つまりは類友―4

 今江教授は意味深な笑みを浮かべて、大きく頷いた。なんや、微妙に怖いで。

 

「んー、なるほどなるほど……分かりました。それでは、最新の作品はありますか?何も用意していない……なんてことは、ないんでしょう?」

「じゃあ、これで」


 浅尾っちがスマホとパソコンをポチポチいじくる。するとスクリーンに、白と青のコントラストが美しい絵が表示された。なんやこれは……なんちゅー透明度の高い絵なんや。周りの連中も釘付けになっとる。

 にしても、ちゃんと他の作品を用意しているあたりさすがやな。忘れた言い訳ではなかったっちゅーことやな。


「うぅん、美しい絵ねぇ!じゃあ自己紹介お願いしまぁす。今から5分よん。はい、ポチッとな!」


 岡田教授が無駄にセクシーな指の動きでタイマーのスイッチを押す。浅尾っちは何を喋るんやろ。オラ、ワクワクすっぞ!


「浅尾桔平です。本格的に日本画の技法を習い始めたのは高校へ入ってからで、それまでは見様見真似というか独学で描いていました」


 意外とまともに喋っとんな。人前に出ても堂々としとるし、やっぱ肝が据わっとるで。

 浅尾っちが、スクリーンにチラリと視線を向ける。お、絵について話すんやな。


「これは春休みに描いたものです。トルコにある石灰棚“パムッカレ”の白と青を、岩絵の具で表現してみたくて描きました」


 パムッカレ?よう分からんが、この絵がすごいのは間違いない。真っ白な棚田に真っ青な水?が張ってあるんかな。いや、空の青が水面に映っとるんか?とにかく、とてつもなく美しい景色や。


「えー浅尾君は、実際にその場所へ行ったのかな?」

「はい」

「うぅん、絵に説得力があるわぁ」


 今江教授とセクシー岡田教授は、何度も頷きながら絵を眺めとる。


「えーそうですね。非常に洗練されているように感じますが、自分を表現した作品ではないということですね?」

「はい。“自分”は投影できていないと思います」

「えーそれは何故ですか?何故、自分を投影できないのでしょう」

「理由は明確ですが……非常にセンシティブなことなので、ここでの明言は避けます。この課題をクリアする方法を見つけるために、藝大へ入りました。よろしくお願いいたします」


 その目は、どこまでも真っ直ぐやった。

 おれから見れば、浅尾っちの絵は既に完成されとる。パッションがバチバチやし、ちゃんと熱い心を感じられるさかい。

 せやけど浅尾っちは、自分の絵に全然満足しとらん。それどころか悩みを抱えとるんや。

 浅尾瑛士の息子?天才?ああ、そんな肩書きをつけたらあかん。今おれの目の前におるんは、ひとりの画家や。決して現状に満足することなく自分の理想をひたすら追い求める、ただの画家や。

 なんや分からんが、さぶいぼ出てきたわ。めっちゃ感動しとる。おれはこの時から、浅尾桔平っちゅー人間に思いきり魅了されてもうた。

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