第38話





 目が覚めたら、ベッドで寝ていました。


 この天井は、残念ながら知っています。保健室です。


 なんで私は保健室のベッドで寝ているんでしょう?さっきまで、なんだか良い夢を見ていた気がするんですけど、思い出せません。


「おお、起きたか」

「セーラ先生?」


 ベッドから体を起こすと、イスに座っていたセーラ先生に声をかけられました。ちょこんとイスに座っている仕草は、お人形さんみたいでとっても愛らしいです。


 子どもと見間違う程の容姿なのに、口調は荒っぽいんですけど、それがかえって人気があるらしいです。


 ソラ君が、ぎゃっぷもえ?とかって言ってました。


「そ、そう言えば、ソラ君は?私、どうしてここで寝てるんでしょうか?」


 思い出してきました!私、ザニス様との闘技で勝ったんだ。でも、その後ザニス様がミシリガント様と一緒にやって来て、暴力を振るわれて・・・・・・


 そこにソラ君が颯爽と現れて、私を助けてくれたような?


『俺の弟子に手を出すな(キラン)』って言ってた!そうです、ソラ君に弟子だって、初めて言ってもらったんです!


「ふふふぅ、私、ソラ君の弟子ですぅ」


 弟子として修行はたくさんしてもらったけど、面と向かって言われたことなかったもんねぇ。


「あぁっと、それでよ。お前の師匠なんだけど、この国の騎士様と闘技してんぞ?」

「ふえぇ!もしかして、ミシリガント様ですか?」

「名前は知らん。騎士に興味はねえからな。ただ、お前と1回戦で戦ったボンボンの持ってた魔剣の正式な使い手みたいだな」


 にやけていた頬が、急に動かなくなったように固まりました。


 ミシリガント様にされたことを思い出すと、体中に痛みを感じる。


鞭で打ち据えられた感覚や、足で蹴りつけられた時の衝撃。


 カタカタと体が震えているような気がする。どんどん体が冷えていくのを感じる。怖いって感覚を、全身が忘れていなかったみたいだ。


「大丈夫だ」


 震える体を、セーラ先生がそっと抱きしめてくれました。体は私よりちっちゃいし、おっぱいも全然ないけど、温かくて、甘い匂いがして、すごく安心した。


「お前の師匠は、あんなくそったれな騎士に負けんのか?」

「・・・・・・負けません。私の師匠は、ソラ君は、世界で一番、強いんです」


 そう口にして、体の震えが治まった。セーラ先生の体温を感じて、体もみるみる熱を取り戻していってるのがわかる。


「もうすぐ闘技が始まるけど、どうする?」

「い、行きます!」


 闘技を挑んだことはあるけど、ソラ君の闘技を生で観るのは初めてです!絶対に見逃せません!


 跳ねるようにベッドから飛び起き、セーラ先生の手を掴みます。これ、手をつなぐのが正解な気もしますが、やったら絶対怒られそうです。


先生のちっちゃいお手々、今日のところは我慢します。




 闘技場の入り口にさしかかったところで、中から大歓声が聞こえてきた。もう闘技が始まっちゃったんでしょうか、急がないと、師匠の雄姿を見逃してしまいます。


「ちょ・・・ま、待て・・・早い・・・ぜぇ、はぁ・・・」


 どうやら、セーラ先生には辛い速度で歩いてしまったようです。息を切らせてへたってる先生もかわゆい・・・・・・いけません、私はソラ君推しなんです。


「もう・・・観客席じゃ、なくても・・・良いだろ?このまま・・・入場用の・・・通路に行こう。ふぅ。どうせ、後であたしが必要になるからな」


 一息入れて、セーラ先生が復活しました。おでこの汗を拭ってるところがまた可愛らしいのですが、深くは追求しません。そんなことより、気になることをおっしゃいましたね。


「セーラ先生が必要になるって、どういうことですか?」

「まあ、闘技が終わればわかる」


 闘技中はシールドを展開していればケガをすることはないはずです。ちょっとだけ引っかかりましたけど、でも今は、ソラ君の闘技を観る方が大事です!


