十五章 初めての野営とアイテムポーチ
「陽が落ちてきましたね。今日はかなり進めたので、早めに野営の準備をしましょう」
「こんなに歩いたのは久しぶりだな。休めるなら早く休みたいんだが、野営と言ってもテントとかは持ってないように見えるんだけど?」
王都への旅の一日目が終えようとしている。
人生でこれだけの距離を歩いたのは初めてだ。なんせ社会人になってからはセミリタイアして引き籠ってしまったので、学生以来じゃなかろうか?
それに野営って言うが、テントのような大掛かりな道具を持っているようには見えない。そんな俺の疑問を彼女が悪戯交じりの笑顔で答える。
「何を言っているんです? 男性は見張りと相場が決まっています。なので、フランツさんは今夜ずっと私を守って起きているんですよ?」
「えぇえええっ!? 俺寝れないの!? 歩きすぎで、くたくたなんだけど……」
ちょっと待ってくれ!? 寝ずの番とか何の別ゲームだよ!
VRゲームで何か目標があるなら寝れずに頑張れるが、この世界は現実だ。
寝不足は死を招くに違いない。ここはしっかりと抗議をしていかなければいけないのである。
「……ふふっ、悪ふざけが過ぎました。テントはロスコフ内に収納されていますので、そこから取り出すだけです。あと見張り番は必要ないので、安心してお休みください」そう言って何処からともなくテントが現れる。
それは一般な三角テントで人間が二人分ぐらい入れる大きさである。
「……くっ、セシリアが冗談を言うとは思わなかったよ。って、ロスコフにそんな機能があるのか、早く欲しいな」
年下にもて遊ばれたような気がしたが、悪意を感じるどころか可愛く見えてしまって何でも許せてしまう。
で、ロスコフの機能がまた一つ判明した。
彼女が言うには「ロスコフ」にはゲームで言うアイテムポーチのような機能があり、容量には限度があるが、ある一定量の物を補完できるらしい。
補完できる物は様々で【素材】【食べ物】【回復アイテム】【服】【お金】【武器・防具】【装飾品】等々。
素材は魔物由来の物、自然物である植物や鉱石などが代表的である。
これらを使用しアイテムを作る事も可能である。
食べは完成された物を補完できるのだが、入れている限り腐らないっていう破格の性能である。ちなみに、ゲームで言うバフ効果も付くおまけもある。
専門職【料理人】ってのがあるらしい。旅には一人欲しい職業だな。
次に回復アイテムなのだが、ゲームではお馴染みのHPやMPを回復できる物だな。ちなみに、この世界は体力と魔力がそれに該当する。これは専門職【調合師】で作成が可能である。
服はこれと言って説明の必要性はなさそうだが、防御力などはない。まんまオシャレ枠であり、専門職【服師】で作成可能である。
お金はそのままだな。セシリアが言うには所持額は何時でも見れるらしい。
武器・防具は収納出来る。って機能だけで、これといって特異性はない。
武器防具は専門職【鍛冶師】で作る事が可能。
このアイテム類の中でも、装飾品は別格で持っているだけ、あるいは身に着けているだけで様々な効果を発揮する。力が強くなったり、動きが早くなったりなどである。要はバフ効果が常時発動する。ってことだな。
ロスコフが優秀すぎるんだが、ぶっ壊れすぎやしないだろうか?
とは言え、手に入れて遊びつくせそうで楽しみが一つ増えたわけである。
「――というわけです。これがあるだけで、冒険がだいぶ楽になるんですよ! では、私は身体を清めてきますので、フランツさんは中でゆっくりしていてくださいね」
説明を終えた彼女はどうやら身体を清めに行くらしい。これは水浴びということだろう。魔物に襲われたら大変だ。脳裏にスライムに襲われる彼女が浮かび上がる。とてもけしからん。ここは俺が見守るしかない。そう、これは見守るという名の護衛である。
「いや、魔物がいるかもしれないから、俺が周囲を警戒しよう。セシリアは安心して身体を清めてくれ」
これなら自然に見えるだろうし、心配していることを強調すれば彼女も納得――
「……フランツさん、覗いたらわかりますよね?」
――するわけがない。視線が痛い、鋭く冷やかな視線が俺の心臓を貫く。
「は、はい! 大人しくテントに居ます!」
俺は縄張り争いに負けた犬のようテントに舞い戻り、丸くなる。情けなさ過ぎて涙が出てくる。やっぱ現実は上手く回らないよな……だらだらと帰りを待っていたが、そのまま俺の意識は落ちていった。
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