第40話
「いいか、ソラ。競技者は人に観られてなんぼの世界だ。ただ強えだけの奴なんてのは、この業界じゃ腐るほどいる。頂きに手をかけるために必要なのは、何だと思う?」
「かっこよさ!」
「だっはっはっは!そうさ、競技者は格好良くなきゃいけねえ。もちろん、イケメンって意味じゃねえぞ。戦い方、技の冴え、礼儀作法。何だって良い。観客が魅入るような、競技者の在り方ってのが重要なのさ。だからな、観客に観られているときは、目一杯、格好つけるんだぞ」
「はい、ししょー!」
随分と、懐かしい夢を見た。
元師匠に弟子入りしたばっかりの頃の出来事だ。
『競技者は格好良くあれ』
それが初めて教えてもらったことだったな。などと感傷的な気持ちになりながら目を覚ました。
「おう、やっと目ぇ覚めたか、少年?」
「セーラ先生?」
確か、騎士のおっさんとの闘技をした後、入場用の通路まで歩いて行ったまでは憶えている。
その後限界になって、意識を失ってここまで運ばれたってことだろうか。
「無理はすんなって言っといただろ?わざわざあんな派手に戦わなくたって、あれだけの実力差がありゃ、もっと魔力を節約した立ち回りがあったんじゃねえのか?」
「ははは。確かに、あのおっさんは大して強くなかったですね」
「・・・・・・あれでも、国防の騎士だったんだがなぁ」
ともあれ、勝てたのは間違いなくセーラ先生が貸してくれた『愚者の腕輪』のおかげだ。あれがなければ、おっさんを倒しきる前にこちらの魔力が尽きていただろう。
「そう言えば、ステラは?ランキング戦、まだ勝ち残ってますか?」
「ランキング戦?んなもん、中止に決まってんだろ」
「中止?何でですか?」
「なんでって、そんなんお前のせいに決まってんだろ!」
「俺のせい?なんでランキング戦にも出てない俺が原因になるんですか」
「ランキング戦にも出てない少年が、イザイル王国でも上位の騎士をぶっ倒しちまったからだよ!」
俺のせいで、イザイル王国の騎士は育成学校に入学したばかりの新入生にも勝てないと、隣国に宣伝してしまったらしい。
いやいや、それは俺が悪いの?あんなおっさんを騎士にしておいた王国の責任だよね?
「あのおっさん、本当に騎士の中でも上位だったんですか?」
「国防を任せる騎士は、『選定式』っつう闘技の大会で毎年決められてんだ。最も、国防の騎士に任命されりゃあ魔剣を手にできるんだから、翌年以降の大会ではかなり有利になんだよ」
なるほどねえ。新たに国防の騎士になろうとしたら、強力な魔剣を所持している前任者を倒さなければならないってことか。
鋼の剣を普段使いしてる騎士が、あのレベルの魔剣を使う騎士に勝てないのは道理だと思う。
「そんで、そんな騎士が魔剣とセットで守護する領地を離れていたせいで、それを知った隣国からカルボモニス領に闘技を挑まれた」
「だから、それは根本的に俺のせいじゃないですよね?」
どう考えても、騎士のおっさんを連れて来たお坊ちゃんと、連れてくることを許したお坊ちゃんの親が悪い!
