春風のイタズラ―9

 っちゅーわけで、翌日から早速女神の捜索を開始した。まずは昼休みに学食で飯を食いながら、女神の姿を探す。


「音校の生徒ってだけじゃ、さすがに対象が多すぎるよ……」

「なんかー探偵みたいだよねぇーワクワクッ!」


 助手はヒデとヨネやけど……やる気の差がありすぎやろ。もっと漲らんかい、ヒデ。

 駄菓子菓子、確かにヒデの言う通り手がかりは“音校”のみ。学科どころか、そもそも学部なんか院なのかも分からへん。まぁ若かったし、学部で間違いないとは思うけどな。おれの見立てだと、女神はタメもしくは2歳程度年上やで。


「ええか。女神は胸あたりの長さの栗色サラサラストレートで、前髪パッツンや。透き通るぐらい色白で頬と唇は桜色。身長はおれよりほんの少し高い。おめめパッチリまつ毛ばっさばさの美少女やで」


 ヒデがブツクサやかましいので、簡単に似顔絵を描いて説明した。我ながら似とるな。


「これ、本当に似てる?美化して描いてない?」

「んなわけあるかッ!天才絵師に対して失礼やぞヒデ!」

「だって一佐って、思い込みが強いし……」

「恋は思い込みやッ!」


 まったく、恋を知らん男はこれだからあかんねん。ドキがムネムネして夜も寝られへん……なんて甘酸っぱい経験なんぞ、したことないんやろな。

 恋に落ちたら、相手のことがとてつもなく美化されるもんやろ?あばたもえくぼってやつやで。

 

「こんなに可愛い子なら目立ちそうだけどぉー専攻とか学年が分かればもっと見つけやすいんだけどねぇー」

「女神はピアノ専攻やッ!」

「……根拠は?」


 ヒデが疑いの眼差しを向けてくる。ほんまさっきから失礼なやっちゃ。

 

「華奢な体に対して、指が太かったからや」

「あ、意外とマトモな根拠」

「当たり前や!おれを誰やと思てんねんヒデ!体は子供!頭脳は大人!……って誰の体が子供やねーんッ!」

「いえーい!真実は!いつもひとつ!」


 相変わらずヨネはノリノリやで。名探偵ISSAの助手に相応しいな!

 とにかく、あの指は絶対にピアノ弾きの指や。何故分かるのかって?それはな、恋多き男の経験と勘がそう言っとるんや。

 おれはヒデとはちゃうねん。京都時代にどれだけの恋をしてきたと思てんねん。幼稚園のチューリップ組のヒナちゃんからはじまり高校の美人生徒会長まで、数々の浮名を流してきた伊達男やで。恋愛の“れ”の字も知らんようなチェリーボーイとは格が違うんや!


「むむー!?あの子、女神っぽいぞぉー!」


 いきなりヨネが大声を上げる。いやいや、いくら運命言うてもそない簡単に見つかるわけ……


「って、女神やんッッ!」


 おった!ほんまにおった!間違いない!あのシルクのように滑らかな栗毛!富士山頂に積もった雪のごとく白い肌!甘い味がしそうな桜色の唇!おれの女神が!学食へと入ってきたッ!

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