十六章 目覚めたら

「フランツさん、起きてください。朝ですよ」


「う~ん、俺、寝ちゃってた?」

身体を揺さぶられ意識がはっきりとしてくる。

やっちまった、完全に寝てしまった。彼女はしっかり寝れたのだろうか?

 

「おはようございます。はい。ぐっすりと寝ていましたよ。朝食の準備が出来ているので一緒に食べましょう」


「そ、そうか。おはよう。セシリアはしっかり寝れたのかな?」

彼女は既にいつもの装いで、俺に調理されたパンを手渡してくれる。

にしても、こんな可愛い子に朝起こしてもらえるなんて夢のようだ。

朝食も準備されていているし、このまま平凡に暮らしたいとか考えてしまう。


「ええ。私は慣れているので問題ありませんよ。どうです? 私が常備しているサンドですよ。お口にあいますか?」


「……美味いな。これ作ったのセシリアなのか? これなら毎日食べたいぐらいだな」

2枚の薄いパンの間にレタス、トマト、鶏肉が挟まれていてソースは甘酸っぱい感じだな。シンプルだけど食が進む味だ。


「ありがとうございます。とても嬉しいです。簡単な料理しか出来ませんが、お口にあって良かったです」

彼女は朝から眩しいぐらいの笑顔で答えてくる。

朝食を終えたあと、簡易テントを慣れた手つきで収納している後ろ姿が映る。

じっくり観察していると、空間の一部が歪んで見えたかと思ったら、ロスコフの中心に吸い込まれるように掻き消えていく。

ゲームのアイテムポーチってほんと不思議だよな……ゲームの主人公はアイテムポーチに色んなものが入っているのにもかかわらず、何食わぬ顔でそれを常に持ってるわけだよな。気にしたら駄目なんだろうけど、案外この世界のような仕様なのかもしれない。


「フランツさん、そろそろ出発しましょう。今日は山を越える予定なので、昨日より移動が困難になり、時間が掛かると思います。越えると言っても途中の洞窟を抜けるのですが」


「腹ごしらえも終えたし、いこう。——山道から洞窟に入るってことだな。わかったよ」

昨日の移動でくたくたになったのに、今度は山越えと。ほんと厳しい道のりだな。

それにしても、洞窟って聞くと嫌な予感しかしないな。


「ちなみに、洞窟内は人の手が入ってますので、そこまで険しい道ではないですよ。ただ、魔物は出ますので、注意はして下さいね。」


「意外だな。人の手が入っているなら、そこまで悲観しなくても良さそう……まさかとは思ったが、魔物は出るんだな。わかった、道中で出る魔物の種類を教えてくれないか?」






王都への旅2日目の出だしは快調であった。

山に至るまでの道は整備されているようで、迷うことなく進むことができた。

途中、旅人や商人を見かけたが、これと言って関わることも無く通り過ぎていく。


「商人とか旅人も普通にいるんだな。俺たちが来た道を戻っていくってことはミュコスにいくのかな?」


「どうでしょうね? ミュコスを越えた先に大きな街があるので、そちらにいくのかもしれませんね」

彼女が言うには商業が盛んな街があるらしい。王都とは正反対の位置にあるそうで、商人だけでなく、旅人の休憩場所としても寄られている場所なんだと。

名前は『コメルサント』と言うらしい。


「なんだか楽しそうな街だな。ロスコフが手に入ったら立ち寄ってみたいな。セシリアもどうだ?」


「楽しい場所なのでしょうか? 私は売買などには興味がありませんので、フランツさんがどうしてもと言うのであれば、私も同行しますよ」

何気なく聞いてみたけれど、乗り気では無さそうだが一緒には来てくれそうなニュアンスである。

二人で話に花を咲かせていると、大きく口を開けた洞窟の入口が見えてきた。

いかにもファンタジー世界にありそうな手書きされた看板がせ設置されていて、松明が左右に置かれている。これは冒険心を擽られるな。


「フランツさん、いくら整備されているとは言え危険な場所であることには変わりありませんので、慎重に進みましょうね。」


「おう! 無理なく慎重にだな。前衛は任せろ!」

こうして王都の旅二日目の洞窟越えが始まるのであった。

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