天才小林、上野の地へ舞い降りる―4
いや、恋なわけあるかいッ!セルフツッコミッ!
おれは可愛い女の子が好きなんや。指先が触れ合っただけで頬を染めるような、ピュアピュアな女の子がな。このキャンパスライフで、そんな彼女を見つけんねん!
「あ、ここだね。奏楽堂」
おれが胸の鶯と対話していると、大勢のスーツ姿が吸い込まれていく建物をヒデが指さした。
「おおッ!立派なコンサートホールやな!」
「入学式では生演奏があるみたいだからね」
「さすが藝大や!ワクワクしてきたでぇ!」
感慨に耽るおれとヒデをよそに、浅尾っちは足を止めずさっさと中へ入っていった。クールなお人やわ。
奏楽堂の中へ入ると、既にかなりの席が埋まっていた。広いし天井が高い。そしてホール中央奥の立派なパイプオルガンが、荘厳な雰囲気を演出しとる。さすがは藝大やな。
おれとヒデは浅尾っちの後ろをついて行き、その横に並んで座った。
よくよく周りを見ると、明らかにおれより年上に見える連中ばかり。そらそうやな。現役合格率は3割程度やしな。
そういや、ヒデと浅尾っちは何浪してんねやろ。
「なぁなぁ、ヒデと浅尾っちは何浪したんや?」
「俺たちは現役だよ」
な……なんやて……!?日本画には、おれ以外に2人も現役がおるんか……!おれが目立たないやないかッ!ただでさえ浅尾っちは目立つというのにッ!
「お、おれも現役やねん!仲間やな!」
「うん、知ってる。一昨日もそう言ってたし……」
「そやったかな!?」
「お前うるせぇぞ。ガキかよ」
いやッ!浅尾っちに怒られたッ……!って、なにキュンとしとんねん。ドMかおれは。
「ご、ごめんな」
「長岡には言ってねぇし。そっちの猿だよ」
「すまんすまん!喋ってへんと落ち着かんでな!ぎょーさん人おるし!」
「だから、いちいち声を張るなっつってんだよ」
「生まれついての大声やねんなぁ!」
「でかい声しか出せねぇなら口閉じとけ」
キャッチボールできたで!視線合わせてくれへんけど!少しずつハートがオープンになってきとるッ!
しかし間もなく式が始まるようなので大人なおれは口を閉じることにした……が、落ち着かずに周りをキョロキョロ見渡す。
パッと見でリア充っぽいのは、大体音楽学部の学生や。美術学部とは毛色が違うというか、明らかに小綺麗でキラキラオーラを発しとる。ヒデのような、もっさりした奴はおらん。
ちなみに大学の敷地は、上野駅を背にして左側が美術学部、右側が音楽学部となっている。それぞれ美校、音校と呼ばれているらしい。ここは音校の方やな。
そういや今の学長は大学OBのヴァイオリニストって話やし、もしかすると学長の演奏もあるんやろか。
そんなことを考えていると、ホール内の照明が暗くなった。
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