第2話
「さあ、皆さん大変お待たせいたしました。ついにイザイル王立競技者育成学校の新入生による『ドキッ!美少女だらけの女子風呂突入戦』が開始されました。今年度はなんと、ライザ・リラ・イザイル第一王女殿下が参戦なさるとのこと。『王女殿下も入浴中だぞ』なんてタイトルですが、残念ながらまだ王女殿下は入浴中ではありませんよ~。さてさて、申し遅れました。本日の実況を担当させていただきますのは私。イザイル王立競技者育成学校メディア科2年、メル・エルシアです。そして~、解説はなんと学校長が直々に担当してくださいます」
「イザイル王立競技者育成学校、第36代校長のジャイロ・ウーパーです」
「硬い!カッチカチですよ校長~。この国で『マギチューブ』の視聴率がとれるの新入生オリエンテーションだけなんですから、気合い入れてくださいよ~」
「う、うむ。そうだな。申し訳ない」
「だ~から!硬いですって。朝礼とかではあんなにスラスラお話できるんですから、あの調子でお願いしますよ~」
「あいわかった。では、せっかくたくさんの方にご視聴いただいているということだから、当校の教育理念から紹介していこうか」
「あ~っと、ここで早速戦闘が開始されました~!」
開始直後、女子寮と男子寮の中間地点にある広場で戦闘が開始された。
男子寮チームは事前に女子寮エリアに入ることはできないため、ほぼ全ての戦力が最前線であるここに集結している。対する女子寮チームも、ほぼ全ての戦力をここに回していた。
「随分と戦力を集中させたな」
そう言って最前線の戦闘を眺めているのは、男子寮チームのリーダーであるグレイ・フォン・デトロイトだ。
グレイはやや後方から女子寮チームの陣形を見渡していた。
女子寮チームは近距離のアタッカーを前衛に据え、後方に中~遠距離主体アタッカーやバッファー、ヒーラーの選手を待機させている。実に教科書通りの配置だ。
しかし、例年であれば半数を前線に敷いて、半数を女子寮内に配置している。その配置で常勝していたというのに、なぜ今回はここまで配置を変更させたのか。
「皆さん、ここで変態どもを一掃します!ライザ姫様の柔肌は、絶対に死守しますよ!」
部隊の後方から指示を飛ばす生徒が1人。
グレイと同じくイザイル王国の貴族家出身のご令嬢、システィナ・フォン・ロレンティ。軍閥の重鎮であるロレンティ侯爵家の三女にして、王女殿下の幼馴染みだ。
「姫様の柔肌を狙う不届き者どもに裁きを!『ミスフォーチュン』」
システィナが手にしていた杖を振り下ろすと、杖から黒い靄のようなものが発生し、前線で躍起になって戦っていた男子生徒達を包み込んでいく。
「な、なんだぐへ!」
「う、うわぁ!」
「がは!う、うぅ、げへ」
黒い靄は一瞬で晴れていったが、その靄に触れてしまった男子生徒は、なぜかその場で次々と転倒していく。
「一斉に叩き潰しなさい!」
「「「おお!」」」
なんで自分が転んだのかわけのわからない生徒達は、その機に乗じて攻撃を受けると思っていなかったようで、女子生徒達が繰り出す渾身の攻撃が防御もできないままクリーンヒット。
どうにか立ち上がろうとするも、なぜか隣の生徒ともつれ合って再び転ぶ。結局まともに立ち上がれないまま、黒い靄に触れた男子生徒達は、残らず退場となってしまった。
「ふっふっふ。姫様に群がる害虫ども、一匹残らず処理してやる」
「さすがにそれは待って欲しいかな」
どす黒い魔力を放ちながら再び杖を構えたシスティナに、グレイは風魔法を纏わせた剣で斬撃を放つ。システィナは杖でガードするも、威力を殺しきれずにその場に尻もちをついてしまう。今の一撃で、シールドの三分の一が削れてしまっていた。
「グレイ様!」
システィナは貴族子女にあるまじき大声を張り上げ、親の敵でも見つけたかのように鋭い視線を向けた。まるで狂犬だとは、とても口には出せなかった。
