十四章 現実は非情である
ミュコスを出発してから数時間、俺たちは王都を目指す旅の途中である。
進む道は割と平和であり、たまに魔物が出るのだがセシリア一人で一掃してしまい俺の出番はまずない。
そもそも出発前は、険しい道が多いって言っていたのだが、なんとも拍子抜けである。
あと、彼女が一人で魔物を倒してしまうと経験値が入らない。これは大問題ではないだろうか?
にしても女性に守ってもらう男とか、とてもかっこ悪いことこの上ないじゃないか!
「あの~、セシリア? 頑張ってくれるの嬉しいのだけど、俺にも少しは別けてくれないと経験値が入らないんだけれど」
働きを褒めつつ、それとなく自身の本心を告げてみる。彼女はぴたりと動きを止めたあと申し訳なさそうな表情で質問に質問で返してくれる。
「フランツさん、私としてはとても悲しいですが、すっご~く。酷なことを言わないといけなくなりました。その、覚悟してくださいね?」
なんだ、その残念な人見る目は!? 俺なんか変なこと言ったか!? なんだか聞いちゃいけない気がするんだが、今聞かないといけない気がしてならない、このもどかしさ。ここは恥を忍んで聞くとしよう。
「お、おう。聞こうじゃないか」
「えっと、ですね。その、はい。とても、とっても残念なお知らせがあります。レベルを上げるにはロスコフを身に着けていないといけないのです。なので、今のフランツさんが何千、何万とモンスターを倒しても入る経験値は0なのです」言い切ったあと、彼女はそっと俺から目を反らし俯く。
――マジかよ!? 何そのクソ仕様! え? ってことは、今の俺って完全にお荷物じゃん! 戦えないことはないけれど、全て徒労に終わるってことかよぉ!
ようはロスコフをさっさと手に入れないと、身分もない、レベルも上がらない、PTも組めないの無い無い尽くしってことじゃん!? この世界で生きて行く為のスタートラインにすら立ってないってことかよ。
「ははっ。はぁ~、マジですか、まだ先長よね?」
「とても悲しいですが、ロスコフを失くしたフランツさんが悪いですね。ミュコスを出発してまだ数時間ですよ? 軽く見積もっても3日はかかります。だから、険しい道と言ったのですよ」
つれーわ。まじつれー。転生したらチート能力を使って一瞬で移動出来たり、ご都合主義でロスコフがその辺でポロっと手に入ったりするんじゃないのかよ!?
最近見た転生系の物語と全然違うじゃん。なんで俺こんな世界に転生しちゃったんだよ。そも、ロスコフ元々持ってないんだよぉ!
「うぐっ。そ、そうだ! 一瞬で目的地に移動出来たりする手段があったりしない? それか馬車とかさ!」
ゲームみたいな仕様の世界だ。転送の魔法や馬車、あるいは飛竜とかに乗れるに違ない、そう思い彼女に聞いてみるのだが、答えは微妙なものであった。
「ないとは言いませんが、私は転送系の魔法は使えません。そもそも転送系の魔法を使える者はごく一部の魔術師のみなのです。—―乗り物もありますが、金銭的に厳しいですね。馬車で3日移動するとなると、最低3000Gかかります。これは現実的ではないので、今回は乗れないと思ってください」
どうあがいても楽は出来ないっぽい。そもそもお金の単位を言われてもよくわからないな。
「わかった、ありがとう。ちなみにセシリア、3000Gってどれぐらいの価値があるのかな? わかるように何かに例えてくれると助かるんだけど」
「う~ん、そうですね。ミュコスで食べたピッツァを覚えていますか? 大雑把にですが、あれが30枚ぐらい食べれますね。あと、ミュコスの宿代に換算すると約3泊分に相当します」ミュコスは観光地なので宿代は高いのですが、食事代は安いのです。っと付け加えてくれる。
あれか 、高級リゾート地的なお値段ってやつですか。だが、食事が安いのはありがたいことだな。そう考えると地道に歩くしかないってことか。
「なんとなく、わかった気がしたよ。地道に歩くしかないってことだよな。だが、君だけに戦わせるのもカッコ悪いし俺も戦うよ。経験値は入らないかもしれないけれど、素材なんかは手に入るんだろ?」
「えっ、はっ、はい。そうですね。フランツさんのおっしゃったように経験値は入りませんが、魔物由来の素材は手に入ります。——では、少しだけ頼らせて頂きます」
言葉の端々で動揺しているような印象を受けるが、俯きながら彼女はしっかりと答えてくれる。その表情は良く見えないが、艶のある頬が朱に染まっているように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます