第6話
「そ、ソラ君!と、とと、止まってください!」
女子寮の玄関をくぐったところで、1人の女子が立ちはだかった。
両手を横に広げているものの、上下にアタフタと上げ下ろしをしており、腰はかなり引けている。
おまけに武器を忘れているようで、両手には何も持っていなかった。
「ごめんね。もうすぐゴールだからさ、ちょっとだけ通してくれる?」
「ダメです!わ、私が最後の砦なので、ここを通りたければ、私の屍を超えていけぇ!」
どうやら女子寮の守備は彼女を含めて3人しかいなかったらしい。随分と大胆な作戦を立てたものだ。もしくは、この3人がとんでもなく強いとか?
「う、うぅ・・・早く時間切れにならないかなぁ」
瞳いっぱいに涙を溜め、目前の敵ではなく壁に掛けられた時計を見つめて祈っている少女が強者だとは、とても思えなかった。
「俺と戦うことになるけど、良いの?」
「の、望むところです!」
ちょっと圧をかけてみたけど、逃げ出す様子はなかった。どれだけ気が弱くても、一応は競技者育成学校の生徒と言ったところか。
「じゃあ、せめて武器くらい持ってきなよ」
「ぶ、武器ならここにあります!」
そう言って、彼女は自分の拳を突き出した。
「私の武器は、この拳です!」
「・・・・・・拳士か」
まさか、こんなところで拳士に出会うとは思わなかった。出会いたくなかった。だってそれは、俺が・・・・・・
「い、行きます!・・・・・・破!」
少女の拳は、躊躇無く俺の鳩尾目掛けて突き出された。彼女が拳士だと知って動揺していた俺は、回避が一瞬遅くなる。
ギリギリのところで躱しきることができたのは、彼女の溜めが長かったおかげだろう。
「もう一度、行きます!・・・・・・破ぁ!」
さらに突きを繰り出してくるが、今度は余裕を持って躱しきることができた。
彼女の動きはあまりにも素直で、視線や初動を見ていればどこに拳が来るか読むのは簡単だった。
「う、うぅ・・・やっぱり当たらないよぉ」
涙目でそんなこと言われても、絶対にわざと当たったりはしてやらない。
だって、威力がとんでもなく強いんだもの。
え?なんで拳が当たってないのに、後ろの壁に拳の跡がついてるの?身体強化してるったって、生身の拳でそこまでの威力はでないでしょ!
ラッキーパンチで一発でももらえば、かなりシールドを削られる可能性がある。ここは、あまり時間をかけずに本気でやった方が良さそうだ。
「俺はソラ。ソラ・タツミ。キミは?」
「え?」
「せっかく本気で闘技をやるんだから、お互いに名前を知っていた方が良いだろ?」
「ソラ君、私と同じクラスですよ?」
「うぇ?とは言っても、まだ入学式しかしてないじゃん。クラス発表はあっても、まだ教室にも行ったことないし」
「入学式の時、隣の席だったんですけど?その時、ちゃんと自己紹介しましたよ!」
「・・・・・・」
そんなこともあったかな?
正直な話、入学式の記憶はほとんどなかった。早朝の鍛錬をして、シャワーを浴びて、制服に着替えて、お腹いっぱい朝ご飯を食べて、かなり早い時間に会場に入って・・・・・・寝た。
式の終わりの方で目が覚めたんだけど、それまでのことは全く記憶にない。
なので、目の前の少女が隣に座っていたのも、覚えているような・・・・・・全く覚えていないな!
