第28話 緊急任務と暴走馬車

「改めまして、私はフェインと申します。領主様、私たちを受け入れて下さり、ありがとうございます。ガトー隊長と同じくして、王国から聖教国へ移り住んだのですが、内政悪化により亡命して来たのです」


 あれからガトーにフェインを連れて来てもらい、新しく建てた大豪邸に招待した。

 客室には俺とスフィア、ガトー、フェインの四人で一度事情を聞くことになった。


「あぁ、すでにガトーから話は聞いている。フェインたちもプランから伝達があった通り、すでに寝床も確保してあるし、食料は畑や木があるから自由に採って構わない。肉はまだしも、魚までは食えないが」

「いえ、こうして食料と水があるだけでも助かります」


 肉はルナリスとレーナが狩ってきてくれるが、さすがに住民全員分の確保となると、狩猟チームでも組まない限り、現状難しいだろうな。


 シキさんにお願いするのも住民全員は不可能だ。

 ま、今後の課題だな。


「領主様、ここへ来て早々で厚かましいのですが、一つお願いがあるのです」

「何だ、お願いって?」

「実は私たちの他にも、死の荒野を渡る者が数多くいまして、その者たちもこの村へたどり着くはずなんです……」


 その者たちを助けろというわけか。


「領主様、私やフェインだけでなく、聖教国からは何百、何千と亡命を試みる者がいます。是非ここで住まわせてやってほしいのです。食料が足りなければ、私とフェインも、ルナリス殿たちと共に狩りに行かせていただきます。どうかお願い申す」

「私はガトー隊長の右腕を務めております。魔物との戦闘経験は慣れてますし、必ずやお役に立ってご覧にいれます。どうかお願いします!」


 予想通りだな。

 ま、住民が増えればKPも増えるし、そもそもこの村をでかくすることに変わりはない。


 むしろ嬉しいお願いだな。


「フェイン、ガトー。俺は何人でも歓迎するぞ」

「あ、ありがとうございます!」「感謝致します」


 さらに忙しくなりそうだな。

 楽しいからいいけど。


「ダイチ様、住民も増えましたし、皆の者にお役目を与えてはいかがですか? 私のDPも少しずつ増加はしていますが、またあの様な魔物が襲って来るかもしれません。連携や統率を図るためにもいいかと」

「そうだな。手始めに外敵からの見張りと、村の治安のために警備隊でも結成するか」


 ま、拠点に何者かが侵入した時点でプランから警報が鳴るが、村の住民は分からないかもな。

 住民が増えれば、見えない所で悪さをする輩も出てくるかもしれない。


「それでは私とフェインが警備隊をさせていただきます」

「分かった。ではガトーとフェイン、よろしく頼む」


 今はこの二人だけでいいだろう。

 今後、住民が増えて二人だけで厳しいようなら、他の者たちを集えばいいだけだし。

 

「「承知しました!」」

「なら決まりだな。フェインもこれからよろしく頼む」

「よろしくお願いします!」


 フェインとガッチリと握手をして話を終えた。


 俺は慣れない豪邸から外に出て、村を見回ることにした。


 住民たちは続々と長屋に住み始め、それぞれが温泉に行ったり、広場でスラポンをしていたり、子どもたちが駆け回る姿を見かけるようになった。


 南の教会も少しずつ修繕が始まり、いつのまにかエリスだけでなく、みんなが協力するようになっている。


 一応、教会も<強化>できると思ったが、まだ形として成していないのか『強化できません』と表示された。


「「「おおおおおおおおおおおおおおぉッッ!!」」」

 

 突然、歓声が上がった。

 何事かと思い、見に行くことにした。


「ダイチ殿! 今回は大物が取れたぞ!」

「いつもいつも! ルナリス姉様は! レーナ使いが! 荒すぎる! のです! わ!」


 ルナリスとレーナが、また魔物を引きずりながら帰ってきた。


「あっはっはっ! 今日はあのデカ熊より大物を狩ってきたぞ!」


 全長8m、黄金の毛を生やした巨鳥。

 聖弓で頭を射ち抜いたのか、胴体のみ縛られていた。


《マスター、あの魔物はフライノドンと断定します。各国で高値で取引されているA級の魔物です》


 そういえば鳥が飛んでいるのは何度か見たが、この鳥だったかもな。

 まさか、ここまで大きいとは思わなかったが。

 

