天才の帰還―2

 気を取り直してバスを降り、荷物を受け取った。そして、懐かしい景色を見渡す。

 嗚呼、おれは帰ってきたんや。この愛おしき、ふるさとに……半年ぶりやけどな。


 それにしても、やはり京都は暑い。9月中旬、しかも早朝やけど、むっちゃ暑い。盆地やさかい、風が弱いねんな。

 そやけど東京のビル風は肌に合わん。この低い建物が並ぶ景色のほうが、しっくりくるわ。決して、おれが小さいからやないで。


 さて。おセンチな気分はリュックに詰め込んで、電車に乗って帰るか。


 まだ人もまばらな駅に入り、JRへ乗り込む。

 ガラガラの電車に揺られとると、また眠気が襲ってきた。いやあかんあかん、起きとかんと乗り過ごすわ。

 

 しっかし、大学の夏休みはホンマに長いわぁ。なんやもう藝祭でブチ上がったさかい、残りはオマケみたいなもんやで。


 藝祭は、これぞ青春! っちゅー感じやったが、イベント定番のロマンスは結局生まれんかったしな。おれのマイハニーは、一体どこにおるんや。


 そういやさっきは、ちぃと懐かしい夢を見たな。元マイハニーの海荷ちゃん、元気しとるかなぁ。

 

 おれと海荷ちゃんは、高2の夏から付き合うてた。同じクラスになった海荷ちゃんにひとめ惚れして、少しずつ距離を縮めてから、おれが告白したんや。OKをもろたときは、天まで飛び上がりそうなほど嬉しかったなぁ。


 そこからは、ラブラブ一直線。初めて味わうこの世の春に、おれらは浮かれまくっとった。ホンマに世界がバラ色に見えた。街ですれ違う人たち全員がおれらを祝福し、爽やかカップルとして温かく見守ってくれとる。そんな風に感じとったんや。


 駄菓子菓子。アツアツなふたりを引き裂くものが、目の前に立ちはだかる。そう、受験という荒波や。

 暇さえあればイチャコラしとったおれたちは、肝心の学業がちぃとばかし疎かになってしもた。


 このままでは藝大に入れん。夢が遠ざかってまう。先生にもそう釘を刺され、悩みに悩んで、おれらは決断した。お互いの未来のために、離れることを。それが高3の夏の話や。


 それ以降海荷ちゃんとは、ええ友人っちゅー感じになった。そのほうが自然やと気ぃついたしな。


 なんちゅーか、お互い気張っとったんやと思う。なんせ、いろいろ初めてやったさかい。「いろいろ」になにが含まれるかは、ご想像にお任せやで。いやん、エッチ!


 とにもかくにも、海荷ちゃんとのビターな恋を経て、一佐少年はオトナになった。よわい19にしてこの渋みが出せるのは、そのおかげなんやで。

 

「まもなく太秦うずまさ、太秦です。お降りのお客様は……」


 おっと。おセンチな気分をリュックから取り出して眺めとったら、もう到着してもうたわ。

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