いざ、藝祭—15

「さあ、出発しまーす!」


 祝原の号令と同時に、サンバホイッスルが響き渡る。そして藝大サンバ部の連中が軽快な太鼓の音を奏でて、パレードがスタートした。

 

 それを心待ちにしていた群衆の視線が、一気に集まる。驚嘆と歓喜が入り混じった表情で、御輿を、おれを見ているッ……嗚呼ッ! カ・イ・カ・ン!


「一佐! しっかりアピールしろよー!」


 リンの呼びかけに、おれは拳を突き上げて答えた。

 

 高さ3mから見渡す景色に映るのは人、人、人。そして美しい上野の街。最高や。最高すぎる。

 藝祭は、いつもお世話になっとる上野への恩返しでもあるんやで。おれら藝大生の情熱で、人を呼ぶ。そして街を元気にするのであるッ!


「ハイ! ハイ! ハイハイハイ!」


 サンバのリズムに合わせて、仲間たちが大きな声を上げる。ヒデもヨネもリンも、みんな笑顔やん。浅尾っちはいつも通り無表情やけど、なんとなーく楽しそうに見えるわ。いつもより柔らかいもんな。知らんけど。


 全員で作り上げた御輿を担ぎ、揃いの法被を身にまとい、上野の街を練り歩く。この言葉にでけへん感動は、一生に一度しか味わえんことや。

 藝大に脈々と受け継がれてきた伝統を、いま、おれらが受け継いどる。あかん、泣きそうになってきたわ。


 公園内をパレードした御輿が、広い広い竹の台広場へ到着した。噴水広場と呼ばれとる、憩いの場やで。

 

 おれは御輿から降りて、気持ちを高めた。

 すべての御輿がここへ到着したあと、それぞれのパフォーマンスが始まる。藝祭最大の注目イベント「開口一番」や!

 

 噴水の前で、法被隊がフォーメーションを組んだ。曲が流れ始める。はじめは静。ゆったりとした曲調と踊りで、ヤマタノオロチに脅える人たちの悲しみを表現する。


 そこに、おれ――スサノオノミコトが登場。曲調も、少しずつ静から動へと移り変わる。アシナヅチとテナヅチの願いを聞き入れ、その娘であるクシナダヒメとの結婚を条件にオロチ退治を承諾するスサノオ。


 そしてオロチとの戦いが幕を開ける! 酒に酔わせて泥酔したオロチを、スサノオが華麗な太刀捌きで切り刻むッ! おれの見せ場や!

 得意のブレイクダンスで、観客を魅了するッ! スワイプス! ウィンドミル! ヘッドスピン! 技を繰り出すたびに、歓声が沸き起こるゥ!!


 煙(ドライアイス)を吐きながらのたうち回るオロチに、とどめを刺すスサノオ! すると御輿……否、オロチの体が、ぱっくりとふたつに割れるッ! その中から出てきたのは! なんとぉ! 草薙剣だった!

 スサノオノミコトは、剣を姉のアマテラスへ献上する。これがのちに三種の神器のひとつとなるのだ。


 こうしてヤマタノオロチを倒し英雄となったスサノオノミコトは、めでたくクシナダヒメと結ばれ、出雲の国で仲睦まじく暮らしていくのであったッ!

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