いざ、藝祭―2

「あ、ヨネは出店隊だ」

「そういや、出店すんのはヨネ発案のコーヒースタンドやったな」


 なんや知らんけど、ヨネは模擬店にめちゃくちゃ意欲を燃やしとった。コーヒー好きのヨネは本格的なコーヒーメーカーを持っとるそうで、それを持ち込んでこだわりの豆を使用した絶品コーヒーを売り出すっちゅー話や。

 ちなみに客引きとして浅尾っちを勧誘したらしいが、案の定あっさり断られたらしい。いくら不愛想でも、あれだけのイケメンなら女の子をたくさん呼べるやろうけどな。

 おれも浅尾っちにcoffeeを提供してもらいたいわ。いやッ!想像しただけでキュンッ!おかわりしちゃうッ!


「そういや、一佐は御輿のマケット見た?すごくかっこいいよ」

「おお、見たで!ヤマタノオロチやろ!?」


 そう。おれら日本画・工芸・邦楽・ピアノのチームが制作する御輿は、ヤマタノオロチ。8つの頭、8つの尾を持つ伝説の怪物や。

 ちなみにマケットっちゅーのは小型の模型のことやで。

 御輿のデザインは学生から募集して、投票で決める。そしてそれをもとにマケットを制作して、さらにそのマケットを確認しながら御輿の本制作に取りかかるんや。


「完成が楽しみやなぁ!余裕あったら手伝いに行くさかい」

「暑そうだし、体力もつかなぁ……」

「せやなぁ、熱中症に気をつけんと。浅尾っちなんか、すぐ倒れそうやん」


 ここんところ、浅尾っちは特に調子が悪そうやった。

 なんとなくぼんやりしとることが多い気がするし、明らかに前よりも痩せとる。悪い女に引っかかっとるんちゃうかーってヒソヒソ話しとる連中もおった。

 なんやかんやで、やっぱり「浅尾瑛士の息子」は注目の的や。そこには憧れだけやのうて、嫉妬心や敵対心も含まれとる。そないな醜い感情を抱いとる連中が、面白がって無責任な噂を流しとるんや。


「確かに、最近いつも具合悪そうだよね、浅尾は」

「なんかあったんやろか。ゆーても、おれらに話すことはないんやろうけど」

「そうだね……」


 絵のこと以外で悩んどることがあるのかもしらんが、浅尾っちは自分のプライベートを一切話さへん。学校での制作は相変わらずとてつもない集中力でこなしとるさかい、おれらも気軽に突っ込めんしな。

 本人は噂のことなんか気にもしてへんやろうけど、あんだけ具合悪そうな様子を見ると、さすがに心配やわ。


「まぁ、浅尾の体調は気にかけておくよ。しばらくは猛暑みたいだからね」

「頼んだで、ヒデママ!」

「ママじゃないし……」


 ぶつくさ言うヒデとともに絵画棟をあとにして、全人類を抹殺する使命を帯びとるんかっちゅーぐらいバチバチに照りつけてくる太陽の下に出る。

 京都の夏は大概蒸し暑いが、東京も負けてへんな。しかしこの程度の暑さでは、鉄人ISSAを夏バテに追い込むことなどできん!

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