第32話





 この世界には、魔剣という武器が存在する。


 魔剣は事前に込められた魔術を自由に行使することができる。さらに、魔剣に蓄積された魔力を消費するため、自前の魔力を温存できる。


 メリットが大きいように聞こえるが、しかし魔剣は時代と共に廃れていった。


 その最たる理由が、同じ魔術しか行使できないこと。


現代の闘技において、育成学校の普及や私塾の開設などによって、多種多様な魔法・魔術が用いられるようになった。


純粋な後衛アタッカーとしての魔術士・魔法使いはもちろん、前衛の剣士でさえ魔術や魔法を使用する。俺だって、属性魔法を利用した技を使用することは少なくない。


魔剣使いと比較されるのは魔法剣士だが、魔剣使いが1つの魔術しか使用できず、切り替えができないのに対して、魔法剣士は複数の魔法を発動できる。つまり、相手の弱点をつくことが容易である。


 これ以外にも、蓄積した魔力が無くなれば闘技中に自分の魔力で補給しなければならないこと。作成に多大なコストがかかること。魔術を込めるための魔核が手に入りにくいこと。そもそも強力な魔術を封じ込める魔術士がほとんど現存していないことなどなど。様々な問題があり、現代では魔剣を用いる競技者はほとんどいない。


 さてさて、なんでそんな話をしているのかと、ステラの対戦相手の腰に下げられている2本の剣が、紛れもない魔剣だったからである。しかも、観客席から一目見ただけでわかるような、強烈な魔力を内包している。


 先ほど魔剣の問題点をつらつらと語ったが、何事にも例外はある。


国家規模で資材や魔力、人材を賭して造り上げた魔剣は規格外!まさにチート性能の威力を誇ると言われている。あれはまさにその一振りだろう。


 闘技大好きな俺でも、あれだけ強い力を放つ魔剣を目にするのは初めてだ。映像でも見たことない。だって、国家同士の利権をかけて戦う闘技は基本的に動画で配信されないから!


 チート性能の武器は、それだけで国家機密だ。動画で配信されれば、その性能や弱点などが露呈する可能性もある。弱点がバレて対処されれば、あとは食い物にされるだけだからね。


 だから、こんなドローンが飛び交う学校のランキング戦で使用して良い物ではないのだ。


 それがわかっているから、先ほどから国王陛下とライザ王女は頭を抱えているって訳だね。俺は性能が見たくてワクワクしてるけど。


「あれは国境守護のために、初代国王がカルボモニス家当主に下賜したといわれている、双魔剣『フレアブリズ』だ。あれのおかげで国境線をどうにか保っていたというのに、よりにもよってこんな公の場に持ち出すとは」

「お父様、至急カルボモニス領に誰か手練れの騎士を向かわせた方が良いんじゃない?」


 国防の要があそこにあるということは、お坊ちゃんの領地は防衛力を無くしているということ。


 隣接する国にとっては、門を開け放っていつでも侵略してくださいと言っているようなものだからなぁ。


 そんな大事なものを持ち出すお坊ちゃんも、貸し出すお父さんもバカなんじゃないかな?


「カルボモニス領には騎士ミシリガンドがいるはずだが、魔剣の力が無ければ厳しいか?」

「うちの騎士って闘技苦手でしょ?イザイル王国に伝わる武具がなければ、戦いにならないと思うよ」

「・・・・・・うむ」


 後ろに騎士が大量に控えているというのに、平然と言ってのける王女様の胆力には頭が下がる。苦虫を噛みしめ続けているようなとんでもなく渋い顔している彼らが目に入っていないのだろうか?


