第12話




「そ、ソラ君!お、お昼ご飯を一緒に食べましょう!」


 と言うステラを振り切って、俺は一人、昨日の校舎裏にやって来ていた。


別に、一緒にお昼を食べてくれる友人がいないから、人がいない場所でぼっち飯をしようとか、そういうつもりでは無い。


 昨日、ステラが身体強化もしないで穴を空けるという、とんでも現場をもう一度見ようと思ったからだ。


「魔力も使わない、身体強化もしない。それで、こんなことできるのかよ」


 ステラが殴ったとき、間違いなく木の表面に拳をぶつけただけだった。腕が向こう側まで突き抜けた、なんてことは無かったはずだ。


普通なら、インパクトを受けた部分から全体的に威力が伝わって、ポッキリ折れるんじゃないか?


 何らかの魔法を放出して、貫通させたっていうなら理解はできるんだけど、空いている穴を見る限り、魔法が使われた痕跡はなさそうだ。


 実はもの凄い拳術の使い手で、何らかの技を使って穴を空けた?


「これが、天才って奴なのかな」


 はあ、と小さなため息を吐きながら、木陰に腰掛ける。気分が落ちている時は、何を考えても悪い方に考えちゃうな。


 悪い考えは、食事でもして払拭しようと、先ほど購買で購入したパンを取り出す。


今日のランチはロックバードのカツサンドとタマゴサンド。ここの購買の、俺オススメ親子セットだ。


「まずは、タマゴサンドから」


 三角に切られたパンの天辺にかぶりつく。小さな幸せを噛みしめようとした瞬間、向かいに座っていた少女と目が合った。


 気まずい。


 目が合った少女は、食事を続けるべきかこちらに話しかけるべきか迷っているようだ。できればそこは、お互いに気づかないふりをして食事を続けるべきだ。


 俺はそう訴えるように、もう一口かぶりつく。


「・・・・・・」


 その訴えに気づいたようで、少女も手にしていたパンにかぶりついた。俺はそのまま視線をそらし、彼女から意識を外す。


 こういうのは、知らん顔していた方がお互いに傷つかない。ま、まあ、俺は別にぼっちではないので?明日からは友達と食べるし?


 変に相手側に気を遣わせて、彼女が明日からトイレで昼食することになったら大変だもんな。


「ねえ、こんなところで何してるの?」


 そんなことを考えていたら、なぜか少女の方から声をかけてきた。


「もしかして、こんなところでお昼を食べているの?」

「そ、そうですけど。き、キミもそうだよね?」

「アタシ?アタシはもう友人と昼食を済ませたよ。今は、食後の散歩中、かな?」


 こ、コイツ。ぼっち飯してたのを無かったことにしやがった。しかも、友達いますアピールまで織り交ぜて、完全にマウントを取りに来ていやがる。


 落ち着け俺。普段の俺はぼっち飯をしていない。今日はたまたま、ここに用があったから、ついでに昼飯をここで済ませただけだ。


 彼女はきっとここの常連で、彼女にとってここは聖域だ。それを奪われないために、必死になってるだけだ。


 俺が彼女にしてやれることは、今後お昼にここに近づかないと遠回しに伝えること。そして、彼女の自尊心を護ることだ。


「散歩ですか。なら、あまりお邪魔しても悪いので、明日からはここに近づかないようにしますね」

「アタシもたまたま通りかかっただけだから、そんな気を使わなくても良いんだよ?クラスメイトじゃない」

「・・・・・・」


 あっぶねえ!クラスメイトとぼっち飯現場で鉢合わせとか、彼女に申し訳なさすぎる。確かに、どこかで見たことあるような気はしてたんだよ、たぶん。


「そ、そそそ、そうだよね。でもさ、やっぱりクラスメイトにぼっち飯してるところを見られるのって、やっぱり気まずいしさ」

「ぐっは!」


少女に精神的なダメージ。少女は片膝をついた。


ああ、やってしまった。これじゃあお互いの傷口に塩を塗り込んだようなものじゃないか。


「大丈夫だ。俺はこの国に来たばかりで知り合いはほとんどいなかったけど、「ぐさ!」何人かは友人もできたし、「ぐさぐさ!」明日からは教室で友人と昼飯を食べることにするから、「う、うぅ」心配せずにこの場所を使ってくれ!」


