第5話
「僕はグレイ・フォン・デトロイト。試験では学年主席の栄誉をいただいた。できればこんな戦いはしたくないんだけど、これも正式な闘技だからね。申し訳ないけど、本気でやらせてもらうよ」
「どぞどぞ。うちも、手加減なんてしないかんね!」
グレイ君と女子の1人が戦いはじめた。さすが学年主席だけあって、剣術も魔法の操作も同学年の生徒とは頭一つ抜けている。そのレベルに平然とついていけているということは、あの女の子が学年次席の子かな。
どうやら彼女が持っているのは普通の剣じゃないようだけど、魔剣の類いか?最近では魔剣の使い手なんてほとんど見なくなってきたから、珍しいな。
どこか見覚えがあるような気もするけど、今はそんなこと考えている場合じゃないな。
「それじゃ、行くよ」
「おうよ。って、俺はおめえの後について行けばいいのかああん?」
そう言えば、リーゼント君をどうやって運搬するか考えてなかった。俺の後ろを走ってもらうってのはダメだろう。それならわざわざ俺が行く意味ないし。
腕を引っ張って走るってのは、さすがに無理があるよな。
「お姫様抱っこ、しても良い?」
「ふっざけんなごらああ!」
そうだよね、俺の腕力だとどのみち途中で落っことしちゃうし。
「じゃあ、おんぶにするよ」
「あんだおら、やんのか?なんでおめえにおんぶしてもらわねえといけねえんだ!」
なんか面倒くさいなこの人。ヤンキーってのはみんな話が通じないのかな?
「時間ももったいないし、面倒だから良いか。途中で落としたら、ごめんだけど」
「あ?何言ってやがんだてめ・・・えええええええええええ!」
騒いでいたリーゼント君を無理矢理抱きかかえて、上空へと飛び上がる。垂直跳びで約20メートルと言ったところか。
人を抱えているとは言え、もう少し高く飛べるように鍛えたいなぁ。
「お、おろせええええ!ぼけえええええええ!」
「ちょ、暴れないで・・・・・・あ!」
「ぎぃいやあああああぁぁ・・・・・・」
哀れリーゼント君は、暴れ回って俺の腕からこぼれ落ちて行った。それほど高さもないし、シールドがあればケガはないと思うけど、最前線のど真ん中に落ちそうだ。さすがに退場されたら困るよな。
「よっと!」
魔力を集中させて足場を作り、それを蹴って空を駆ける。『空間に魔力を集めて足場を作り出すこと』は俺の数少ない特技の一つだ。
「ぐうっへぇ」
高速で滑空しながらリーゼント君をキャッチ。あまりにも速度が出過ぎたため、リーゼント君の身体はくの字に折れ曲がってしまったが、それは気にしない。
そこからさらに足場を作り出して、再び上昇。
今度はリーゼント君も肩に担いでいるので、そうそう落とすことはないだろう。
「あんまし大きな声出すと、女子にバレるから気をつけてね?」
「・・・・・・」
返事がない、ただの屍のようだ?
いやいや、リーゼントがピョンピョンうなずいてるから、大丈夫だろう。
広場で戦っている女子たちを通り抜けるために、足場を背後に作り出して、空を真っ直ぐに移動した。
「ぐっふ・・・ぜぇ、はぁ・・・・・・ごっほごっほ」
最前線で戦っていた女子たちを飛び越してからは、誰にも見つかることなく女子寮の玄関まで到着した。
このまま玄関から入るか、別の場所から侵入するか。
女子寮チームはほぼ全ての戦力を中央の広場に回していたから、領内には目的地付近に何人か残しているくらいだろう。
だったら、玄関から入っても問題無いかな?
「リーゼント君はどう思う?」
「ぜぇ、ぜぇ・・・・・・くた・・・ろう」
「くだろう?もしかして地下に目的地があるの?」
それにしても、意識戻ってからずっとはぁはぁ言ってるんだが、何かあったのだろうか?もしや、これから女子寮に突入するから興奮してるとか?
目的地も風呂場だし、抑えきれないリビドーってやつなのか?
