天才小林、上野の地へ舞い降りる―3

 恐らく浅尾っちはオシャレ好きや。アッシュブルーなんてオシャレ上級者の髪色やろ?そしてグレーのカラコン。普通のスーツを着ていても、おれの目は誤魔化せん。

 それならば、この話題でどうや!

 

「浅尾っちの髪、かっこええなぁ!どこの美容室行っとるん?やっぱ表参道とか代官山か?おれはなぁ……セルフ美容室やねん!」


 ……無言。あかんか。間に挟まれているヒデが苦笑する。よっしゃ次の話題いこか!


「浅尾っちは、浅尾瑛士の息子なんやろ?おれなぁ、浅尾瑛士の“鎌倉の鶯”がめっちゃ好きやねん」


 お、こっち見た。なるほど、父親の話題は効果的なんやな。このまま攻めていったろ。


「あの色づかい、惚れ惚れするよなぁ!浅尾瑛士の絵は構図も神やけど、おれはやっぱり色づかいが好きやなぁ。独特の風合いっちゅーか、現実的なようで幻想的で……どないしたら、あないな色出せんねやろーって」

「……何度も塗り重ねてあるしな」


 答えてくれたッ……!な、なんやこのトキメキ。胸の奥の鶯が鳴いとるで……まさかこれは、恋?

 しかし浅尾っちは、すぐにおれから視線を外した。なんや、もう終わりかいな。キャッチボールにならへんな。


「小林君も、浅尾瑛士が好きなんだね」


 代わりにヒデが会話に加わる。やはり目配り気配り心配りができる男やな。おれの中のヒデ好感度メーターが振り切れるで。

 

「なんやヒデ。“小林君”て他人行儀やないか」

「え、他人だし……」

「おれは一佐や!ちなみに、お茶やのうて佐川急便の佐やで!荷物は運ばへんけどな!」

「えっと、小林君は」

「おーん?誰や小林君って?どこのおんのや?」

「……い、一佐は関西出身なの?」


 さすが、話が分かる男や。これでもうマブダチやで!

 浅尾っちは、まったく興味がなさそうに欠伸をしているけどな。まぁええねん。こういうタイプは、少しずつ心の距離を詰めるのが鉄則っちゅーもんや。それが一佐流オープンザハート!


「おう。実家は京都やねん。ヒデと浅尾っちは東京が地元なんか?」

「俺は世田谷だけど、浅尾は横浜だったよな」

「ほほー!横浜と言えば中華街やな!やっぱり浅尾っちも中華が好きなんか?」


 ……はい、無言ー!分かっとったで!シャイボーイやしな、浅尾っち!

 

「えっと……浅尾が普通のスーツ着てくるとは思わなかったな。いつも通り派手にしてくるかと」

「入学式で、わざわざ目立ちたくねぇんだよ」


 ヒデにはすぐ言葉を返すということは、やはり慣れが必要なんやな。焦りは禁物やで一佐。少しずつ、少しずつや。

 ……って、なんでこない必死になっとるんや。なんやよう分からんが、浅尾っちが気になってしゃーない。やはりこれは……恋?

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