 ルナリスが解体を済ませると、揚げ物のような香ばしい香りが漂ってきた。

 何とも美味そうだ。


「シルフィ、後は頼む」

「ん。シルフィ任された」


 シルフィが解体された肉を風魔法で運んで行く。

 この光景も見慣れてきた。


 これだけの量があれば、村全員に行き渡るかもしれないな。


 ちなみに、ルナリスに風魔法でさばけないのか聞くと、手捌きのほうが綺麗にできるし、何より肉に失礼だという謎の返事が返ってきた。


「そうだ、ダイチ殿。ここに馬車が向かって来ているぞ」

「御領主様、わたくしもルナリス姉様とスキル〈遠視〉で確認しましたので間違いないですわ」


 〈遠視〉って遠くの物が見れるスキルか。

 二人共使えるんだな。


 ま、そんなことよりも馬車か。

 また難民でも乗っているのか?


《マスター、緊急任務が発生しました》


 緊急任務:〈No4〉ドワーフ族が乗る暴走馬車を止めよう。

 達成条件:ドワーフ族を全員救助する。

 達成報酬:3,500開拓ポイント。尚、未達成の場合は、1,750開拓ポイントのペナルティを受ける。



 ドワーフの救出?

 確かドワーフは小柄で頑丈な体、鍛冶や採掘の名人が多いんだよな。

 近くにドワーフの国があるということか。


《ここより西に〈エルエス・ドーラ興国〉があります。詳細は直接聞くのがいいかと断定しますが、急ぎ対応することを推奨します》


 ドワーフも見たいし、ペナルティも痛い。

 助けてやるしかないよな。

 

「みんな、馬車が暴走しているようだ。救出に行くぞ」


 ◇


「あの砂煙だな」

「息子よ。ここはワタシたちエルフに任せなさい。それに古くからエルフとドワーフは聖水と魔油の関係だが、我らエルフ村の一族だけは交流がある。共に話を聞かせてもらうぞ」


 プランからドワーフが来ると皆に伝達してもらうと、アイルが真っ先にやってきた。

 ついでに他の者たちも野次馬のように待機している。


「おい止まれ! 馬車を止めろッ!」


 制御不能か。

 このままだと堀に落下する。

 木柵で止めると正面衝突で大事故だし、ここはアイルを信じて任せてみるか。

 

「ワタシたちで馬車を止める。皆の者! 展開準備!」

「「「はっ!」」」


 暴走した馬車が突撃してくる。


「ご、ごめんなさーい! 止まらないんだーッ!」


 子供の声が聞こえた。

 乗っているのは子供だけなのか?


「今だッ!」

「「「ウインドウォール!」」」


 アイルたちの風魔法により、見えない風の壁が前方に展開された。

 馬が「ヒヒンッ」といななき、馬車の勢いが弱まっていく。


「「「わ、わわわわわわわわわわわわわーッ!!」」」


 だが結局、馬車がゆっくりと堀に落ちた。


 見たところ馬はいななき、子供たちの泣き声がするから大事にはなっていないだろう。

 ま、仮に怪我をしていたとしても、ここにはスーパー温泉があるからな。


「おーい! 大丈夫か?」

「「「た、助けて。動けないよ……」」」


 さすがはドワーフといった所か。

 怪我一つしていないようだ。

 

「お前たち、引き上げてくれ」


 緊急任務:〈No4〉を達成しました》

 緊急任務:〈No4〉ドワーフ族が乗る暴走馬車を止めよう。

 達成条件:ドワーフ族を全員救助する。

 達成報酬:3,500開拓ポイント。


 ◇


「同盟破棄じゃとッ!? これまで我々がどれほど聖教国に寄与して来たと思うとるッ! アドマギア帝国やミラテスラ魔法国も黙ってはおらぬぞ。クラン大使よ、一体何があったというのだ?」

「はっ、我々を懇意にしていただいた聖司祭様が突然引退され、新しく就任された聖司祭様の方針なのですが、何やら不審な点が多く―・―・・」

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