いざ、藝祭―5

「おん?誰や?」


 デカい浅尾っちの後ろから顔を出したんは、額に冷却シートを貼った男。色白でパッチリ二重。少しだけ小柄で線が細い。まるで女のような……ん?女?

 可愛い顔に見合わぬ、このひっくーい声。まさかこいつは……?

 

「り、リンかお前ッ!?」

「そうだよ?あれ、一佐って俺の通常バージョン見たことないっけ」

「あるかい!なんなら会うのは例の一件以来やんけ!」

「あはは、そうだっけ。ヨネとはちょいちょい会うからさぁ、なんか一佐にも会ってる気になってたわ」


 ちょいちょい会っとるんか。ヨネはさすがのコミュ力やで……。


「ていうか、なんでここにいるわけ?一佐は法被隊だって、長岡君が言ってたけど」

「浅尾っちが倒れた思て飛んできたんやッ!熱中症で誰かダウンしたんやろ?」

「あ、それ俺。暑いの苦手だからさぁ、クラっときちゃって。でもダウンって大袈裟だし。少し休んで体を冷やして、水分補給したら復活したよ」


 するとリンは、黙って立ち去ろうとしていた浅尾っちの二の腕をガッと掴んだ。その姿はまさしく、獲物を狩るライオンのようであった。知らんけど。


「やっと浅尾君と再会して仲良くなったのが嬉しくて、ちょっと張り切りすぎちゃったんだよね」

「別に仲良くはなってねぇけど」

「あはは!めっちゃクールだよね~浅尾君!表情まったく変わらないんだもん。知ってる?キミ、鉄仮面って呼ばれてるんだよ」


 ……なんや、ちょっとジェラッときたやん。おれは避けるくせ、リンの腕は振り払わんのやな。ほんま、いけずなお人や。せやけど、そんなところもス・テ・キ……って何度も言うが、この気持ちは尊敬と興味やで?

 

「ま、まぁなんにせよ、2人とも元気なら安心したわ。猛暑日が続くて言うとるし、ほんま気をつけてな」


 浅尾っちの無事は確認したし、あまり長くお花摘みをするわけにはいかんので、そろそろ持ち場へ戻ることにした。

 ああ、めっちゃ走ったさかい汗だくや。Tシャツがぐっしょりなっとるで。戻って水分補給せな、おれが熱中症になってまう。

 

「小林」


 珍しく浅尾っちに呼び止められる。そして振り返った瞬間、ペットボトルの麦茶が眼前に飛んできた。


「1本やる」

 

 慌ててキャッチすると、浅尾っちは一切表情を変えずに言って、すぐ背中を向けた。

 ……なんや。なんやなんやなんや!めっちゃ優しいやんけッ!めっちゃかっこええやんけッ!と、ときめくーッ!


「あ……ありがとなー!」


 やっぱり振り返らんし無反応!

 せやけど、おれが汗だくだくダックなのに気ぃついたんやろ?自分を心配してくれた御礼ってことやろ?

 分かっとるんやで。浅尾っちは人のことよう見とるし、さりげない気遣いができる男やって。せやから好っきゃねん。

 おれは浅尾っちのLOVEを喉に流し込みながら、法被隊の作業場へと戻った。

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