十七章 洞窟探索では定番でしょ

勢いで前衛を買ったわけだが……うん。整備されているとは聞いたけど、観光地なんかでよくある、ロープで歩行路が区切られているし、燃料型ではない結晶のランプが道を明るく照らしているので難なく進んでいく。


「なんだか拍子抜けだな。ここまで整備されてると洞窟探索って雰囲気ないじゃないか……」


「この洞窟は比較的安全な方なので、何を期待されていたかは知りませんが、地道に進むしかありませんよ」


「いや、まぁ。そうだけどさ? 洞窟探索っていえば、松明とかもって暗がりを恐る恐る進んでいって攻略していくのが定番じゃないか。あと、お宝を探したりするもんじゃない?」


「私には、よくわからないですね。男性は探索とかがお好きなんですか? この洞窟はまだいい方ですが、険しい所になると魔物が多かったり、暗く視界が悪く、高低差があったりとで危ないんですよ」

どうやら俺と彼女の趣向は違うようだ。でもあれか? ここはゲームの世界ではないし、死んだらそこで終わりだ。安全なことは良いことだよな。


ゲーム的な要素の無い洞窟内を進んでいると、ある看板が目につく。


『この先、魔物多し危険! 何人たりとも入らぬ様に!』

ゲームの世界によくあるアレである。しかし、人間と言う生き物は禁止されるとやってしまいたくなる生き物である。

興味本位で足を運ぼうとしたが、袖を掴まれ止められてしまう。


「……フランツさん? 入っては駄目って、書いてありますよね?」


「わ、わかってるって。セシリアでもこの先は危険なのか?」

袖を掴んで静止させたの彼女へ、質問を投げかけると至極まっとうな回答が帰って来た。


「私ぐらいの腕があれば、この先でも問題はないのですが、今は先を急ぐ時でしょう? それともフランツさんは、ロスコフがいらなのでしょうか?」

俺の顔をまじまじと見つめ答えを待つ彼女、暗がりでもあっても顔が近い。とても、恥ずかしくて目を合わせていられない。


「そ、そんなことはないよ? ロスコフないと色々困るしさ! よし、もど……えっ?」


「ちょっ、ちょっと!? フランツさん、そんな引っ張ったら!?」






いってぇ……俺たちどうなったんだ。

何かに引っ張られるような感覚のあと、落ちたような錯覚があったような。

身体を起こし頭上を見上げると、ぽっかりと大きな穴が開いており、かすかだが灯が周囲を照らしているのが見えた。


「……っ。どうやら下層に落ちたようですね。——フランツさん、大丈夫ですか?」


「あぁ、問題ない。俺が寄り道したせいで、こんなことになって本当にごめん……」

どうやら足場が崩れ俺たちは下層に落ちてしまったようだ。

偉そうにゲーム性なんて語っていたら、まさにゲーム的な展開になったわけだが、どうやら道はあるようで、とりあえずは一安心だ。


「もう、困った人です。それより上層に上がれるかが気掛かりです。あと、魔物は格段に増えると思われます。警戒は常にしていきましょう」


「やっぱそうなるよね……となると、ゴブリンが出てくるのか?」

俺の質問に対して彼女は無言で頷く。

スライム、ウルフと出てきて、RPGでは定番、全身緑の肌に長耳、醜悪な面で人に体躯が似た小ぶりのゴブリンがここでは出るらしい。


何故、上層で出ないのかって? 洞窟を作る時に巣穴を魔法で封鎖しているとのこと。地盤が弱い所があったりするので、たまに這い出ることはあるけれど、魔法結界があるので、そこまで問題はないんだとさ。

ゴブリン自体は世界各地にいるらしく、地域によって危険度が違うって話だな。


「となると、俺がしっかり守らないといけないな! セシリアは自分の身をしっかり守るんだ!」


「守っていただけるのは、とても嬉しいのですが、なぜでしょう? フランツさんの顔がにやついてて、妙に怖いですが……」


「何を呑気に! ゴブリンは人を襲うんだろう? となると、セシリアの身体が大変なことになるかもしれないじゃないか!」

昔見たアニメでは、ゴブリンは女性を襲い欲望のままに……なんて設定があるぐらいだ。彼女がお嫁に行けなくなってしまっては大変だ。俺の命を懸けてでも彼女だけは絶対に守って見せる! いや、でも、けしからんことになって……いかん、顔に色々出ているようだ。自重しなければ。


「……何か勘違いされていますが、ゴブリンは手を出さない限りそこまで害はないのですよ。襲われると言っても縄張りに侵入してしまったり、彼らの命に危険があった場合の防衛的な面です。それなりの冒険者であれば脅威ではないのです」

なんだ、この世界のゴブリンは大人しいのか良かったぜ。

以前のように白い目で見られたが、気にしては駄目だ。


「と、とりあえず、上に上がる道を探そうな! よし、いくぞ!」


「……まったく、なんだかよくわからないですが、如何わしいことを考えていたようですね」

勢いで誤魔化そうとしたが、鋭い。彼女に安易な嘘をつくのはよした方が良さそうだ。

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