第4話
「さすが殿下。強力な魔法だ」
「うぅ~、さっむいさむい!」
積もった雪を吹き飛ばすように、グレイとキャロリアが姿を現した。
グレイは咄嗟に自身の周辺に氷魔法で障壁を張り、スリップダメージを防いだ。キャロリアは、ライザの魔法が発動した瞬間にグレイにしがみつき、そのおこぼれにあずかったようだ。
「うちら以外みんな退場した?姫ちゃん今日のトップキル賞じゃない?」
「・・・・・・味方の方が多く倒されたみたいだけど?」
「なっはっは。両チームほぼ全滅。姫ちゃんも魔力切れで退場しちゃったみたいだね。まあ、残り時間もわずかだし、これは今年も女子寮チームの勝利ですかな?」
キャロリアは広場にある時計を見ながらそう言った。
残り時間はわずか3分。
さすがのグレイでも、今からキャロリアを倒して女子風呂に突入するには時間が足りないだろう。
「せっかくだし、続きやる?残り時間で、うちを倒せるかもしれないよ?」
挑発的に笑うキャロリアに、グレイはキラキラとした苦笑を浮かべて首を振った。
学年きってのイケメンは、どんな仕草でも輝くのか?
「殿下の魔法を防ぐのがやっとでさ。もう僕の魔力もほとんど残ってないんだよ」
「あーね。護ってもらって申し訳ないね」
「別に、レディを護るのは当然でしょ?」
「うっわ」
こんなことリアルで言う奴いたんか、と、キャロリアは思わず本気で引いてしまった。
それを言っているのがイケメンだからたちが悪い。普通の女子生徒なんかコロッとだまされてしまいそうだ。
「主席クンが動けないってことは、オリエンテーションはうちらの勝ちだね」
「ああ、それなんだけど・・・・・・」
『ピ~ンポ~ンパ~ンポン。闘技しゅうりょ~!シールドが解除される前に、速やかに戦闘を終了してくださ~い!』
「ん?まだ制限時間まで2分くらいある気がするんだけど。もしかして、男子寮チーム全滅しちゃった?」
「僕はまだ残ってるよ?」
「主席クン、きれいな顔立ちだから、女子と間違われた?」
「そんなわけないでしょ!」
「・・・・・・じゃあ、なんで?」
『女子寮チーム拠点突破を確認しました~。よって~、男子寮チームのしょ~りで~す!』
高らかに告げられた勝利宣言に、グレイは小さく微笑み、キャロリアは眉をひそめた。
――オリエンテーション開始直後
グレイは、女子寮チームの配置がおかしいことに気付いた。
通年であれば、広場の戦力は半分ほど。残りの戦力は女子寮内の女子風呂までのルートに配置し、戦闘を繰り返して時間切れを狙っていた。
女子寮内の狭い通路では大人数同士の戦闘が行えないため、少数同士で戦闘を繰り返し、少しずつ進んで行くしかない。
そのせいで制限時間に間に合わず、毎年男子寮チームが敗北していた。
まさに必勝の配置を崩してきた理由は、すぐに想像できたのだが。
「あれじゃあ、殿下を困らせるだけだね」
ライザがこの国に変革をもたらそうとしているのは知っていた。むしろ、その変革を手助けしたいとさえ思っているグレイにとって、システィナのとったこの作戦には、若干いらだちを感じていた。
「貴族や騎士のせいで、この国は亡びるかもしれないな」
「んだそりゃ?貴族だろうが騎士だろうが、いちゃもん着けてくんならぶっ飛ばせばいいだろうが!何のための闘技だよああん?」
「ふふふ、それが普通の反応だよね」
突然背後から絡まれたにも関わらず、グレイは噴き出して笑ってしまう。笑われた張本人であるバッツは、ご自慢のリーゼントをゆっさゆっさと揺らせながらグレイを睨み付けた。
「バッツ君はこの国の人間ではなかったよね?」
「俺様はイセリウムの生まれだ。文句あんのかああん?」
「ないよ。むしろうらやましいくらいだよ。僕も別の国で生まれていたら、もっと闘技を楽しめていたんだろうなって」
「お、おう。そうかよ」