「まあ、そりゃそうなんだがな。結果的に、カルボモニス領は隣国に奪われた。領地を失ったカルボモニス家はお取り潰しだ」
「あ~あ、お坊ちゃんに恨みは無いですけど、ざまあって感じですね」
「闘技の結果のせいで、そのお坊ちゃんと騎士は身分を剥奪。人としての身分が無くなっちまったから、今後は人として生きて行くこともできなくなったわけだ。領民を家畜扱いしてた奴らが、家畜以下になっちまったんだから本当にざまあねえよ」
「因果応報ってやつですよ」
「それにしても、ステラはどこにいったんだろう」
俺を保健室まで運んでくれたのはステラだ。
目を覚ますまで付き添ってくれたりしてもいいんじゃない?なんて思うのは、思い上がり過ぎなんだろう。
いくら同級生で一時的に師匠になったとはいえ、出会って数週間しか経っていないただのクラスメイトなわけだし(闘技で使った俺の技を技名込みで再現できるほどのガチ勢ではあるが)
そう思いながら、陽が落ちた校舎裏を一人で寂しく歩いていると、いつの間にか、初めてステラに呼び出された場所にたどり着いていた。
「ソラ君、私と闘技してください。私が勝ったら、この書類にサインしてもらいます」
なぜかあの時と同じ場所に立っていたステラは、そう声をかけてきた。
初めて会話をしたときには、おどおどした話し方をしていたが、随分としっかり話せるようになったみたいだ。どことなく、自分に自信を持つことが出来たんだろう。
「いやいや、この書類って」
ステラから受け取ったのは、いつか姫様が持って来た古びた契約書だった。
『子弟契約書』と書かれたそれは、以前見せつけられたものと全く同じ内容だ。
「ステラはわかるけど、なんで姫様の名前まで書いてあるんだよ」
「それは・・・・・・なんというか、ですね?話せば長いような短いような、深いような浅いような理由がありまして」
自信に満ちたっていうのは勘違いだったかな?
「ふっふっふ。アタシから説明してあげよう!」
自信満々というのはこういうことだ、とでも言いたげな態度で姿を現したのは、ライザ王女だ。なんでこの人までこんなところに?
いや、この人にとってここは、ぼっちで過ごせるベストプレイスだったか。
「なんか失礼なこと考えてる?まあ、今は話が進まないから許してあげよう。実はね、ステラが国宝の魔剣を殴り壊しちゃったんだよぉ」
魔剣って、もしかしてあのおっさんが使ってた奴か?蓄積された魔力がすっからかんな魔剣って、鋼よりもろいからなぁ。ステラの拳に耐えられるわけないわ。
「これはさすがにまずいよねぇ。もう失われた技術で作られた物だから、どんなにお金を積まれても新しい物は手に入らないんだぁ」
「確かに、今は魔剣鍛冶師なんてほとんどいないですからね」
「だから、ステラには魔剣の代わりに、アタシのお願いを一つ聞いてもらうことにしました!」
「それが、この茶番?」
「茶番って言うな!こっちは真面目な話してるんだよ?」
「まあ、俺がステラの闘技を受けるだけで、魔剣のことをチャラにしてもらえるんならいいんじゃない?」
俺が勝てば何の問題も無いしね。セーラ先生に借りた愚者の腕輪はまだ持ってるし、余裕だろう。
「神々の定めに従い、闘技の開催を許可します」
「ふっふっふ。はーっはっはっはっは・・・げっほっげっほ。タツミ君、受けたね。げっほげほ」
なぜか高笑いをしてむせかえるライザ王女。なんか一国の王女ってより、やられ役みたいなんだが、大丈夫なんだろうか?
「それでは、ルールを設定してください」
「スタンダード・・・・・・」
「ルールは、闘技中に心拍数が180を超えた方が負け。こっちはステラとアタシがチームで参加するよ!」
「了解しました。それでは、ステータスを表示させる際に、心拍数も表示させましょう」
なんだ?なんかとんでもないルールが追加されたんですが?
「姫様、これって・・・・・・」
「あ~、ちょっとごめんね?」
「ソラ君、失礼します!」
そう言って、ライザ王女とステラは、俺の両脇に抱き着いてきた。
は?なんでいきなり抱き着いてきたの?
訳がわからないし、右も左もふにゃりと柔らかい感触が伝わって来るし、姫様とステラはどっちも良い匂いするし、何より息がかかるくらい顔が近い!
「それでは、ただいまより闘技を開催します。各自、シールドを展開してください」
「ちょ、ちょっと待って!」
「だ~め!」
ライザ王女が愚者の腕輪の魔石を押し込み、俺のシールドを無理矢理展開させる。
「ステータス・オープン!闘技、開始!」
ソラ・タツミ
シールド残量 21465
心拍数 194
俺は、闘技開始と同時に敗北した。
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