つまりは類友―6

 今江教授とセクシー岡田教授も助手コンビも他の連中も、全員おれの絵に釘付けや。ああッ!カ・イ・カ・ン!


「えー非常に繊細な筆づかいですね。小林君は、鳥を描く時に何を意識しているんですか?」

「それは……PASSION and LOVE……ですッ!」


 今江教授の問いに、流暢な英語で答えるおれ。いやッ!かっこええッ!セクシー岡田教授も、大きく頷いとるで!


「私も情熱と愛は大好きよぉ。芸術には不可欠よねぇ」

「鳥が好きだという情熱……ですね?」

「はいッ!好きやから、よーく観察できますよって!鳥を理解し、鳥になりきる!そしたら分かりますねん!この鳥が、おれにどないな絵を描いて欲しいと思てるか!」

「鳥の気持ちが分かるのねぇ。素敵よぉ」


 ええやん!めっちゃええ感触やん!おれの才能に、全員が度肝を抜かれとる!やはり世は正に、大KOBAYASHI時代ッ!

 

「おれの夢は、鳥という鳥すべてをこの手で描くことッ!最終的には幻の鳥ケツァールをこの目で見て描くことですッ!よろしゅうたのんますッ!」


 最後に壮大な夢を語って、おれの自己紹介は終わった。ひと仕事終えた気分だ。

 ふっ……全員からの尊敬の眼差しが突き刺さっているぜ。どうやら、この藝大に稀代の天才が舞い降りたことを実感したようだな。

 それから数人の自己紹介の後、ヒデの番が回ってきた。ヒデが美人画を描いとることはこの前聞いとったし、写真も見せてもろた。めちゃくちゃかっこええ、現代的な美人画やったな。

 

「菱川師宣や喜多川歌麿の美人画に感銘を受けて、現代における美人画を追求したいという想いで絵を描いています。特に表現したいのは、生命を生み出す女性の神秘性と力強さです」


 ヒデも緊張はせえへんタイプなんかな。いつもと変わらん調子で、淡々と喋っとった。

 そして浅尾っちは人の話は聞いてなさそうやのに、スクリーンに映し出される作品には、じっと視線を向けとる。きっと勉強熱心なんやろな。

 中には、まだ本格的な日本画を描いたことがないっちゅー奴も数人おった。それでもめちゃくちゃ完成度の高い水彩画を描いとるし、やっぱ藝大に入る人間はさすがやな。

 自分に自信を持つことと他人のレベルの高さを認めることは、まったく別の話や。絵の表現は十人十色。自分にできる精一杯を表現できたのなら、ほんまはそこに優劣なんかないはずやねん。

 せやからおれは、いつでも自分に自信を持っとる。少なくともここにいる誰よりも、鳥のことを理解しとるしな!

 

「じゃー最後……米田さんねー」

「はぁい」


 とんとんと進んだ自己紹介。オーラスは、ベレー帽を被ったおさげの女子生徒やった。丸メガネを指で上下させながら、パソコンをいじっとる。

 

「米田真帆ですーコメダと書いてヨネダですーよろしくお願いしまぁす。名古屋の出身でー高校はデザイン科でしたー」


 なんやえらい間延びした喋り方するやっちゃな。癒し系か。

 せやけど次の瞬間スクリーンに映し出されたものを見て、おれはビックリ仰天した。

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