十八章 漆黒のロスコフ
「う~ん。下層に落ちたわけだが、思ったよりも道はしっかりしているな。自然にできた洞窟って感じがしないな。ゴブリンか?」
「そうですね。この洞窟に下層があるのは知っていましたが、ここまで不自然に道が出来ていると疑いたくもなりますね。ですが、ゴブリンは掘ったにしては綺麗すぎます」
洞窟を通過するだけの予定が、俺のせいで下層に落ちるというアクシデントに見舞われた。
上層との違いは灯が無いので、暗いは暗いのだが鉱石が淡く青白く光を放っていてそこまで暗くない。行く先も細く長いだけで、人が通るには十分な広さはある。
彼女がいったとおり、ゴブリンが掘ったにしては道は整っているほうだし、人一人分は余裕で通れるように作る必要はないはずだ。
♦
「……なんだこれ? 扉か?」
「扉……ですね」
長い一本道を歩くこと数刻、ゴブリンに遭遇することも無く行き止まり。いや、大きな扉に行きつく。武骨で重そうな錆びた鉄扉の前で俺たちは足を止める。
「見るからに怪しいな。開けてみよう。中の部屋に金銀財宝があるかもしれないし!」
「フランツさん!? 安易に開けてはいけないですよ! 何が出るかわからないじゃないですか!」
「男にはやらねばならない時があるんだ! セシリア止めるんじゃない!」
「もう! 何をわけのわからないことを言っているんですか!? だめ、ですってば!」
中々に彼女の抵抗が強いではないか、この先にお宝があるのは間違いないはずなのだ。元トッププレイヤーの感、いや、俺が言うんだ間違いない。
「何か出たら逃げる。ってことにして開けよう。これで問題はない!」
「何が問題はないですか! 問題ありすぎですってば! ――もう、好きにしてください!」
彼女は制止することを諦めたようで、俺の後ろに隠れたあと息を殺して待ち構える。
いつもの立場とは逆転してなんとも笑えてしまうが、今は扉の先に集中しよう。
両扉に手を掛けゆっくりと力をかけていく。のだが、錆びついてるせいか微動だにしない。さらに力を加えるのだが、うんともすんとも言わない。
「おかしいな。開かないぞ」
「これは、そう! 開けてはいけない扉なのです。きっとそうです!」
真剣に拒絶するのが可愛らしく見える、実は幽霊とか怖い子なのではないだろうか。
「うん? なんだこれ、手形みたいな跡があるな? どれどれ……」
「フランツさんって怖いもの知らずですね……どうなっても私しらないですよ」
恐いもの知らずではなくて、探探求心って言って欲しいのだが、ここでの反論は辞めておこう。それより眼前の手形に似た何かが気になる。
大の大人の手がすっぽり入る大きさで、中央には宝石のような結晶が埋まっているのが見える。
――触れた途端、頭の中に『認証しました』と電子音のような声が響きわり、扉が音を立てて開いていく。
「……へっ? 認証? あれ、扉が勝手に開いたんだけど……」
「にんしょう? 何を言って……っと、扉が開きましたね」
先ほどの電子的な声は何だ? ここは異世界のはず、だよな。
何の前触れもなく現実世界のゲームのような仕様が再現されてしまっては、流石の俺でも動揺するし呆けてしまう。
俺たちは息を殺して、一歩、また一歩と中へと入っていく。
薄っすらと灯となるものがあり、薄暗いが歩くには問題ない。中の広さは大体、6畳ぐらいだろうか広くも狭くも無いって感じだ。
不意に背中を叩かれ後ろに視線を向けると、背後で縮こまりながら彼女が何やら指をさしている。
「……フランツさん、あれなんでしょう?」
「うん? セシリアには何か見えてるのか? これか、あれ? これって」
彼女の示した方に進んでいくと、小さな祭壇に古ぼけた頑丈な鉄の箱が備えられていた。
「宝箱かな?」
「宝箱ですね?」
二人して箱を見やって答え合わせをするが、何故かお互いに疑問形である。
大きさは両手で持てるぐらいの小ぶりで、思っていたより軽い。険しい顔で彼女が人差し指で箱をツンツンと突き安全確認をしているのだが、なんとも可愛らしい動きである。スキルで中身を確認することが出来るらしいが、生憎、俺たちにそのスキルはないので、気合であけるしかないのである。
「よ、よし、セシリア開けるぞ? いくぞ!」
「え、ちょっと、心の準備が……あっ、開けちゃうんですか!?」
勇気を振り絞り箱を開ける俺、動揺する彼女と傍から見たら漫才しているようにしか見えないだろう。得体の知れない場所、謎の宝箱ときたら開けるしかない!
そして、ゆっくりと、こっそりと、開いた箱の中を見る。
――そこには彼女が持っていたロスコフに似た物が入っていた。ただ、違うのは色だ。光をも通さぬような黒、闇夜のような漆黒のロスコフなのである。
「……ロスコフだよな?」
「……ロスコフですね?」
「と、とりあえず、宝なら俺が使っても問題ないよな!」
「宝なのでしょうが、このような事例は初めてですね。ですが、ロスコフはギルドで登録しないといけないはずなので、今すぐには使えないと思います」
やはり登録しないといけないのようだな。となると、ロスコフの作成費は浮いたし、あとはこれを持ってギルドに登録してもらえればいいだけだな。
俺はなんの疑いも無くそれを手に取った次の瞬間、思いがけない出来事に遭遇する。
『——利用者登録を開始します。登録が完了するまでロスコフを離さないで下さい。——作業を開始します』
「えっ? また声がしたぞ? セシリア、これって勝手に登録されるものじゃないんだよな?」
「フランツさん、何を言っているんです? 私には何も聞こえませんでしたよ? 大体、先ほど言いましたがギルドで登録しないと機能は使えないはずですよ」
ちょっと待ってくれ。何だこのゲーム的展開の数々。
冷静になろう。そう、あれだ深呼吸だ。
「すぅ~はぁ~。ふぅ、落ち着いた。セシリア落ちついて聞いて欲しい。どうやら、このロスコフ俺用に登録されるらしいんだ」
先ほどまで、頭のおかしい奴のように見ていた彼女の青い目が大きく見開かれる。
「……えっと、ですね。そのロスコフが勝手に登録を進めていると。それで、今はどのような状態になっていますか?」
「その通りで、現在登録を完了しようとしているんだ。薄っすらとだが、セシリアが以前言っていた、体力や魔力などの要素が見え始めているんだ」
彼女はすぐに立ち直ると冷静に俺の状況を尋ねる。さきほどより一層、難しそうな顔になり、今後の予定に狂いが無いことを示してくれる。
「自身の状態がわかってきたわけですね。そうなると、今手に持っているロスコフはフランツさん専用の物になりました。機能は使えるかもしれませんが、どのみち登録をしに王都にはいかないといけませんね」
あと、登録する時には女性の声がするのは、彼女も聞いた事があるので問題ないらしい。なんだよ、ちょっとだけ期待したじゃないか。
――ここはゲームの中の世界かもしれない。って。
こうして、俺は漆黒のロスコフを偶然手に入れたのであった。
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