第23話 侵入者

《ビーッ! ビーッ! マスター緊急任務です!》

「うるせえ! いま何時だと思ってんだ!」

「ひゃいッ!? も、申し訳ありません、ダイチ様!」

「あれ? スフィアか。なんでそんな所に突っ立ってるんだ?」

「い、いえ…べ、別に寝込みを襲おうとか、いつものように裸で抱きつこうとかではないですからね?」

「――いつも…」《マスター緊急任務です!》


 え、緊急任務?


 緊急任務:〈No2〉侵入者を排除しよう。

 達成条件:侵入者から拠点を守る。

 達成報酬:1,000開拓ポイント。尚、未達成の場合は、500開拓ポイントのペナルティを受ける。



「侵入者!?」

「ダ、ダイチ様。決して私は侵入者などではなく……あれ、どちらに行かれるのですか?」

「侵入者だ。敵が来たんだよ」

「そ、そういうことでしたか……」


《マスター、南から25匹のシルバーウルフと人狼族が近づいてきます》

「プラン、念話でみんなにも伝えてくれ」

《それでは<念話共有>を行います》


 寝室に置いてある聖剣と傘を手に、急ぎスフィアと外に出る。


「ダイチ殿! 突然、頭の中で声が聞こえて飛び起きて来たところだが」

「領主様、わたし達も同じです。敵がやって来ると……」

「みんな悪いな。そいつは俺の相棒のプランだ。詳しいことは念話で教えてもらってくれ」


 さすが、というべきか。

 すでに武装したルナリスたちが家の前で集まっていた。


「まさか、こんなに早く敵が来るとは思わなかったな」

「ダイチ殿、すまない。ヤツらはあたしたちを追ってここに来たんだ。この落とし前はあたしたちだけでする」

「気持ちは分かるが、お前たちはもう村の住民だ。ガトーだって、そんな真似はさせないはずだ」

「もちろんです。私も皆と同じく戦います」

「ガトー殿まで、すまない」


 さて、どうするか。


「「「ワオーンッ!」」」


 シルバーウルフの遠吠えが聞こえる。

 すぐにここへやって来るだろう。

 

「俺とルナリス、レーナ、ガトーは教会前でヤツらと直接交戦する。ただし俺が合図するまで動くんじゃねえぞ」

「了解した」

「わたくしが殴り倒してみせますのに、待機なんて残念ですわ」

「敵を引きつけるということですな」

「エリスとシルフィは後方で援護を頼む」

「承知しました」「ん。了解」


「スフィアは後方待機だが―・―・・」


 ◇


「やつら気付きやがったのか。それにこの臭いは……人族か。ゲヒヒヒッ、餌が増えて助かるぜ。エルフ共は迎え討つつもりだが、このガルガ様には関係ねえことよ。おい、野郎ども! このまま正面突破で突っ込むぞ!」


 お、アイツが群れのリーダーだな。

 それにしても、あんな大剣よく持てるな

 

「ダイチ殿、アイツは大剣のガルガだ。人狼族の中でも二番手の実力者。ここはアタシが引き受ける」

「だから動くなと言ってるだろ。ま、そう焦るな」

「領主様は余裕があるように見えるが、何か策でもお有りのようだ」

「当たり前だ。まともにやり合うほど俺は脳筋じゃないんだ。戦いなんて始まる前から結果は見えている」


 本当は怖くて直接戦いたくない、なんて言えない……あの狼、2mぐらいあるし。


 ま、策があるのは本当だけど。


「いたぞ! エルフ共を捕らえろ!」

「「「ガルルルルッ!」」」


 そのまま、まっすぐ石橋を渡って来るか。

 ま、そこ以外道はないからな。


「待たせたな、ルナリス。今だ!」

「おおおおぉッ! 食らえええぇッ!!」


 ルナリスの周囲に突如として風が吹き荒れる。

 彼女の髪を舞い上げながら、聖弓ティシリスが高い音を立て、魔力矢が大地を切り裂きながら突き進む。


「ッ!? 野郎ども回避だッ!」


 嘘だろ……あいつアレを避けるのかよ。

 さすが人狼と狼といったところか。


「ダイチ殿、すまない。何匹か仕留めたが」

「問題ない」


 左右に避けたガルガたちが、またしても石橋を渡ろうと密集しながら突進してくる。


 俺はすぐに<配置変更>で、石橋を空中へと移動させた。


「「「キャヒーンッ!?」」」


 シルバーウルフは、突然浮き上がった石橋に、続々と堀に落ちていった。


 さらに移動速度減少堀の効果を受けて、ヤツらは這い上がることができない。


 今がチャンスだ。

 俺は空中で待機状態の石橋を、掘で動けないシルバーウルフ目掛けて落下させる。


「悪いな、犬っころ! 必殺、石橋落とし!」

「「「ギャヒンッ!!」」」


 我ながら素晴らしいネーミングセンスだ。

 本来ならミンチになっているはずだが、光となって消えていった。


 食えない魔物で精神的によかった。


「クソがッ、変な魔法を使いやがる……まとめて肉塊にしてやるッ!」


 ガルガが大剣を構えて、何やら力を溜め始めた。


 アイツ、魔法でも使うつもりか?

