いざ、藝祭―11

 くそぅ。浅尾っちやヒデのことは噂しとるのに、おれの話題は一切出えへんないか。なんでや? おれかて目立つやんか。なぁ?

 

 いやいや、慌てるな。おれが本領を発揮すんのは、本番や。得意のパフォーマンスで、レディたちの視線を釘づけにすんねん。

 

 そのためにも、この御輿は立派に仕上げなあかん。稀代のパフォーマーISSAを引き立たせる、大事なアイテムやしな!


「あ、一佐じゃーん!」


 リンが現れた。

 今日は薄っすらメイクをしとるが、服装はTシャツにジャージや。長い髪は無造作にひとつに括っとるし、通常バージョンなんか女装バージョンなんか、よう分からん。ちゅーか、その栗色のサラサラストレートは地毛やったんか。


「手伝いに来てくれたんだ。法被隊は大丈夫なわけ?」

「法被のほうは、もうできたさかい。あとはパフォーマンス練習だけやで。ピアノのレッスンはええんか?」

「ああ、今日は大丈夫だよ。ガッツリ手伝う格好で来たし」


 ……Tシャツにジャージでも、可愛いやんけ。はぁ、顔めっちゃ好みなんやけどな。


「あ、浅尾くんもいるー!」


 そう言って、リンは跳ねるように浅尾っちの元へ走っていった。

 どいつもこいつも浅尾、浅尾て。なんやねん。浅尾っちは、おれの心の友やぞッ!


 まぁ、しゃーないけどな。浅尾っちには不思議な魅力があるもんな。カリスマ性っちゅーか、近寄りがたいのに、妙に気になる存在ってやつやで。


 ヒデは周りを安心させるあったかオーラ、ヨネはどんなときでも気持ちを前向きにしてくれるキラキラオーラ、そして浅尾っちは背筋がピシッとなるカリスマオーラ。それぞれの色があるで。


 ん? おれは何色かって? ふふん。それは、まだ秘密やで。


「末延、そこのやすり取って」

「あ、これ? はい、どうぞ~。ていうかいいなぁ、浅尾くんは背が高くて。エリサさんも長身だもんね。やっぱり、フィンランドの遺伝?」

「さぁ」


 なんやなんや。リンのヤツ、浅尾っちとイチャイチャしよって。パッと見、美男美女でお似合いやんけ! ジェラシーッ!


 ああ、暑さのせいか、燃えるような恋のことばかり考えてまう。あかんあかん。いまは御輿に集中して、遅れを取り戻さな。一佐流コンセントレーション!


 ……しかし、定期的な休憩を挟みつつ作業をしとるものの、次第にみんなの動きが鈍くなってきた。

 今日の最高気温は、36℃くらいやったか。8月に入ってから、ずっとこんな暑さやしな。みんな限界なんやろ。


「具合悪い人、いませんかー? 絶対に無理は禁物ですからねー!」


 祝原が、真っ赤な顔をして声を張り上げとる。進捗管理からメンバーの体調管理まで、ほんまに一生懸命や。


 ここが正念場やで。もう限界やっちゅーとこから、さらに1歩踏み込むんや。

 自分では限界やと思っても、歯を食いしばって足を前に出せば、視界が開けんねん。絵を描くときも同じや。もういっちょ、頑張らんとな。


「おーい、差し入れですよー」


 張りつめた空気に、間延びした声が突然割り込んできた。

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