天空の競技者~最強を目指すつもりが、なぜか美少女育ててます
マグ
入学オリエンテーション
第1話
「まもなく、イザイル王立競技者育成学校、新入生オリエンテーションを開催する」
1年生学年主任であるマティアス・フォースが高らかに宣言すると、周囲の建物を虹色の光が包み込んでいく。神々が与える加護の一つで、『フィールド』という。この光の中であれば、自身の魔力を元に発動する『シールド』が全ての外傷から身を守ってくれる。しかも、魔力が無くなると強制的に光の外へ転移させられるというおまけ付き。
そして、光の中を縦横無尽に飛び回る数十のドローン。これまた神々の加護によって、撮影した映像を世界中の人々が見ることができるという優れ物だ。
「ドローンの配置完了。各自、シールドを展開しろ。開始までに展開できなかった者はフィールドから強制退場させられるから注意しろ」
マティアスの言葉に、生徒達は次々シールドを展開していく。すんなりとシールドを展開する生徒もいれば、上手くシールドを展開できない生徒もいた。シールドは、一番最初に習う魔法だ。ただ、平和に生活していれば使う機会などほとんど無いので、展開が遅い人も結構いる。
とは言え、ここは競技者を育成する学校なので、闘技の基礎であるシールドはすぐに展開できるのが当たり前なのだが、ここら辺が『落ちこぼれ学校』と言われる所以なのかもしれない。
「展開に時間がかかっている生徒もいるようなので、改めてルールの説明を行う。今回のルールは男子と女子に別れて行う『集団戦』である。男子チームは制限時間内に誰か一人でも女子チームの拠点へ侵入できれば勝利。女子チームは、拠点の防衛、もしくは男子チームを殲滅すれば勝利となる。それでは、各チームリーダーの指示に従い、配置につけ。5分後に闘技を開始する」
そう言い残して、マティアスは姿を消した。闘技が開始されれば、審判さえフィールドの外に出なくてはならないからだ。
フィールドの外からでも、ドローンが撮影する映像をリアルタイムで見ることができる。それに、シールドを張る魔力が無くなった者は強制的にフィールドの外に出されるので、審判がすることと言えば、ルール説明くらいなのだが。
「じゃあみんな、一度集まってくれるかい」
そう言って男子に声をかけたのは、グレイ・フォン・デトロイト。ここイザイル王国におけるデトロイト伯爵家の長男。貴族特有の無駄に整った顔立ちと、手入れの行き届いた金髪が目立つイケメンだ。ついでに1年生の主席で、今回のチームリーダーだ。
「えっと、何というか・・・・・・そうだね、程々に頑張ろうか」
なぜか歯切れの悪いチームリーダー。しかも程々とは、まるで勝とうという気力が感じられない。そんなのが学年主席とは、嘆かわしい限りだ。
「おいおい、そんなんで勝てるのかよリーダー」
「そうだぜ、俺たちはこの戦いに負けるわけには行かないんだぞ」
周りの生徒達も、グレイの覇気のなさに気がついたようで、あちこちから檄が飛んでいた。
「そうは言うけど、勝つってことはつまり・・・・・・はぁ、わかった。僕たちはいずれ競技者になるんだ。たとえどんな闘技であっても、勝つという気概がなければいけないね」
やっと腹をくくったように、グレイは拳を握りしめた。
「みんな、すまなかった。代々このオリエンテーションでは女子寮が勝利を収めていると聞いてね。少し弱気になっていた、のかもしれないね」
イザイル王立競技者育成学校では、伝統的に男子寮対女子寮の闘技が行われていた。しかしながら、この闘技で男子寮が勝ったことはない。
女子チームの拠点一歩手前までたどり着いた者もいたそうだが、そこで血を流して倒れてしまったそうだ。その後、シールドがつきるまでボコボコのボコにされたらしい。
「では、改めて。今年こそは男子寮が勝利しようじゃないか。みんな、勝つぞ!」
「「「「うおおおぉ!」」」」
男子達の咆哮は、フィールド中で響き渡った。
「はぁ、男子ってのはどこの国でもみんなバカだね」
