第19話
ステラの話では、お坊ちゃんの取り巻きの中に同じ村出身の男の子がいたらしい。その男の子が、ステラがライザ王女と一緒にいることを伝えたそうだ。
それを知ったお坊ちゃまは、ステラを利用してライザ王女に取り入ろうとしたそうだが、ステラはそれを拒否した。
それが気に入らなかったお坊ちゃまは、「お前は俺の所有物だ」「言うことが聞けないなら誰がご主人様かわかるまで躾をしてやる」と怒鳴りつけ、無理矢理お坊ちゃまの部屋に連れ込もうとしたんだとか。
なんとも気持ちの悪い話を聞かされて、こちらも随分とげんなりした。
「それで、王女殿下はどうしてステラと一緒にいなかったんですか?あのタイミングで出てきたってことは、ずっと見てたんでしょ?」
そもそもライザ王女がいれば、未然に防げたことだ。意味もなくステラを一人にしたとは考えにくい・・・・・・いや、以外とポンコツの要素もありそうだから、うっかりって可能性も捨てきれないけど。
「ステラさん、本当に申し訳ありませんでした。どうしてもタツミ君にこの国の現状を知って欲しくって、あなたに嫌な思いをさせてしまいました」
そう言って、姫様モードの口調で謝罪をする。
「はぁ、できればただのポンコツですませて欲しかったよ」
「ぽん?」
危ない危ない。ついつい口に出してしまったようだ。ライザ王女はピンときていないようだから、意味がわからなかったみたいで助かった。
しかし、俺にこの国の現状を知らせてどうしようというのか。面倒ごとを抱え込むほど俺に余裕は無い。そんな暇があるのなら、少しでも多く修行しなければならないのに。
それに、ステラを巻き込んだことも気に入らない。
「わざわざあんなお坊ちゃまを用意しなくても、王女殿下を見ていれば、この国の貴族が平民を物扱いしているのはよくわかりましたよ」
「え?」
「ステラと一緒にセーラ先生のところに行って来ます」
「だったら、アタシも一緒に・・・・・・」
「悪いですけど、今日は欠席すると先生方に伝えてもらっても良いですか?誰かさんのおかげで肩大ケガしてるので」
ライザ王女のことはリーゼント君に任せよう。これ以上一緒にいると、さらにひどい嫌味を言ってしまいそうだからな。
「そんで?女を泣かせたから慰めてくれってか?」
なんでこの先生は、会う度に不機嫌そうな顔をしているんだろう。そして、1時間ほど前に来たばかりだというのに、俺のケガのことは忘れちゃったのかな?
「肩の骨だけは治療してもらえるんでしたよね?」
「はぁ」
こちらが笑顔で語りかけているというのに、どうして大きなため息なんか吐かれるんでしょうか?
嫌々という顔を隠しもせずに案内され、俺とステラはイスに腰掛ける。その正面に、再度大きなため息を吐きながらセーラ先生が腰を下ろした。
「肩の骨折、痛みはねーのか?」
「痛み?」
言われてみれば、ボッキボキにへし折られた後はかなりの痛みがあったが、今は動かさなければ痛みを感じることは無い。
「普通はあんだけボッキボキにくだけてりゃ、痛みで動くこともできねえはずだ。魔力神経が焼き切れてるせいで、痛みに鈍感になってんのかもしんねえな」
「痛みに鈍感になってても、普通のケガなら治せる・・・・・・んですよね?」
「・・・・・・」
そこで視線を外されたら心配しちゃうでしょうが。これで肩の骨折も治せませんって言われたら、競技者人生どころか普通に生活だってできなくなっちゃうよ。
「痛みがねーなら、折れててもよくね?」
「良いわけないでしょ!」
「っち、んだよ。そっちの彼女と姫様が甲斐甲斐しく面倒見てくれんだろ?」
「は、はい。精一杯頑張ります!」
ふんすとやる気を出しているところ申し訳ないけど、丸め込まれないでくれ。お世話してもらうのは非常に魅力的ではあるんだけど、根本的な解決にはなってないよ。
「骨折は治るんですよね?」
セーラ先生を真っ直ぐに見つめながらもう一度同じ質問を繰り返す。先生も、観念してこちらに視線を向ける。
「2週間はかかる」
「え?なんですって?」
「・・・・・・」
冗談かと思って聞き返したら、セーラ先生は苦い顔をして黙ってしまった。
「マジで2週間もかかるんですか?」
「まともに動かせるようになるまでは1ヶ月かかる」
「・・・・・・」
思わずこっちが黙っちゃったよ。普通の骨折ならその場ですぐに完治する位には、イザイル王国の医療技術は発展していると聞いたことがある。
いくら肩の骨が粉砕しているとはいっても、そんなに時間がかかる?
