つまりは類友―3

 せっかくやし、夕飯もヒデと食うことに。おれの家はまだ片付いてへんダンボールがぎょーさんあるさかい、ヒデの家で適当な炒め物を作った。男の料理やな。

 そんでおれが持ってきた京漬物、ヒデのばあちゃんちの米と一緒に味わった。充実した1日の締めくくりに相応しい豪華ディナーやで。

 入学初日にヒデと仲良うなれたんは、ホンマに幸運なことやと思う。東京には誰ひとり知り合いがおらんし、京都とまったく違う街並みに馴染めるんか、正直不安な部分もあった。おれはナイーブやしな。

 せやけど今日の入学式を終えて、楽しい大学生活になる予感がバチバチしたで。ヒデだけやない、浅尾っちというとんでもない天才との出会いが、このおれの芸術家魂に火をつけたんや。

 月曜日の自己紹介では、あっと言わせたるでぇ!まずは作品選定やッ!

 ……っちゅーわけで、時空を飛ばして月曜日の午前10時。

 日本画実習室へ行くと、スクリーンの前にパソコンを置いた演台がセッティングしてあった。そして長机には教授らしき人物が2人座っとる。

 全員が集まり時間になったところで、座っているオッサンが口を開いた。


「えー本年度、君たち日本画専攻1年の担任を務める今江です」

「同じく、岡田でぇす」

「えー本日は25個の個性が見られるのを、非常に楽しみにしています。内容は自由なので、存分に自分をアピールしてください」

「うふふっ、楽しみにしてまぁす」


 まともそうな今江教授は小太りで柔和な顔したオッサン、お色気全開の岡田教授はやたら化粧が濃い昭和のニオイがする年齢不詳のオバ……お姉さんや。助手コンビといい、緩急のつけ方が抜群やな。


「では早速始めましょうかー。五十音順で……浅尾君からお願いしますねー」


 マキちゃんが促すと、浅尾っちは「はい」と返事をして前へ進み出た。トップバッターから大谷翔平登場て感じや。しっかし、えらい派手な服着とるな。


「あれが浅尾瑛士の……」


 ヒソヒソと話す声が聞こえる。

 なんや気の毒になってきたな。“浅尾瑛士の息子”っちゅー肩書きが常に付きまとって、何かにつけてハードルを上げられとる。当の本人は、どこまで気にしてんねやろ。ポーカーフェイスすぎてまったく分からへんわ。


「作品はデータかなー?」

「ありません」


 マキちゃんの質問に、間髪入れず浅尾っちが答える。ありませんて……一体どないしたんや、浅尾っち。

 

「……んー?忘れたということですか?」


 今江教授が首を傾げた。岡田教授の方は、瞬きひとつせず浅尾っちを見つめとる。

 

「“自分を表現した作品”でしたよね。今のところそういう絵は描けていないので、今回の自己紹介でお見せできる作品はないということです」


 浅尾っちは物怖じすることなく、正面から今江教授を見据えて言い放った。な、なんちゅー度胸や……周りもザワついとる。くそぅ、こないな目立ち方があったとはッ……!

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