「も、もしかして、私の名前なんて、覚える価値も無いってことですかぁ」
「い、いやいやいや!ほ、ほら、あの時は入学式で緊張しててさ。頭の中真っ白だったから」
「うぅ、確かにソラ君はずっとうつむいたままでした。ちっともこっち向かないから、私みたいな田舎者には興味が無いのかと・・・・・・」
「そ、そんなことは無いんじゃないかな?見た目だって、すごくかわいらしいよ?」
「え、あ、そ、そう、ですかぁ?」
嘘では無い。
かなり小柄なところはあるけど、そのせいで同い年とは思えないくらい幼く見えるし、あわあわしたところなんて、小さな子どもが困っているようでとてもかわいらしい。
思わず頭をなで回したくなるタイプの女の子だ。妹的な?俺に妹はいないんだけどね。
「だからさ、改めてかわいらしいキミの名前を教えてくれないかな?」
「はうぅ、わ、わかりました。私はステラ。ステラ・ランダーです」
「よろしく、ステラ。俺はこの先に用があるからもう行くよ。それじゃ、また学校でな」
「はいぃ、また学校で・・・・・・・・・って、通っちゃダメですよぉ!」
「っち!」
「あぁ!今舌打ちしましたね。そ、そういうのはお行儀が悪いので、やっちゃダメなんですよ!」
大人ぶりたい年頃の子どもみたいで本当にかわいらしいな。さすがに頭をなで回すことはできないけど。
さて、時間も無くなってきたことだし、そろそろ本当に戦わないとダメそうだ。外のリーゼント君も、いつまで持つかわからないしな。
でもなぁ、ここ、天井が低いんだよなぁ。
「こ、今度こそ、あ、当てますからね!・・・・・・破!」
「ほいっと」
ステラの攻撃は、モーションに入ってから攻撃までの時間が長い。威力が高いのは大変結構だが、止まったままでは簡単によけられる。
「うぅ・・・・・・破!・・・・・・破!・・・・・破!」
「・・・さすがにほいっと、目をいよっと、あけないとっと、当たるものも当たらないよ」
「そんなに余裕でよけるなんて、ひ、ひどいです!一発くらい当たってくださいよぉ!」
そんな威力の正拳突き、一発でもまともに当たれば致命傷でしょ!さっきから狙いは鳩尾や心臓、喉といった急所ばかり。
急所へのクリティカルヒットは、シールド残量を大幅に削られる。あの威力のクリティカルヒット、最悪、一発退場の可能性だってある。
ガードしたって、かなりのダメージが入りそうだ。よけられるんだから、よけてしまった方が良いだろう。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「もう良いだろ?ここを通してくれない?」
「ダメ・・・です。こ、ここを通りたければ、私を、倒してから、です。確かに、私の攻撃は当たりません。でも、私だって、ソラ君からダメージは、受けてないですよ」
困ったな。もう残り時間5分も無い。この場所で、この時間で、疲弊しているとはいえ、ステラのシールドを削りきるのはほぼ不可能だろう。
奇跡的にシールド残量が1とかならいけるけど。それならすぐにでも退場してるはず。
一対一の闘技ならフィールドモニターにシールド残量が表示されてるんだけど、戦争戦だと表示されないみたいなんだよな。
「ボケソラこの野郎おおおぉ!てめえ、いつまで油売ってやがんだごらあ!」
どうしたものかと頭を抱えていたところに、なんとリーゼント君登場!
二対一の状況で二人を倒して・・・・・・
「逃がさないですよ!」
「美少女二人から逃げ出すとかぁ、マジでありえないからぁ」
倒せてないよ!なんでこっちに来るの?退場するなら一人で勝手にして欲しいんですけど?
「時間がねえんだ!とっとと二人でそこの奴を突破すんぞごらあ!」
ステラを瞬殺出来ないと、こっちが挟み撃ちで負けちゃうんですけど。そこんとこわかってんのかこのリーゼント頭!
いや、俺一人では無理でも、二人なら出来ることがあるぞ。
リーゼント君いわく、目的地はこの通路を真っ直ぐ行った先にある。だったら、行けるぞ!
「リーゼント君、俺に作戦がある。俺を信じてくれるか?」
「はん!一度は拳を交えた仲だ!信じるに決まってんだろボケがあああ!」
「わかった!俺を信じて真っ直ぐ走れ!」
「おおよ!」
リーゼント君は俺の言葉を信じて俺の横を通り過ぎて行く。それを横目で確認して、右足に魔力を集中させる。
練り上げた魔力は、イメージで属性を生み出す。今求めるのは、爆発的な火力。火が爆発するイメージだ。
「イスズ流拳闘術・脚の型・爆脚!」
俺の右足がリーゼント君のケツを蹴りつける。
リーゼント君のケツに足が当たった瞬間、そこから爆発が起こり、リーゼント君は弾丸となって吹き飛んで行った。
ステラはそれをただ見送ることしかできず、立ち尽くしていた。
ガシャンと何かが壊れる音と同時に、女の子たちの悲鳴が聞こえてきた。どうやら、上手くリーゼント君を目的地に送り届けることが出来たようだ。
「う・・・・・・ダメだなぁ」
不意の立ちくらみで、意識が遠くなる。
どうやら、勝利の余韻には浸っていられないようだ。俺の体を突如として光が包み込み、パラパラと身体が末端部分から消えて行く。退場のようだ。
たった一度技を使った程度で退場だなんて、本当に情けないなぁ。
それでも、きっといつか。俺もあの人のようになってみせる。
無敗の拳王と呼ばれた、元、師匠のように!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます