第25話
結局最初の1週間を丸々使い、ステラの身体強化を修行した。
感覚を掴んでからは、魔力操作がみるみる上達し、今ではステラのお尻を眺めることはなくなり、胸を眺める日々・・・・・・ゴフンゴフン。
さて、ランキング戦が1週間後に迫った今日は、トーナメント表の発表日だ。
俺としては興味無いのだけれど、せっかくなのでとステラと二人でトーナメント表が張り出される、闘技場前までやって来た。
「は、はうわぁ。す、すごい人です」
1学年の定員が100人なので、1年生が全員集まっているだけならば100人ですむはずなのだが、なぜかその5倍はいるのではないかという人数が闘技場の前に集まっていた。
「何かあるのかな?」
「お父様が来ているの」
「ひ、ひひ、姫様!」
突然背後から声をかけるなよ王女殿下!
どこかさみしそうに見えるのは、この前ギャン泣きさせてしまったせいだろうか。ちょっと心が痛みます。
「へ~、姫様のお父様って、有名人なの?」
「え?」
なぜか驚いたような声をあげられたが、冷静に考えればその通りだ。姫殿下の父親なら、この国の国王陛下に決まってる。有名人どころではなかった。
「ふふふ、タツミ君、やっぱり面白いね」
「いえいえ、不敬をお許しください、王女殿下」
この国の礼儀作法は知らないので、適当に頭を下げて謝罪する。それを見たライザ王女は一瞬きょとんとしたが、すぐに表情を整えると、美しく笑う。いつもの無邪気な笑顔とはひと味違う、これが姫様スマイルか。
「許してあげても良いけど、今度ゆっくり話をする時間をちょうだい?あれから、タツミ君全然保健室に来ないでしょ。毎日放課後に待っていたのに」
「え?そ、ソラ君。保健室に行ってないって、肩の治療はどうしたんですか?左肩の治療には、すごく時間がかかるって。ら、ランキング戦はどうするんですか?」
「ああ、ほら」
二人を伴って、トーナメント表が見える位置まで移動する。目立つ場所に俺の名前が書かれていたので、それを指し示してやった。
「け、欠場!ど、どうしてですか?もしかして、私のせいで・・・・・・」
「いやいや。これはどこぞのゴリラ王女のせいだから」
「い、いえ、私の修行に付き合ってくれたから、ゴリラ王女からのケガを治療する時間が無かったんじゃ」
「いやいやいや。そもそもゴリラ王女、マジでゴリラだから。ゴリラの握力で握りつぶされたら、普通2週間じゃ回復なんてしないから」
「で、でもでも。セーラ先生だったら、ゴリラに握りつぶされたってすぐに治してくれるんじゃ・・・・・・」
「次、ゴリラって言ったら、不敬罪で捕まえるからね」
にっこりと、背後にブリザードでも見えるかのように冷たくゴリラ・・・・・・ライザ王女は微笑んだ。やめなさいよ。ステラがびびって俺の後ろに隠れちゃったじゃないの。俺はどこに隠れたら良いんでしょうか?
「と、とりあえず俺の欠場はステラのせいじゃないから、気にするなよ」
「じゃあ、アタシが気にする」
「何でだよ」
「だってアタシのせいなんでしょ?」
「いや、ゴリラのせいだよ?」
「近衛騎士~、ここに不届き者がいるからしょっぴいちゃって~」
「ばっか野郎!冗談じゃすまなくなるでしょ。何考えてるんですか」
「それはこっちの台詞だよ。なんで欠場なんてしたの?その肩、ちゃんと治療すればランキング戦までには間に合ったはずだって、セーラ先生も言ってたよ」
「良いんだよ。こっちにも考えがあるんだから」
「ふ~ん」
まあ、今更1年生最初のランキングにはこだわらない。どうせすぐにランキングなんて入れ替わるだろうし。
「同じクラスになったら、今度こそ・・・・・・」
「なんて?」
「ううん。なんでもないよ。それじゃ、アタシもお父様のところに行ってくるから」
そう言って、ライザ王女は一層人が集まっている場所へと突撃していった。
「見ろよステラ。人の壁が一斉に割れていくぞ」
「さ、さすが王女殿下ですね」
「ステラもそのうち、あれくらいの量なら一撃で吹き飛ばせるようになるさ」
「え、えっと、姫様は別に物理的に吹き飛ばしてないですからね。周りの人が道を譲ってるだけですからね」
別に、どっちも似たようなもんだと思うけど。
まあ、人がすっとよけてくれたおかげで、この国の王様の姿が見ることができた。端末を取り出して画像撮ったら怒られるかな?