「王国貴族の、それも次期伯爵ともあろうお方が、何をなさっているのかおわかりですか!」
「いやいや、さすがに何をしているのかはわかっているよ。僕だって、女子風呂をのぞくなんてことしたくはないさ」
王国紳士であるグレイは、淑女が入浴しているところへ無作法に押し入るなど、なんてアホなことか、とは思っている。
勝利条件に対して乗り気ではないため、わざわざこの場所で女子の主力と対峙しているわけだ。
「だけど、これは闘技だよ。戦う以上、勝ちを目指さなければならない」
「こんなお遊びで、姫様の玉体を世界に生配信なんて、絶対に許されません!」
「お遊び、か。まあ、この国の貴族はみんなそういう考えだよね」
頬をかきながら苦笑したグレイは、剣をシスティナに向かって構え直す。
「この国の貴族にとってはお遊びかもしれない。でもね・・・・・・僕はもう、闘技で誰にも負けないと決めている」
表情を引き締めたグレイは、ふっと息を吐いてシスティナへと斬りかかる。
剣には新たに炎の魔法を纏わせている。システィナは立ち上がって杖を構えるも、この距離でグレイが接敵するまでに発動できる魔法が無い。ならばと覚悟を決めて、攻撃を魔法から棒術に切り替える。
「公爵令嬢が、意外とやるね」
「姫様をお守りするために、できることはなんでもしましたから」
「だったら、姫様の思いも、しっかり護らないとね」
「なにを!」
グレイは下段から斬り上げを放ち、システィナの杖を弾き飛ばす。
「デトロイト流剣技、火の章・火円!」
煌々と燃え上がる炎の剣は、円上の軌跡を描きながらシスティナを両断する。杖を失ったシスティナはガードすることもできず、シールドを全て吹き飛ばされてしまった。
「覚えていなさいグレイ・フォン・デトロイト。もし姫様が辱めを受けることになったら、その原因を作った人間全てに呪いをかけますわ!」
『システィナ・フォン・ロレンティ、退場で~す!』
なんとも間の抜けたアナウンスと共に、システィナの身体は光の粒子となって消えていった。
身につけていた装備一式を残して。
「あ~あ、あっさり倒しちゃったね」
侯爵令嬢をひんむいた、なんて悪評が立たなければいいな。と心の中でつぶやいていると、近づいてくる人影に声をかけられ、グレイは剣を構え直した。
「この国のご令嬢は、意外と派手な下着着けてるんだねぇ」
紫色のそれをつまみ上げながら、1人の少女がにやりと笑った。
「戦利品だけど、いる?」
いくら自分が倒したとはいえ、下着まで奪えるルールでは無い。それに、透けるほどに薄い布地だなんて凝視していたら、世界中にその痴態が配信されてしまう。
目の前でヒラヒラと揺らされたそれから、グレイは思わず視線をそらせた。
その一瞬の隙をついて、少女はグレイに向かって斬りかかる。それを予想できたのか、グレイは慌てること無く自分の剣で受け止めた。
「へぇ~、今のを受け止められるんだ」
「さすがに、女性の下着に気を取られて退場した、なんて思われたくは無いんでね」
グレイはそのまま剣を押し返すと、少女は無理に対抗しようとせず、バックステップで距離をとった。
「改めまして、直接戦うのは初めましてだね。うちはキャロリア・ロックフェスト。現時点では学年次席だよ。よろしくね、主席クン」
「僕はグレイ・フォン・デトロイト。試験では学年主席の栄誉をいただいた。できればこんな戦いはしたくないんだけど、これも正式な闘技だからね。申し訳ないけど、本気でやらせてもらうよ」
「どぞどぞ。うちも、手加減なんてしないかんね!」
名乗りを終えた2人は、再び斬り結びはじめた。
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