いざ、藝祭—13

 世間では「こだわりより納期厳守!」みたいな感じになるのかもしれへん。せやけど、おれら藝大生にとっては、芸術へのこだわりこそ生きる道なんやで。

 

 芸術は、人の心に届いて初めて完成するもんや。そして人の心に届けるためには、細部まで手を抜いたらあかんねん。

 全員がそれを分かっとるから、遠慮なく意見が出せるんやろう。まとめる人間は大変やけど、祝原には、頭のええ浅尾っちがついとる。しかも平和の使者・ヨネまでおるからな。なぁんも心配いらん。


 っちゅーわけで、工芸の連中のこだわりも満たすべく浅尾っちが組み直した工程で、作業再開となった。

 なんや知らんけど、ここ数日は作業に参加する人間が増えとる。藝祭が近づいてきて、さすがに御輿の進捗が気になりだしたのかもしれへん。


 御輿の作業はある程度人数がそろってきたさかい、おれはパフォーマンスの練習に力を入れることにした。


「はい、そこで小林くんが登場ッ!」

「いよっしゃあッ!」

「いいよ、いいよ! さすが小林くん!」

「Yeah! Fuuuuu!」

 

 吉鶴におだてられ、パフォーマンス練習にも気合いが入る。

 邦楽の人間が藝祭のために作ったむっちゃかっこええ曲をバックに、得意のダンスを披露するんやで。「京都が産んだブレイキンの申し子」と呼ばれたこのISSA(ダンサーネーム)、血が騒ぎまくっているのであーるッ!


 みんなで一生懸命作っとる御輿とともに踊るわけやし、下手なもんは見せられへん。おれはもともとダンスの天才でもあるが、天才がさらに努力をすれば、手がつけられんほどの天才になるのだッ! それを! このおれが見せたる!

 

 そんな感じで、瞬きする間に時は流れ。藝祭前日の9月6日、夜の帳が落ちようかっちゅーとき、ついに御輿が完成した。

 

「で……できたぁー!」


 祝原が勢いよく両手を上げる。すると全員から、自然と拍手が沸き起こった。


「えー、みなさん! 本当に、ありがとうございます! みなさんのおかげで、無事に間に合わせることができましたー! バンザーイ!」


 ヨネ、ヒデ、リンも一緒にバンザイしとる。ついでに、出店隊から手伝いに来とった優菜と悠人もおる。そこの君、覚えとるか? リンの友達やで。

 そして浅尾っちは、輪から離れたところで、ひとり静かに麦茶を飲んどった。最初から作業に参加しとったわけやないおれも、少しばかり控えめな態度やで。京都人は奥ゆかしいからな。


 それにしても、あの白い塊が、こんな立派なヤマタノオロチになるとは。藝大生の本気っちゅーのは、ほんまにすごいで。

 塗りの部分はおれら日本画専攻がこだわりを発揮しまくって、何重にも塗り重ねたしな。こういうバケモン系の制作には異様なやる気を見せるヨネも、ヤマタノオロチのおどろおどろしい感じを出すために、むっちゃ真剣やったわ。


 おれら1年生の熱い想いとこだわりが、たーっぷり詰まった御輿。いよいよ明日、お披露目やで!

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