「グリスト近衛騎士団長に伝令を。急ぎカルボモニス領へ向かうように伝えよ。宝剣の使用も許可する」

「は!」


 一人の騎士が敬礼をして、慌てて部屋を飛び出して行った。これがいわゆる国家の危機という奴か。俺には関係ないことだから、こんな場面に立ち会いたくなかったけど。


「姫様、お坊ちゃんが持っている剣が魔剣だって、動画を見てどれくらいの人がわかる物なの?」


 この距離でも、魔力に敏感な者にはあの剣が異常だとすぐにわかる。しかし、動画では魔力を感じ取ることができない。


 遠目で見て派手な鞘だなぁとは思うけど、国や貴族家の紋章が入っているようにも見えない。貴族のお坊ちゃまが高そうな剣をぶら下げてるなぁ、くらいの感想しか出ないんじゃないかな?


「どうかなぁ。確かに今のままだとわからないと思うけど、鞘から抜けば確実にバレると思うよ?カルボモニス領と国境を境にしているザラン王国の諜報員は優秀だからねぇ」


 つまり、鞘から抜きさえしなければバレないってことか。


「だったら大丈夫じゃない?」

「大丈夫って、試合が始まればあれが魔剣だって全世界に・・・・・・」

「まあ、伝令の人が出たんだから、ここで出来ることももうないでしょ?俺たちはしっかりとステラの応援をしてあげようよ」

「・・・・・・わかった」


 本当にわかってもらえたんだろうか?そんな睨みをきかせた同意をされてもこちらが納得できないよ。


 王女殿下として、この国が心配だってのは理解できるけどね。


 その心配も、きっと杞憂で終わるだろうさ。




「ザニス・カルボモニスとステラ・ランダ―のランキング戦は、事前に申請がなされたため、正式な闘技として開催いたします」


 審判役の教員と入れ替わるようにして、フードを目深に被った神官が現れる。


 突然のことに、観客席からはどよめきが上がっていた。


「改めて、勝者の権利について確認いたします。ザニス君が勝利した際には、ソラ・タツミ君を生涯あなたの奴隷とする。間違いありませんか?」

「ふん。間違いない」


 音響魔法によって会場全体に声が響き渡る。いつ聞いても気色の悪い条件だと思うが、お坊ちゃんは満足そうだ。


 あんまりな内容に、会場からはブーイングが巻き起こる始末である。


「ステラさんが勝利した際は、ザニスさんに領内の平民を対等な人間として扱ってもらう。間違いありませんか?」

「は、はい」


 こんな当たり前のことを闘技で認めさせなければならないのかと、頭が痛くなってしまう。ちらりと王族の様子をうかがうと、国王は開いた口が塞がらないと言った様子。それはどういう意味でお口あんぐりしちゃってるのか、後で聞いてみたいものだ。


 それに対してライザ王女は羞恥と悲しみの入り混じったような、何とも言えない表情をしていた。俺の説教が効き過ぎちゃったのかな?ごめんって。


「ルールはランキング戦と同様、個人戦基礎ルールとします。両者、シールドを展開してください」


 以前はまごまごして時間のかかったシールドの展開も、今では自然に展開が可能になっている。ステラのこれまでの努力は、無駄になっていない。


「ステータス・オープン」




ザニス・カルバモニス シールド残量

98


ステラ・ランダ― シールド残量

2237




 開始の合図を待って、お坊ちゃんは剣の柄に手をかけ、ステラは拳を軽く握って構えをとる。


 変に力が入っていないようだ。


「それでは、闘技、開始!」


 開始の合図とほぼ同時に、身体強化を展開したステラは一瞬でお坊ちゃんの背後に回り込み、渾身の一撃を後頭部目掛けて叩きこむ。


 目の前からステラがいなくなったことをお坊ちゃんが気づいた頃には、すでにステラの拳が致命的な一撃を加えていた。


「ファイナルジャスティス―――」

「は?」


 哀れお坊ちゃんは、衝撃を受けた瞬間にシールドが全損し、闘技場から退場していった。


「ドラゴスレイブレイカァーーーーー!」


 この技の最大の欠点は、技名を言い終わる前に攻撃が終わってることだよね。だから、お願いですからその技名を公式の場で言うのはもう止めてください!






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