いざ、藝祭―8

「藝祭に来てくれるらしいよ、ヨネの彼氏は」

「会うてみたいよなぁ、りょーちん」

「紹介してくれるってさ」

「ほんまか。どんなメンズなんやろなぁ!」

 

 ヨネは特に、イケメン好きというわけやない。浅尾っちのような整った顔は、拝むだけでええんやて。確かに、人間は顔ちゃうしな。大事なんは、心意気やで。まぁ浅尾っちの場合、心意気もかっこええんやけどな。


 ヨネがイケメン好きじゃないにしても、おれの予想では、りょーちんはシュッとしてかっこええ男や。スーツ姿がビシッと決まっとって、いかにもデキる男風で、それやのに嫌味ったらしいところがない、めっちゃ爽やか好青年のはずやで。あのヨネが選ぶ男やしな。会えるのが楽しみや。

 

「ほいで、御輿の進捗はどうなんや?」


 尋ねると、ヒデが口をすぼめた。どうやら、梅干しが酸っぱかったらしい。うちのばあちゃんの梅干しは絶品やしな。


「昨日隊長に訊いたら、少しだけ予定より遅れているって。暑さのせいか、なかなか人が集まっていないんだよね」

「浅尾っちは、毎日来とるんか?」

「毎日ではないけど、よく顔は出しているよ。まぁ隊長でも来られない日はあるし、強制はできないから、いる人で頑張るしかないよね」

「こっちのほうは順調やし、吉鶴に相談して、おれも手伝いに行くわ」


 法被は順調に仕上がっとる。スケジュールもかなり前倒しされとるから、パフォーマンスの練習に割く時間が多くなっとった。

 おれは天才やし、ダンスも得意。せやから、少しくらい抜けても問題ないはずや。

 

「加勢してくれると、助かるよ。みんなバテ気味なのか、最初と比べてどんどん人が減っちゃって……」

「この暑さやしなぁ。そういや、リンは元気なんか?」

「うん、元気だよ。だけど、頻繁に顔を出せるわけじゃないみたい。コンクールに向けた練習もしなくちゃいけないって」

「みんな、いろいろあるよなぁ」


 来られへんヤツの文句を言うてもしゃーない。面倒だろうが用事があろうが、みんな大人なわけやし、自分で考えて判断すればええねん。


 せやけど、こういうイベントを通じて得るものっちゅーのは、たくさんあるはずや。人と距離を取りたがるコミュ障な浅尾っちが、ようけ顔を出しとるのも、そう思っとるからやないかな。


 絵はひとりで描くもの。しかし“ひとりきり”では描けない。今江教授の言葉を、ふと思い出した。

 いまは、その意味がなんとなく分かる。絵を描く作業自体はひとりでやることやけど、洗練された絵を描くには、魂を磨かなあかん。そして魂を磨くために大切なんが「人」と「経験」なんやと思う。


 浅尾っちほどの天才なら、大学に入ることなく自分の絵を突き詰めることができるはず。せやけど、その道を選ばなかったんは、人と交わることで成長できると考えたからなんやろう。

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