天才の帰還―3

 小さな駅を降りると、のんびりした風景が広がる。ここが、おれのふるさと「太秦」や。


 太秦っちゅーのは、朝鮮半島からこの地へ渡ってきた機織りの技術者集団「秦氏はたうじ」が、天皇への献上品として絹布をうず高く積み上げたことから「うずまさ」の姓を与えられたのが地名の由来らしい。

 

 京都最古の寺院で聖徳太子信仰の寺である広隆寺もあるし、歴史深い観光地や。

 再開発が進んだこともあって住み心地はええし、いまでは子育て世代にも人気のエリアになっとるらしい。


 そんな素晴らしい街で、この天才は生まれ育ったんや。


 てなわけで、太秦駅から徒歩5分っちゅーアクセス抜群の実家へと帰る。そこまで広いわけやなくても、落ち着く我が家やで。


 まだ早朝やけど、小林家の朝は早い。おとんはすでに出勤しとるやろうし、すでに全員起きとるはずや。


「アイムホーム!」


 鍵を開けて家へ入る。

 なんや、玄関にけったいな置物が増えとるな。トーテムポールか? どうせまたおかんが、フラダンス教室のお友達とやらに貰たんやろな。

 

「あら? おかえり。もう帰ってきたん。えらい早いな」


 おかんが洗面所から顔を出した。めっちゃパンパンやんけ。また太ったんちゃうか。


「夜行バスやって言うたがな」

「そやったかいな。あぁ、洗うもんあるなら、はよ出しや。いまから洗濯すっさかい」

「ないわ。なんで東京から帰省して、すぐに洗濯せなあかんねん」

「いま着とるん、くっさいやろ? 外歩いてきたんやし」


 おかんはわざとらしく鼻をつまんで、手でパタパタと空気を扇いだ。


「臭いわけあるかいな! フローラルのかほりやっちゅーねん!」

「あーはいはい。ほなら、もう洗濯機回すわ」


 素っ気なく言うて、おかんは洗面所へ戻って行った。


 ほんま、相変わらずやな。普通は愛する息子が帰省したら、喜びのHug&Kissとかするんちゃうん?

 ……いや、せんでええけどな。想像して、ぞわっとしたわ。


 ひとまず2階の自室へ荷物を置きに行こうとすると、リビングから真っ白な鳥がトコトコ歩いてきた。


「おお、花道ぃー! 元気やったかー!」


 おれの愛するペット、タイハクオウムの花道や。

 生後4か月のときから飼い始めて、今年で7歳になる。タイハクオウムは40年から60年くらいと寿命が長いし、まだまだヒヨっ子やな。


「イッサ。イッサ」

「おうおう、一佐や! 帰ってきたんやで!」

「テンサイ。テンサイデスカラ」

「そやそや! 天才やで!」


 おれに懐いとるさかい、おれの言動をよう真似しとる。愛いやつめ。

 花道がおれの肩に乗ったので、そのまま2階へ上がった。

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