女だ。

 エルフの特徴的な長い耳と背中に担いだ弓。

 そして抜群のスタイル。


 まさに俺が知っているエルフそのものだ。


「そこで止まれ。俺の村に何の用だ?」


 俺は威勢を張って話しかけた。

 すると、腰に短剣を差した赤髪のエルフが一歩前に出る。


「⌘⁂‥〻∬§∵‰▱⊿†⊥―・・」


 何言ってるか分からねえ……。


「スフィア、あいつが何言ってるか分かるか?」

「は、はい。えと、若き長よ。突然の来訪を許してほしい。我々は南のクワトロ大森林の村に住むエルフ。私はリーダーのルナリスと申す。ここまで五日も飲まず食わずで、せめて水だけでも恵んではいただけないだろうか? どうか助けてほしい。と、言っていますね」


 五日間も飲まず食わずだと……。

 飯ならまだしも、水がなければ普通の人間ならとてもじゃないが生きられないよな。


「あ、ダイチ様。少々お待ちください。えとDPを……」


 スフィアがディスプレイを出して何かを始めた。


「ダイチ様、これで言葉が分かるようになったと思いますので、話しかけても大丈夫かと」


 もう分かるのか?

 とりあえず話しかけてみるか。


「俺はこの村の領主、切開大地と言う。この奥に井戸があるので案内しよう」

「ほ、本当か! それは助かる。みんな、もう少し頑張ってくれ」

「た、助かったのですね……」

「干からびる所でしたわ……」

「ん。水〜」


 エルフたちは安心したためか、暗い表情から笑顔になった。


 それにしても、なぜ言葉が分かるようになったんだろ。

 DPで何かしたのは分かるが。


《マスター、スフィアは<言語理解>というスキルをマスターに付与したようです》


 <言語理解>か。

 どんな言葉も分かるようになるというのは知ってるんだが、スフィアはそんなことまでできるんだな。


 俺の開拓とは違って、自分以外にもスキルを付与できる辺り、ダンジョンマスターも汎用性が広そうだ。


 そういや、スフィアのDPってほとんどなかったと思うが、スキルを付与するのにDPは使わないのか?

 暇な時にでも聞いてみるか。


「ルナリスと言ったな。ひとまずそこの井戸水を飲んでくれ」

「すまない、若き長よ。みんな水だぞ」


 エルフ達が水を飲んでいる間に、俺はご飯を用意してあげることにした。


 もちろん、俺も朝飯はまだ食べていないので、スフィア合わせて6名分提供することにする。


【☆麺フェス開催中☆冷たい料理は冷たいまま、温かい料理は熱々ホカホカがモットー! 本日限定! いざ、レッツチャメンジ!】


 鉄:消費期限切れのゲテ麺。

 銅:鬼切り麺、カップ麺、駄麺。

 銀:食堂のうどん、居酒屋名物焼きそば。

 金:濃厚オーク骨ラーメン、特製パスタ盛り合わせ。

 虹:超豪華フル麺コース、究極麺懐石、満麺全麺。



 今日もフェスだと……。

 まぁ麺なら消化は悪くはないか。


 それより単発6回は時間がかかるし、何日も食べてないなら一人一食は少ないか。

 いや、逆に胃に負担がかかるから少量の方がいいと聞いたことがあるが、エルフだしな。


「ま、仮に残れば蓋を開けずに昼にでも食べるか」


 色々と考えた結果、10連ガチャに決めた。

 初の10連は、金2個、銀4個、銅4個。

 最臭最終兵器〈鉄〉が出ることはなくて一安心だ。


《任務:〈No22〉を達成しました》

 任務:〈No22〉料理ガチャでノーマルを当てよう。

 達成条件:料理ガチャで銅色の蓋を当てる。

 達成報酬:10開拓ポイント。


《任務:〈No20〉を達成しました》

 任務:〈No20〉料理ガチャの10連ボタンを押そう。

 達成条件:料理ガチャを10連召喚する。

 達成報酬:100開拓ポイント。



「お、今回も100KPだな」


 ちなみに任務〈No10〉の達成報酬も100KPだったことを考えると、10、20、30と、キリのいいNoで100ポイントもらえることが分かった。


 これは何気にでかい。


「お前たちが空腹だと思ってな。とりあえず今は好きなだけ食べてくれ」


 それぞれ蓋を開けていくと、何ともたまらない美味そうな香りが漂う。


 エルフたちの虚ろな瞳が、一瞬にして獣を狩るかの如く生気を取り戻した。


「「「おッ、おおおおおおお美味しーいッッ!!」」」

「「うッ、ううううううううめえええええッッ!!」」

「なッ、ななななななんて美味しいのでしょうッ!!」


 各々が、「ズルズル」と爆速で麺をすすっている。


 いきなり知らないヤツを家に入れたくはなかったので、ひとまず広場にキャンプテーブルとイスを追加しておいた。

 

「ダイチ殿、こんな美味なるものは生まれて初めてだぞ」

「それはよかった。だが急いで食べると体に毒だぞ」

「私たちエルフは人族よりもずっと体は強い。心配せずとも大丈夫だぞ」

「ルナ姉様、命の恩人に対してそのような物言いはいけませんよ。領主様、姉のルナリスに代わり、わたしエリスからもお許しくださいませ」


 姉ってことは、こいつらは姉妹か?


「ん。シルフィからもお願いする。ダイチ、ご馳走まで用意してもらってグッジョブ」

「こら、シルフィリアまで領主様に向かってなんて言葉遣いを。レーナも黙ってないで何とか言ってください」

「御領主様、この度は感謝を申し上げますわ。このご恩はこの体でもよろしいでしょうか?」

「か、体ですって!? ダ、ダイチ様、それでしたら私をお使いください」


 おい、何を言っているのか分かっているのか。

 さっきまで疲弊していたはずが、エルフって突然元気になるものなのか(別の意味も含めて)


 これも料理シキさんのおかげかもしれない。

 あの量を平らげるとは思わなかったが。


「元気になって何よりだが、もう食べ物はいいのか?」

「あたしはまだまだ食べれるぞ、ダイチ殿」

「ん。シルフィもまだいける」

「みなさん、これ以上はいけませんよ」

「わたくしもまだまだ食べれますわ」

「ダイチ様、これ以上はお止めになった方がいいかと思います」


 スフィアに言われ、追加はやめることにした。

 飯も食べたことだし、俺は本題に入る。


「それで、なぜこんな所に来たんだ?」

「それはあたし、ルナリスから話させていただく。実は―・―・・」

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