暗い表情のグレイを見て、さすがに空気が読めたらしいバッツは、煽らずに大人しく頷くことにした。
「さて、そんなバッツ君に、お願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」
「くだらねえことだったらぶっ飛ばすぞおら」
「僕はこれから、あそこで呪いを振り撒くご令嬢を退場させて、学年次席のキャロリア嬢の足止めをする。きっと一時的に女子寮チームの陣形が崩れるから、その隙にキミには、拠点に向かって欲しい」
「は!ちょっと崩れたぐれえであの陣形を抜けるかタコ!」
鉄壁ではないにしろ、大集団の間を潜り抜けて行くのはほぼ無理。集団の横を抜けようにも、単独で動けば的になるだけだろう。
「大丈夫、おあつらえ向きな人がいるから」
そう言って、男子寮チームの後方で屈伸運動をしている少年を指差した。
集団戦は初めて参加したけど、昨日今日あったばかりの人たちと呼吸を合わせるのは結構難しそうだ。
せっかくだから戦闘に参加したいんだけど、今の俺ではどのポジションに入っても足を引っ張るだけだしな。
「ソラ・タツミ君。ちょっといいかな?」
身体を冷やさないように、少し動いておこうと思って屈伸をしていたところに、ムカつくくらいさわやかなイケメンが、ヤンキーを従えてやって来た。
確か、この国のお貴族様で、グレイなんとか君と言ったか。貴族でイケメンのうえ、学年首席で成績まで優秀だとか、男子からは嫌われそうだな、コイツ。
「なんですか、主席様。俺のような平民に何か御用ですか?」
「ふふふ。学校では貴族も平民も関係ない。気軽にグレイと呼び捨ててくれて構わないよ」
懐まで広いだと!コイツ、絶対裏で悪いことやっているに違いない。絶対無理難題を言いだすそ。
「この後僕が前線の防衛網に隙を作るから、その間にバッツ君を連れて前線を突破して、敵拠点に突入してくれないかい?キミのスピードがあれば、無理じゃないだろ?」
「へえ」
結構無茶な要求だが、やってできない事じゃない。それに、リーゼント君を連れて行けということは、俺の弱点も見抜いてるってことかな?
「わかったよ。リーゼント君を敵拠点に連れて行けばいいんだね」
「ああ。なんだったら、キミが勝利条件を満たしてくれても構わない。できるだろ?」
にやりと不敵に笑う姿も格好良いとか、本当に嫌味な奴だ。闘技に勝ったとしても、コイツとはハイタッチで喜んだりできないな。女性人気を全て持っていかれそうだ。
「それじゃ、僕は狂犬・・・・・・システィナ嬢を退場させて来るから、後は頼んだよ」
こちらに向けて拳を突きだしてくるグレイ君。はて、これはどうすれば良いのだろうか?さっき狂犬がどうとか言ってたから、こうか?
「え?あれ?」
犬であの手の形なら、これで間違えないだろうと、上向きに手のひらを差し出したのだが、イケメン様は混乱していうようだ?
グレイ君の意図していた返しとは違ったようだ。異国貴族の作法、ムズカシイネ。
「チームメイトとは、こうやって拳をぶつけ合う、と聞いたんだけど。違うのかな?」
ああ、チーム戦特有の仲間同士のあれか。『任せたぜ』『そっちもな!』ってやつなのか?あんなのがやりたいなんて、イケメン貴族もなかなか子供っぽいところもあるんだな。
コホンと小さく咳ばらいをしたグレイが、改めて拳を突きだしてきたので、こちらもグレイ君の拳に俺の拳を当てた。
そこへ、もう一つの拳が重なった。
拳の主は頬を赤く染めて、そっぽを向いてリーゼントを揺らしていた。なるほど、これが『おらにゃん』というやつか。
どこらへんに需要があるのか全くわからないけど。
「それじゃ、勝とう!」
「「おお!」」
ハイタッチより華やかなことしてるけど、女性人気持ってかれてないよね?
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