ヤンキーって硬派なイメージだったんだけど、こいつはただのエロガキだったか。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・くたばれ!クソ野郎!っつったんだよぼけがああああ!」
「おおう、デンジャーだな」
息が荒かったのは、興奮してたんじゃなくて、移動速度に耐えられなかったせいらしい。三半規管がやられて船酔いみたいな感じになってるのかな?
「ぐはぁ・・・気持ちわりいなぁクソが!てめぇ、もっと普通に運べなかったのかよ、ああん?」
「いやいや、普通に運んだよ?途中で何回も大丈夫か聞いたし。速度上げるね?って言ったら、ちゃんと何度もうなずいてたよ?リーゼントが」
「リーゼントが返事できるわけねえだろぼけが!」
「え?てっきりそっちが本体なのかと」
「んなわけあるかあ!これは俺のアイデンティティであって、本体じゃねえ!」
つまりリーゼント≒リーゼント君ってことで、やっぱりリーゼントが本体で?
「あああ!ごちゃごちゃ言わせんじゃねえ!もう大して時間もねえんだ。無駄話なんかさせんじゃねえよ!」
別に俺は無駄話したわけじゃないんですけどね。
「男子寮と造りが一緒なら、目的地は玄関開けて真っ直ぐだ!とっとと行くぞボケソラ!」
どうにか元気を取り戻したリーゼント君は、玄関を押し開けて無遠慮に中へと入って行った。
闘技中と言えど、女子寮に入るんだから、もう少し躊躇したり、ワクワクドキドキしたら良いのに。
「ぐっひゃああぁ!」
そんなことを考えていると、本日何度目かの悲鳴をあげながら、リーゼント君は女子寮の玄関から吹っ飛んできた。
「まさか、ここまで来る男がいたなんて」
「システィナ様ったら、絶対ここまで虫けらは通さないって言ってたのにぃ。やっぱりこの国の貴族が言うことはあてにならないねぇ」
リーゼント君の後を追うように、二人の女子が寮から姿を現した。
一人は自分の背丈ほどのロッドを手にした、青いロングヘアーの少女。おそらく後衛職の魔法使い。
もう一人は、両手にショートソードを握っている、緑のボブカットの少女。スピード特化の近距離型かな?
しっかり連携をとれるんなら、ちょっと面倒な相手だ。
「こんにちは、ソラ君。私はミィナ・クリステラ。キミやバッツ君と同じCクラスに所属する生徒です」
青い髪をかき上げながら、ミィナはロッドをこちらへと向けた。
「女子風呂を覗こうとする気持ち悪いクラスメイトは、ここで退場させてあげます!」
べ、別に覗きなんてしようとしてないよ?ルールだから女子風呂に突入しようとしてるだけで、覗こうとなんかしてないんだからね!
「ミィナぁ、せっかくだしさぁ、あーしも一緒にやらせてくんないぃ?」
両手に持ったショートソードをくるくると回しながら、緑髪の少女がミィナの前に出た。
「あーしはエィリーン・シーリング。ミィナと同クラだよぉ。っていうかぁ、そっちのバッツ君も合わせてみんなクラス一緒じゃんねぇ」
まだ入学式しかやってないのに、クラスメイトの顔と名前なんか知らないって。もしかして、俺が呼ばれて無いだけで、クラスで入学祝とかやってないよね?
「それじゃあ、ごめんだけどさぁ、二対一でやらせてもらうね?」
言うが早いか、エィリーンはこちらに向かって駆けだしてくる。
「凍れや凍れ、アイスバーン!」
エィリーンの攻撃に合わせるように、ミィナが俺の足元に氷魔法を発動させる。
ぬかった!
足首までが一瞬で凍りつき、その場から動けなくなってしまった。
「わりーねぇ。ここまでこれたのは大したものだけどぉ、ここで退場だよぉ」
「ふっざけろおらあ!」
エィリーンの双剣が届く直前、リーゼント君の金属バットがそれを受け止めた。
「おうおうおう!さっきはよくもやってくれたな、ああん?今度はこっちの番だぜこらあ!ソラ、ここは俺に任せて、先に行けボケがあ!」
ああ、ありがとうリーゼント君。
完全にそれ死亡フラグなんだけど、気にしないで先に行かせてもらうことにするよ!
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