第22話
突然話があると言われても、こちらには全く関係が無いわけで。いくらこの国の第一王女だと言われても、ただの留学生の俺が律儀に付き合ってやる必要は無いだろう。
「悪いけど、これからセーラ先生のところに行く予定がありますんで、失礼しますよ」
眠っているステラを抱え上げようとして、手が止まる。左腕使わないと、無理くね?
でも、失礼しますね。なんて格好つけてしまったから、引くに引けない。
「いよっと」
右腕をどうにかステラの体の下に滑り込ませる。そこから腕の力だけでステラを持ち上げると、ずるりとステラの体がずれた。
「う、うぅん・・・すぅ・・・すぅ・・・」
落としてしまわないように自分の体も使い、どうにかステラの足を地面につけることに成功する。
ちょっと奇跡が起きたとしか言えないんだけど、立ってしまったステラを正面から抱きしめてる状態だ。何これ?
びしょ濡れのステラを抱きしめたせいで、俺の制服までずぶ濡れだ。まあ、それは良いだろう。そんなことよりも、体を密着させてしまったことで、ステラの胸が・・・・・・
水着越しだと、温かさとか柔らかさとか、ダイレクトに伝わって来る!
「煩悩は敵、煩悩は敵、煩悩は・・・・・・」
「えっと、手伝うよ?」
必死に自分の中の煩悩を取り除こうとしていた時に、再びライザ王女から声がかけられる。まだいたのか?
「とっととぼっちの世界にでも帰ってしまえばいいのに」
いえいえ、姫様のお手を煩わせるわけにはいきませんので、お気になさらないでください。
「ぼ、ぼっちの世界・・・・・・」
おっと、思っていたことと口に出したことが逆になっていたようだ。まあ、今さらだけどね。
「ここまで来れば楽に担げるので大丈夫ですよ」
立位になったステラを肩に担ぎあげる。ちっこいだけあってかなり軽いな。
最後に頭ぐらい下げるかとライザ王女に向き直ると、彼女は瞳を潤ませながら、寂しそうな視線を向けてきた。
そんな表情でも絵になるんだから、第一王女ってのは伊達じゃないんだな。
「タツミ君は、アタシのこと、嫌い?」
あ~、ここに来てなんて面倒な問いを投げかけてくるんだ。嫌いだなんて、不敬過ぎて言えるわけないし。
かと言って、好きですよ。なんて思っても無いこと言えないしな。
「何とも思ってませんよ」
「それ、嫌いって言うよりひどくない?」
そうなのか?嫌われるよりは全然いいと思うんだけどな。
「まあいいや。アタシのことが興味無くても、ステラさんの事は違うでしょ?アタシ、ステラさんの荷物持って行ってあげるから、先にセーラ先生のとこに行ってて」
「はあ、どうもすいません」
俺のテキトウな返事を聞いたライザ王女は、苦笑しながら駆けて行った。
さて、俺も行くとするか。
「言っとくけど、ここは連れ込み宿じゃねえぞ」
「知ってますけど?」
開口一番不機嫌さを隠す事無くそんなこと言うのやめてもらえませんかね。どうして水着でずぶ濡れの女の子を連れ込み宿にテイクアウトしなければならないのか。今が午後の授業中で本当に良かった。他の生徒に見つかれば、また何を言われるかわからないし。
それにしても、ステラはいつまで寝てるんだか。けっこう揺らしたりしたと思うし、何度も起こそうと声をかけているのだが、全く起きる気配はなく、今も気持ちよさそうに寝息を立ててお眠りである。
「とりあえず、こいつをベッドに寝かせても良いですかね?」
「体拭いてからなら寝かせても良いぞ。ほれ」
どうして俺にバスタオルを渡そうとするんですかね?担いできただけでもギリギリなのに、直接触って体を拭くとか、完全にアウトな気がする。
それでも、このままステラを放置しては本当に風邪をひきかねない。だったら、ここは精神修行と思ってやるしかない。
ゴクリ。と喉を鳴らしたところで、セーラ先生は俺に渡そうとしていたバスタオルをベッドに敷いた。
「いや、さすがにそんなことさせるわけねえだろ。ひくわ」
「うぐぐ。少年の心を弄んで楽しいですか」
「まさか本気にするとは思わなくてな、すまん」
謝らないでくれ。余計恥ずかしくなるじゃないか。
「ほれ、ここに寝かせてやれ」
「・・・・・・はい」
顔が熱いのは気のせいだと思いながら、ステラをベッドに寝かせる。まさに肩の荷が下りたってやつだ。
「おいおい、見てみろよ少年。こいつ、以外と胸が・・・・・・」
「知ってますから言わないでください!」
「ほっほぉう、やってんなぁ少年?」
「やってないですから!」
な、何をやったって言うんだ。そんなんやるくらいなら修行するわ修行!
