春風のイタズラ―4
「優雅な朝食をとってーそれからどうしたのー?」
「まぁまぁ慌てなさんな。落ち着きたまえよヨネダくん」
ひとつ咳払いをして、おれは一番前の席の椅子へ乗った。うむ、非常に良い見晴らしだ。普段は周りを見上げることが多いから……って、誰が小さいねんッ!
おっと、横道に逸れてしまった。気を取り直して、ヨネの熱い視線を受けながら続きを語り始める。
「……育ちのいいおれは、噴水の前にハンカティーフを広げて座っていたのさ」
「ハンカティーフ!お上品ー!」
「しかし今日は、春の妖精さんがイタズラしている日。食事を終えて立ち上がると、妖精さんがおれのハンカティーフを持ち去ってしまったのである」
「あらまぁー妖精さんはイタズラ好きだもんねぇー」
情感豊かなおれの説明に、ヨネが真剣な表情で頷きながら合いの手を入れてきた。
ヒデは何故か苦笑いしつつ手を動かして、浅尾っちは相変わらず、おれらの存在をシャットアウトするように完全集中モードで筆を滑らせとる。
小林恋語りの熱心な聴衆はひとりだけかい。盛り上がりが足りひんが、熱い眼差しを向けてくるヨネのため、大いに語ってやろう。
「しかーし!妖精さんは途中でハンカティーフを手放した。舞い上がったハンカティーフが、ひらりひらりと落ちていく……そう、噴水の方へ」
「たいへーん!」
「母さんが夜なべして縫ってくれたシルクのハンカティーフがッ!おれは慌てて手を伸ばした。するとそこにッ!」
「そこにぃー!?」
「ひと足早くッ!シルクのハンカティーフをキャッチした人影がッ……!」
「人影がぁー!?」
ノリノリヨネのおかげで、あったまってきたで!ここからがクライマックスや!
「それはなんとぉ!」
「なんとぉー!?」
「サラッサラの黒髪ッ!雪のような白い肌ッ!宝石を散りばめたような瞳ッ!透き通るような美しい声をした女神だったのであるッ!」
「キャー女神ー!」
「その女神は言った……これ、貴方のハンカティーフですよね?と。おれは答えた……ああ、間違いない、と。そして差し出されたハンカティーフに手を伸ばすと……その瞬間ッ!」
おれは見得を切る歌舞伎役者のように、机の上に片足を乗せて両手を大きく広げた。
「おれと女神の間にッ!電流が走ったのであぁぁぁるッ!」
「キャー!ビビッときちゃったぁー!」
再び両手足をじたばたさせるヨネ。おれらの甘酸っぱい恋物語に“萌え”を感じて悶えとるんやな。
そう。これは運命。出会うべくして出会った2人が触れ合った瞬間、体に感じる“何か”……そう、これぞまさしく!宮城県産ひとめぼれ!……ってそれは米やないかーいッ!
米ちゃうッ!ひと目見た瞬間から惚れるッ!つまりHITOMEBORE!love at first sightなのであるッ!
「ビビビッ!ってきたで!指先が触れた瞬間ッ!バチっときたんや!女神もハッとした顔をして、頬を赤らめながら手を引っ込めた……いやっ!恥じらいッ!キュンッ!」
「キュンッ!」
更に盛り上がるおれとヨネ。するとヒデが顔を上げて、ポツリと呟いた。
「それ……静電気じゃ……」
一瞬の静寂が、部屋を包み込んだ。
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