 ま、何してるか分からないが、俺は敵の攻撃を待つつもりはない。


「させるかよ、シルフィ!」

「ん。ウインドストーム」


 雷鳴が轟き、稲妻が空を裂き、暴風が吹き荒れる。

 ガルガたちは巨大な竜巻の上昇気流に飲み込まれた。


「まだまだこれからだ! エリスは支援魔法をかけろ」

「は、はい! ウインドクイック」

「ルナリス、シルフィはあの竜巻に向かってもう一度打ち込め!」

「了解! 食らえッ!!」

「ん。ウインドカッター、ウインドカッター、ウインドカッター、ウインドカッター、ウインドカッター」


 は、早え……。

 あのシルフィがここまで早く動けるようになるのか。

 ウインドクイックは速度上昇魔法のようだ。


「右前方から四匹来たぞ! レーナ、ガトー!」

「お任せを!」「おうよ!」


 早ッ!?

 二倍速で見えるんだが……。

 ま、あの四匹は、二人に任せておいて問題はないな。


「ダイチ殿、ガルガもあの竜巻を食らっては生きてはいない。あたし達の勝ちだな」


 おい、ルナリスよ。

 いらぬフラグを立てるんじゃない。


「まだだ。まだ足りない」


 漫画やラノベは、このまま攻撃が落ち着くのを待つ。

 だがそのせいで、後から主人公はピンチに陥るパターンが多い。


 俺はそんなヘマはしない。


「今だ、スフィア!」

「はい! オンに切り替えて人狼族とフレンドリーファイアをオフに……ダイチ様完了しました!」


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッッッ!!」


 竜巻が吹き荒れる中、レッドドラゴンが雄叫びを上げて出現した。


「レッドドラゴン! シルバーウルフ共を焼き殺せ!」


 レッドドラゴンという名前だけで、ブレスがあるという予想は的中した。

 案の定、竜巻とドラゴンブレスで目の前は大惨事になっている。


 木柵と堀は〈不壊〉だから問題ないし、我ながらなかなか見事な作戦だ。

 かく言う俺は、エリスにバフをかけられたが何もしてない……。


「御領主様、仕留めましたわ」

「あのレッドドラゴンまで出てくるとは、これでは跡形もありませんな」


 徐々に静けさを取り戻し、風が止んだ時にはボロボロのガルガが立っていた。


 あれでも生きてるのかよ……。

 マジもんの化け物だな。


「た、ただで済むと思うなよ、虫けら共ォッ!!」

「お前らが勝手に攻めて来ただけだろうが」

「この借りは必ず返す! 捕らえたエルフも皆殺しにしてやる! ゲヒヒ、ゲヒヒヒッ!」

「あれはまさか、シルフィ逃がすな!」

「ん。ウインドバレット」


 ガルガは手に握った小さな水晶を地面に叩きつけると、忽然と姿を消した。


 あのパターンで考えられるのは、力を得て変身するか、自爆するか、逃げるかの三択だからな。

 ま、前世での知識だが、嫌な予想が当たってしまったな。


《緊急任務:〈No2〉を達成しました》

 緊急任務:〈No2〉侵入者を排除しよう。

 達成条件:侵入者から拠点を守る。

 達成報酬:1,000開拓ポイント。


《任務:〈No65〉を達成しました》

 任務:〈No65〉住民にB級の魔物を狩らせよう。

 達成条件:住民がB級の魔物を狩って来る。

 達成報酬:10開拓ポイント。 


《任務:〈No70〉を達成しました》

 任務:〈No70〉拠点に襲来する魔物を1匹討伐しよう。

 達成条件:拠点に襲来する魔物を1匹討伐する。

 達成報酬:100開拓ポイント。


《任務:〈No71〉を達成しました》

 任務:〈No71〉拠点に襲来する魔物を10匹討伐しよう。

 達成条件:拠点に襲来する魔物を10匹討伐する。

 達成報酬:10開拓ポイント。



「くそッ、逃げられたか……」

「やつら仲間を殺すつもりよ……こうしてはいれないわ」

「わたくしたちで助けに行きますわよ」

「ん。シルフィもそう思う」



《マスター、緊急任務が発生しました》


 緊急任務:〈No3〉本日中にエルフ族を救助しよう。

 達成条件:本日中にエルフ族を救助する。

 達成報酬:2,000開拓ポイント。尚、未達成の場合は、1,000開拓ポイントのペナルティを受ける。



 緊急任務が終わったと思ったら、また緊急任務。

 次はエルフ族の救出か。

 ま、元々そのつもりなんだが。


「待て。そのことなら俺に作戦がある」


 ◇


「ク、クロウ様。すまねえです。エルフ共は死の荒野の村にいやしたが……。こ、この恨み、喰い殺さねえと気が収まらねえです」

「ガルガよ、エルフは生け捕りにしろとの命令だ。貴様はいつからそんなに偉くなった? たかがエルフのメスにやられるとは、人狼族の恥晒しもいい所だ。昔馴染みでテメェを置いていたが、醜態をさらす愚か者には、このクロウ様が始末してやる」

「お、お待ちくだせえ! ギ、ギャアアアーッ!」

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