「へえ、二人って、そこまでの関係なんだね」
背後から、とんでもない魔力量を感じます。お願いですから、その状態で俺の体に触れないでください。
「アタシに荷物を取りに行かせて、何かお楽しみだったのかな?」
「おう、何だったら今度、姫様も混ぜてもらえば良いだろ?」
「え?良いの?」
「言い分けないでしょ!」
「ダメなの?」
この姫様、ぼっちが極まりすぎてて人と関われればなんでも良いってのか?
「二人きりで修行なんてずるいじゃない。アタシだって、タツミ君の友達なんだから」
「あ、ああ。そっちね」
さすがに一国の姫がそんなお楽しみなんてしないよね。うん、わかってたわかってた。この国では御貴族様とそれ以外で随分と壁があるみたいだからな。平民相手に、そんなことはしないよね。
「さっきだって、本当はずっと見てたんだよ」
「だったら、その時に声をかけてくれれば・・・・・・」
「だって、タツミ君、あの時、怖い顔してたから」
怖い顔はしてないよ。ただ、あんた方御貴族様に呆れていただけで。
「アタシは、平民の人だって差別なんかしないもん。物扱いなんて・・・・・・」
「じゃあ、どうしてステラを助けなかったんですか?わざわざステラを利用して、あの貴族のお坊ちゃまをおびき出したでしょ?」
「それは、タツミ君に・・・・・・」
「理由はどうでもいいですけど、友達を危険な目に遭わせられたら、嫌な顔くらいすると思いませんか?」
「そ、そうだけど・・・・・・」
「あなたは、俺の友人を駒のように扱って、危険な場所に送り込んだ。これは、物扱いとは違いますかね?」
「・・・・・・そんなつもり、なかったの」
あ~あ、ちょっと苦言を呈しただけでどうして泣きそうになるんですかね。
「ステラはもっと嫌なことを・・・・・・」
「あ~、はいはい。ドクターストーップ!」
もうちょっと言いたいことがあったんだけど、セーラ先生が俺たちの間に体を滑り込ませてきたせいで遮られてしまう。
「とりあえず、少年はちょっと外に出ろ!」
「なんで!」
「なんでもだ!」
なぜか物凄い勢いで保健室から叩き出された。不本意この上ない。そもそも俺はセーラ先生の治療を受けるためにここへやって来たのに、どうしてライザ王女が中で俺が外なのだろうか。
ケガした他国の平民よりべそ掻きそうな自国の王女の方が大事ってことかな。
「うええぇん、あ、あだじ、ふだりにひどいごとじた~」
「・・・・・・」
やっべ、姫様ぎゃん泣きである。
俺のせいだってのはわかる。俺が姫様を泣かせたのはわかっていますが、これ、俺悪くないよね?
「はぁ、またメンタルが落ちそうだ」
あの調子じゃ、いつまで経っても泣き止まなそうなので、今日の治療はあきらめて帰るとするか。
せっかく右肩が復活したし、右腕の筋トレでもしよう。体を少しでも動かさないと、今夜はゆっくり眠れそうにないからな。
結局、夜はゆっくり眠れなかった。
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