つまりは類友

つまりは類友―1

「なんやて!おれも駒込やねん!」


 ヒデと親睦を深めるべく、アメ横のとんかつ屋で一緒に昼飯を食った。するとお互いの家が近いことが判明。これはもう、運命としか言えんやろ。

 

「どの辺なんや?おれは駒込駅から見て東公園のチョイ手前や」

「俺は東公園よりもう少し先……上野寄り、かな。だから自転車か、最悪歩きでも通学できるよ」

「そうかぁ!おれはまだ道がよう分からんからなぁ。今度教えてや!」

「うん、いいよ。時間が合う時、一緒に登校しようか」


 なんてええ奴なんやヒデは!見た目に気ぃ遣えば、おれよりモテるんちゃうか?

 それにしても、持つべきものは親切な友やな。これでおれも東京の地理がマスターできそうや。電車とか、ややこしいねん。知恵の輪みたいな路線図やし。


「そういや、浅尾っちはどこに住んでんねやろ」

「浅尾は白金だね」

「白金ッ!?白金てあれか?シロガネーゼの白金かッ!?」

「そうだけど……シロガネーゼって、なんか古くない?」

「浅尾っちは金持ちなんか!?」

「浅尾は自分の家のことほとんど喋らないし……私生活も謎なんだよね。でもお母さんは有名なピアニストだった人だよ。確かフィンランド人とのハーフの」


 父親があの浅尾瑛士で、母親が有名ピアニスト。なんちゅースペックしとるんや浅尾っちは。

 待てよ。母親がハーフってことは、浅尾っちはクォーターか。あの目の色はカラコンやのうて天然やったんかいな?

 聞けば浅尾っちは、高校の頃から数々のコンクールで受賞しとるらしい。Google先生に質問をすれば、その作品がいくつも出てくる。

 正直、度肝を抜かれた。写真でも分かるぐらい繊細で大胆な筆づかい。現実の風景が描かれているはずやのに、まるでそこだけ時間が止まっているかのような静けさを感じる。

 なんやこれは。高校生で、ここまで描けるものなんか。こういう人間を天才言うんか。鳥肌が止まらんかった。


「すごいだろ、浅尾の絵」


 ヒデの落ち着いた声で、現実に引き戻される。あかん、スマホに魂吸い取られるところやった。


「中学生の頃から、国内外をひとり旅してるんだって。バックパックひとつでさ。だから周りの同級生とは比べ物にならないくらい引き出しが多いし、視野も広いんだよ」


 なるほど。あの落ち着きっぷりには、そないなバックボーンがあるんやな。

 しかし中学生からひとり旅とは。やはり天才と呼ばれる人間は、人と違うことをするものだ。そう。何を隠そう、おれも中学生の時……


「あ、そろそろ行かないと」


 おいヒデ、空気読めや!ここはおれの栄光を読者に向けて語る場面やろッ!

 ……しかし確かに、ゆっくりしている時間はないな。ただでさえ大学構内のマップが頭に入っとらん。5分前行動の更に10分前行動せなな。どうや。デキる男は違うんやで。

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