「2週間後には、1年生のランキング戦が始まりますよね?」
「・・・・・・」
「このケガは、この国の姫様が故意にやったものですよね。何でしたっけ?国の威信にかけて、でしたっけ?」
ちょっと煽ってみたのだが、効果があり過ぎたようで、セーラ先生は眼力でこちらを射殺せるのではないかと言うほどに鋭い視線になっている。
「で?どれくらいで治してくれますか?」
ひるまずに笑顔を向けると、セーラ先生はあきらめたようにため息を吐いて、視線をそらした。
「ったく。確かに、うちの姫様が原因だってんなら、全力で治療しなきゃならねえな。わかったわかった。できる限りのことはやってやる」
「ありがとうございます。でも、どうしてそんなに渋ったんですか?」
肩の骨折に関しては、姫様のせいだってことは始めっからわかっていたはずだ。この前はどうにか治療しようとしてくれていたのに。
「魔力神経が焼き切れてるお前には、普通の治療魔法の効果が薄い。それをどうにかしようとすると、金がかかんだよ」
「また金かい!」
「そうだよ。こちとら年々予算削られてんだ。新学期早々、どっかのバカ令嬢が呪いを振りまきやがったから、うちの予算はカツカツなんだ」
何で予算がカツカツなんだよ。養成学校に金を回さないなんて、他の国じゃ考えられない。
「この国は魔獣の被害が多いからな。国民を護るためには騎士が必要だってんで、騎士団や騎士学校にばっか予算が回されてんだよ」
「はあ、お国柄って奴ですか」
「まあそのせいで、外交はかなり・・・・・・っと、そんな話はいいか。んじゃ、金を惜しまず治療してやるから、とっととそこに横になんな」
ちょろっと重要な話が出かかったが、聞かなかったことにしよう。卒業さえできれば良い俺に、この国の話なんて必要ない。最悪、俺が卒業するまでこの国が存続さえしていれば。
うつ伏せでベッドに横になった俺の上に、セーラ先生が馬乗りで乗ってくる。傍から見たら、半裸のヘンタイが幼女にいかがわしいことをさせようとしているようだろう。絵面が大変よろしくない。
「一応言っとくが、すっげー痛えからな」
「へ?うっぎゃあああ・・・・・・」
「え?え?ソラ君、大丈夫ですか?」
痛い痛い痛い痛い!
なんだこれなんだこれなんだこれ!
右肩に突如激痛が走り、我慢できずに悲鳴があふれ出た。今自分が何をされているのか全くわからないけど、痛いってのだけはわかる。
右肩をナイフで刺されたような痛み?体の中をぐちゃぐちゃにかき回されてるような痛み?
わからない。全くわからないけど、とにかく痛い!
よ、幼女にいたずらされちゃうプレイとか思ったから怒ってんの?全身で暴れ回ってるのにこの幼女はびくともせずに俺に痛みを与え続けている。
「こっから痛えからな?気合い入れろよ」
「っぐあ!」
そこから何が起こったのかはわからない。
ただ、あまりの痛みで俺の意識は途切れてしまった。
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