 セーラ先生に言われた通り、選手の入場用通路に入ると、先ほどの混雑が嘘のように誰もいませんでした。


 2回戦に出場した人も、どうやら観客席に回って闘技を観ているらしい。


 私が言えたことではありませんが、準備とか、大丈夫なんでしょうか?


「それでは、闘技、開始!」


 神官様の掛け声と同時に、ソラ君の姿が消えました。さすがソラ君です、私の目では全く追えません。


 でも、ミシリガント様は違ったようで、ソラ君が放った『ファイナルジャスティスドラゴスレイブレイカー』に合わせるように、剣を構えました。


 でも、それは全くの無駄だったようで、剣は粉々に砕かれ、護りを失ったミシリガント様の顔にソラ君の足が直撃しました。


「まさか、剣を蹴り砕くとはな」


 セーラ先生は驚いているようですけど、ソラ君なら、それくらい普通だと思います。


 そんなことより、武器を失ったミシリガント様は、新たに2本の剣を抜きました。片方は白銀に輝く短剣。片方は紅蓮に燃えるような長剣です。


 これが魔剣。何とも圧迫感のある剣です。ソラ君のキラキラオーラが無かったら、もっと凄みを感じたかも知れません。


「まずい、避けろ、少年!」


 ミシリガント様が短剣を振った瞬間、セーラ先生が叫びました。それと同時に、闘技場の地面が一瞬で凍りついてしまいました。


 ソラ君の足も、なぜか凍りついています。でもあれって?


「わざと攻撃を受けましたね」

「わざとだと?少年はあれを避けられて、わざと喰らったってのか?」

「そ、そう思います。ただ正面から攻撃しただけで、ソラ君に当てることなんてできませんよ」


 あんな簡単に当てられるんなら、私だって修行の時に攻撃が当てられてるはずだ。


 たぶん、当たっても問題ないと思った?


 だって、特に焦った様子はないし、足元に魔力を集めて炎を発生させてる。


 それに気づかなかったミシリガント様は、余裕の顔で炎弾を放ったけど、あっけなくソラ君に蹴り返されちゃった。


 焦って転がっているミシリガント様の姿を見て、胸のすくような思いをしたのは内緒です。


「ぷぷぷ。俺の炎で溶けるくらいだから、大した威力じゃないんじゃない?」


「あのバカ!魔力を無駄に使いやがって。あとでどうなっても知らねえぞ!」

「ど、どういうことですか?」

「少年には『愚者の腕輪』っつう魔道具を貸したんだ。そいつのおかげで、腕の周りも無駄な魔力消費をしねえでシールドを展開できてる」


 そ、それは凄い魔道具です!シールドの魔力消費が抑えられれば、その分攻撃に魔力を回せるようになって、ソラ君の技がたくさん見られるようになります!


「でもな、代償が当然ある。本来は、魔獣狩りの際にシールドを自動で展開し続けるための魔道具だ。闘技だとフィールド内にいりゃあ、一度展開したシールドは魔力が続く限り切れることはねえが、外だと違う。身体強化と一緒で、常に魔力を操作しなきゃならねえ。そんなことしてたら、魔力操作が苦手な騎士見習いたちが戦えねえってんで、開発されたのがあれだ」


 身体強化をしながらシールドにも魔力操作をする。確かに大変です。できるようになるまで、私も散々溺れました。


「あれを使えば、魔力神経が焼き切れていようが、自動でシールドが展開される。だが、シールドを解除した瞬間、反動で消費した魔力の倍のダメージが体を襲う」

「え?え?どうしてそんなことに?」

「知らん!」


 それじゃあ、ソラ君がシールドを解除したら、闘技で消費した魔力の倍のダメージが?


 結構派手に技を使用してるけど、大丈夫なんでしょうか?


 不安な気持ちが膨れ上がる。それでも試合が進んで行って、ソラ君はミシリガント様に完勝した。


 最後に表示されたシールド残量は23051。開始から約5000の魔力を消費していた。


 反動で受けるダメージは約10000。それが果たしてどれほどの痛みなのか、私には想像もできなかったけど、その痛みは、きっと私のせいで与えた物になるんだと思った。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る