いざ、藝祭—16

 拳を高くつき上げ、おれが最後のポーズを決めると、観衆から割れんばかりの拍手が沸き起こった。

 カンペキ。カンペキや。練習の成果が、いや練習以上のものが出せたで。おれは思わず、身震いした。


 学長をはじめとする審査員、さらにほかのチームの連中からも、割れんばかりの拍手と歓声。それはしばらく鳴りやむことなく、おれの体を包み込んでいた。


「一佐、最っ高じゃん!」

「ホントホント! めちゃくちゃダンス上手いね!」

「すげぇ動きだったわー!」


 仲間の元へ戻ったおれを、リン、優菜、悠人が拍手で出迎える。苦しゅうない、もっと賛美するがよい!

 そして苦楽をともにしたマイメンたちが集まり、互いの健闘を称え合う。これや。これぞ青い春や。おれが求めていたものやッ!


 御輿づくりにパフォーマンス、めちゃくちゃやりきったで。いや、藝祭ははじまったばかりやけどな。おれにとってはクライマックスやねん。

 

 もう大賞を取れんでも、やりきったからええ。

 あ、説明しとくとな、御輿は毎年賞を競ってるんや。大賞以外にもぎょーさんあるさかい、なにかしらの賞は必ずもらえるんやけど、やっぱりみんな大賞を狙いにいっとる。


 駄菓子菓子、賞はあくまでも結果。大切なんは、賞を取ることちゃう。高みを目指して一致団結し、いいものをつくり上げようとする心意気や。そう思っとったら……。


「今年の上野商店街連合会賞、大賞は……日本画・工芸・邦楽・ピアノの、ヤマタノオロチでーす!」


 そう。見事大賞を受賞したのは、おれたちの御輿であった。このおれのパフォーマンスが高評価だったのだろう。

 歓喜に沸く仲間たち。祝原と吉鶴が泣きながら抱き合い、おれはリンたちとハイタッチ。ヒデとヨネはバンザイしとる。浅尾っちは、半分寝とる。


 そして総評のため、学長が壇上へ上がった。


「えー、今年の藝祭のテーマは『激!』です。激しさと静けさは、表裏一体。静けさの中に激しさがあり、激しさの中に静けさがある。まさに、そのテーマを体現した作品ばかりでした。まぁつまり……」


 そこまで言うと、学長はマイクのスイッチをオフにして、マイクスタンドの横へ立った。


「お前ら全員、最っ高じゃあぁぁ~!!」


 学長渾身の絶叫が、竹の台広場に響き渡る。そしてそれに呼応して、おれらも一斉に歓声を上げた。

 こうして、われら1年生がボルテージをアゲアゲにして、藝祭の幕が開いたのである!


「いやぁ、仕事のあとの一杯は格別やなぁ!」


 大役を果たしたあとは、ヨネプロデュースのコーヒースタンドでブレイクタイムや。ヒデだけやのうて、浅尾っちもおるで。誘うたら、コーヒーなら飲みたい言うて来てくれたんや。ルンルンッ!

 

「ウマいな、このコーヒー」


 浅尾っちはブラックコーヒーをひと口飲んで頷いた。ヨネが、右手でメガネを上下させて喜んどる。

 

「来年もコーヒースタンド出すからぁーそのときは浅尾きゅんも手伝ってくれないかなぁー?」

「裏方ならいいけど」

「ほんとぉー!? やったぁー!」

「俺も手伝うよ、ヨネ」

「おれも、おれも! 客引きなら任しとき!」

「ヒデちゃんも一佐くんも、ありがとうー! 嬉しいなぁーみんなでやろうねぇー!」


 なんや、和やかな空気やん。やはり御輿制作を通じて、絆が深まったんやな。

 浅尾っちも10回に3回は、おれの言葉に耳を傾けてくれるようになったしな! 大進歩やッ!


「でもまずはぁ……今年の藝祭を楽しもーう! イエーイ!」

「イエーイ!」


 おれはヨネと一緒に右手を振り上げた。

 そう。まだ藝祭ははじまったばかり。つまりおれらの夏も、青春も、まだまだこれからなのであったッ!

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