 言葉の端々で彼女にダメージを与えてしまったようだが、仕方ないよね。ここではっきりと言っておいた方が、今後彼女が安心してここを仕えるはずだ。


「・・・・・・そっか。そうだよね。友達がいるなら、こんなところに来るより教室で食べた方が良いよね」

「そ、それじゃあ、また、午後の授業で!」


 これ以上関わり合いにならないことがお互いのためだ。そう思い、俺はチキンカツサンドを加えながらその場を走り去った。できればゆっくりとサンドイッチを味わいたかったなあ。




「それでは、二人一組を作ってください」


 午後の実技の時間、担当の教師がそのようなことを言い出した。昨日までは施設の見学や利用方法についての説明を行っていたので、本格的な実技の授業は今日が初めてだったので、まさか二人一組を作れと言われるとは思ってもみなかった。


 まあ、俺にはリーゼント君という友人がいるので、慌てる必要は無いわけだが・・・・・・


「バッツの兄貴!俺と組んでくだせえ!」

「ああん?しょうがねえなあ」


 いかにも面倒くさそうな表情を浮かべながら、リーゼント君はどこかへと行ってしまった。


「せっかくだしぃ、あーしと組もぉよ」

「よ、よろしくお願いします!」


 ステラは、エィリーンさんと組んでしまったようだ。


 周囲を見渡して、現状を確認する。ふむ。ふむふむ。ふむふむふむ。


さぁっと背中に冷たい汗が背中に伝うのがわかった。すでに大体の生徒が二人組を作り終えてしまったようで、周囲で一人きりなのは俺だけになっていた。


このままでは、『余った人は先生と組みましょう』と、かわいそうなものを見る目でクラスメイトに注目されながら、先生と一緒にお手本を行うことになってしまう。


「あ~、まだ二人組が作れていない生徒はいるか?欠席がいなければ割り切れる人数のはずだが・・・・・・」


と言うことは、未だに相方を見つけていない生徒が少なくとも一人はいるということか。悪目立ちする前に、その生徒を見つけてしまおう。


「「あ!」」


必死に周囲を探し回っていると、一人の少女と目が合った。デジャヴかな?ついさっきも、同じようなことがあった気がするよ。


お昼の様子を見る限り、余り者の一人は彼女で確定だろう。しかし、ここで組むとお互いに気まずすぎる。


 どこかにまだ見ぬ余り者はいないだろうか。いないよねぇ。


「「・・・・・・」」


再び彼女と視線を交わし、必死に表情を繕いながら少女の元へと歩を進めた。彼女もあきらめたようで、笑顔を浮かべながらこちらに向かってくる。


「また会ったね。友人が別の友人と組んでしまって、余っているんだ。良かったら俺と組んでくれないかな」

「いいよ。アタシも、友人が体調を崩して欠席していたので、組む相手がいなかったの。よろしくね、ソラ・タツミ君」

「こちらこそよろしく」


 そう言って、お互いに笑顔で握手を交わす。こんなに悲しい握手は初めてした。


「ところでタツミ君?」


彼女は俺の手を握ったまま、にこりと笑顔を向けてくる。


「タツミ君は、アタシの名前を知らないのかな?」

「・・・・・・知ってるよ?」


何分後かの自分は、きっと彼女の名前を知っているだろう。


だってまだ数日しか経ってないのに、クラスメイト全員の顔と名前を覚えられるわけないじゃん。ちゃんと自己紹介してれば、俺だって覚えられるよ?でもこの学校、入学初日にクラス内で自己紹介する時間とってくれないんだもん。


 俺が彼女の名前を知らないことを察したのだろうか。彼女はさみしそうに表情を歪めると、ささやくように自分の名前を告げた。


「アタシの名前はライザ。ライザ・リラ・イザイルだよ」


 その名前は、イザイル王国の第一王女と同じだった。




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