少し離れた場所で男子寮チームのやりとりを見ていたのは、女子寮チームのリーダー、1年生次席のキャロリア・ロックフェストだった。
女子寮チームは拠点防衛が勝利条件の一つであるため、すでに各自が持ち場についている。
そして、キャロリアの持ち場は最前線であった。チームリーダーがなぜ最前線にいるのか。それは単純に、作戦の立案・指揮が全くできないからである。
リーダーが倒されれば負け、というルールでは無い以上、指揮が執れない最強戦力は、何も考えずに一番活躍ができるところに配属されたわけである。
「ロックフェストさん、勝てるわよね?」
最前線は最も戦闘が激化される。そのため、シールドを失って退場する可能性が一番高い場所でもある。
通常の闘技であれば、シールドを失えばフィールド外に退場するだけだが、今回の闘技で退場者はチームの拠点へと転送させられる。
そして、もし負けることがあれば、敗北以上の恥辱を味わうことになってしまう。
最前線に配属された少女達は、一様に不安な表情を浮かべていた。
「大丈夫よ、デトロイト様以外は有象無象。私たちだって負けないわ」
「そうだよね、ロックフェストさんがデトロイト様を抑えてくれれば」
「どうかなぁ。主席クンとは直接戦ったことないし、どっちが強いかはわかんないよ。それに、主席クンよりもっと強い人がいるかもしれないしね」
でもね、と言いながら、キャロリアは腰に下げていた剣を抜き放つと、天に掲げた。
「この魔剣に誓って、うちは絶対に負けないよ」
そう言って、キャロリアはグレイの後方に待機していた少年に微笑みかけた。
「さぁて、闘技なんて随分久しぶりだけど、カンが鈍ってないといいな」
シールドを展開した感触も、フィールドの中に立っているという高揚感も、随分と懐かしく感じた。
闘技から離れてまる2年。かつて憧れたあの人のようにはもうなれない。あの日から、輝かしい将来なんてものは、何一つ考えることもできなかった。
世界中から注目されるような有名競技者にはなれないかもしれない。大した結果も残せない、低ランクで低所得の競技者として一生を送ることになるかもしれない。それどころか、育成学校を卒業することもできないかもしれない。
そんなネガティブな考えばかりが巡っていたが、結局は大好きな闘技から離れることだけはできなかった。
「おいごらぁ、入試の時はやられたが、今日は負けねえからなぁ!ああん、ソラ・タツミよぉ!」
「ああ、はいはい。今日はチームメイトだからね。一緒に勝てるように頑張りましょうね」
感傷に浸っていると、後ろから声をかけられた。闘技直前と言うことで、軽くあしらってしまおうと思ったが、その返答が良くなかったのか、がっしりと肩を掴まれてしまった。
ぐわんぐわんと揺れるほどに長いリーゼントと、ピカピカに手入れされた金属バットが特徴で、確か名前は・・・・・・
「リーゼント・バットくん、だっけ?」
「バッツだバッツ!バッツ・リーゼンっつったろうがぼけぇ!この素敵リーゼントになんか文句でもあんのかごらぁ!俺様に勝ったからって、調子こいてんじゃねえぞああん!」
確かに入試では彼と模擬戦をして、俺が勝った。彼が連続で魔法を放ってきたから、その都度回避していただけなんだけど、魔力を使い切った彼はシールドが解除されて退場。あまり自慢できる勝ち方ではなかった。
やっぱり勝利とは、あの人のように全てをぶっ壊してこそだろう。
「・・・・・・いつかきっと、あの人みたいになってみせる」
そんなつぶやきは、誰に聞こえること無くフィールドに溶けていった。
「それではこれより、新入生オリエンテーション、『ドキッ!美少女だらけの女子風呂突入戦。王女殿下も入浴中だぞ』を開始する」
「「「「うおおおぉ!」」」」
吠える男子生徒に向かって、女子生徒達は各々の武器を構える。その武器には、これでもかというほどの嫌悪と殺意が乗せられていた。
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