「おい!平民!」
端末を取り出していじっていると、背後からそんな言葉が飛んでくる。
はて?平民と言えばここに通う生徒のほとんどが平民ではあるのだが、誰のことだろうか。
振り返るのも馬鹿らしいと思っていたら、ステラがぎゅっと、俺の制服の裾を掴んだ。
「ぜ、ゼニス様」
はあ、あのゴリラ王女は、面倒ごとしか持ってこないのかね。
ライザ王女がいなくなるのを見計らって声をかけてきたんだろう貴族のお坊ちゃんは、偉そうに腕を組んでふんぞり返っている。そのままひっくり返ってしまえば良いのに。
「この1週間、いったいどこで何をしていた。この私がわざわざ探してやったのだぞ」
探してやったのだぞ?やったのだぞって、なんか無性に笑える。日常会話でそんな言葉使う奴いたのかよ。
「そこの者、何がおかしい!」
そ、そこの者?やば、ツボった。
「ぷぷ・・・失礼。あまりにも高尚な言葉遣いで、平民には理解できなくてっぷぷぷ」
「難しい言葉を使っているわけではないが、そうか、平民風情にはこの程度の言葉も理解できないのか」
「っぷっはっははははは。も、もうダメ。限界。あ~っはっはっはっは」
涙が出るほど笑ったのは、いつぶりだっただろうか。元師匠と修行しているときは、よくみんなで笑い合っていた気がするな。
俺があまりにも大声で笑い出すものだから、周囲から視線が集まってきた。王様やその護衛の人たちも、こちらの様子をうかがっているようだ。
「どこのどいつか知らんが、貴族であるこの私に不敬をはたらくと言うことが、どういうことか、わかっているのだろうな?」
「ど、どうなるんですかっぷぷ」
「き、貴様!今すぐ引っ捕らえて、拷問にかけてやる!」
あまりにも顔を真っ赤にして怒るものだから、面白くて仕方ない。なんかわけのわからんことを叫んでいるが、全く頭に入ってこないんですけど、ぷぷぷ。
「よくわからないんだけど、坊っちゃんは何しにここに来たんです?」
「決まっている。そこの平民に教育を施すためだ。私の部屋に連れ帰り、拷問にかけ、嬲り、女に生まれたことを後悔させてやる」
「そ、それは大変ですね。ち、ちなみに、お坊ちゃんは普段からそんなことをやってるんですか?」
「自領の平民をどうしようが、私の勝手であろう!」
「それは、随分と面白いお話ですね」
「げ!」
騒ぎを聞きつければ、さすがに帰ってくるよね。
思わず俺が落ち着きを取り戻してしまうほどに冷たい笑顔を浮かべたライザ王女は、姫様モードでお坊ちゃんに詰め寄っていく。
「それでは、自国の貴族をどうしようが、私の勝手ということですか?」
「ひ、姫様!」
「私が貴方を拷問にかけ、嬲るのは気持ちが悪いのでお断りしますが、人として生まれてきたことを後悔させることはできると思いますから、すぐにそのように手配いたしましょうか?」
顔を真っ青にして震えるお坊ちゃま。姫様モードになると怖いんだよな、この人。
こんなんだからぼっち何だと思うんだけど。
「まあまあ姫殿下。そんなに怒るとまた実技で先生と組まされて、放課後実技用具室で一人で泣くことになりますよ?」
「用具室で泣いたことはないもん!」
ああ、別のところではあるんですか。お父様に聞こえていないと良いですね。
「せっかくお膳立てができてるんだから、全部闘技で決めれば良いでしょ?」
そう言って、トーナメント表を指差す。
そこには
ステラ・ランダー VS ゼニス・カルボモニス
カルボモニスって、覚えられる自身はないなぁ。
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