十三章 平和に異世界で生きるには

「あのさ、セ、セシリア。この世界で生きるには何が必要だと思う? 真面目にというか、記憶喪失なわけでね?」


「生きるですか。抽象的過ぎて回答に困りますね。まず、この世界のことを知った方が良いですね」

彼女はこほんっと一つ咳ばらいをし、この世界のことを教えてくれる。


この世界は『ユグドラシル』と言う名らしい。よくゲームなど出てくる古典的な名前だな。で、世界の中心に大きな大木がそびえ立っているのである。

それを囲うように大陸があり、大木の周囲は海のような川のような神秘的な水辺で囲われていて何人たりとも入ることを許さないとか。

うんで、その大木の何処かにエルフの桃源郷があるらしい? エルフと言えば耳が長く、色白の美人揃いっていうRPGゲームなんかの世界では定番の存在だ。一回でいいから行ってみたいものだ。

何やらセシリアの視線が何かを疑っているような気がしてならないが、ここは気にしないでおこう。

補足として種族は多種多用で、人間、エルフ、ドワーフ、獣人または亜人、精霊、妖精、ドラゴン、魔物全般などなど、思った以上に色々な種族がいる世界であった。


ただ、人間やドワーフ、獣人などは国や町があるが、ドラゴンや精霊的な存在は領域やなわばりにいるので、滅多に遭遇しないらしい。

エルフは数が少ないので、そもそも遭遇すること自体がレアらしい。是非とも出会いたいものである。


一番驚いたのが【レベル】の概念があるらしい。

以前セシリアがスキルがどうこう言っていたが、まさかこれがあるとは思わなかった。

簡単に言うと【名前】と【性別】が個人を決定して【職業】は自身で決定でき、転職もできるんだと。

で、【レベル】がその個人の職業のレベルである。転職するとレベルがリセットされ1からの再スタートになるという、ゲームシステムにありそうな仕様である。

【スキル】は多様で戦闘系、知覚系、生産系、魔法系、知識系などがあるとのこと。


――まんまゲームみたいじゃないか。そう言いかけたが口を閉じる。

確認の方法は? と尋ねたら。


「あれ? フランツさんをお持ちでないですか? 記憶を失っていたとはいえ、剣士をしていたのであれば、王都で貰っているはずですが」

そう言って彼女は懐から懐中時計に似たものを見せてくれる。

中心には円状の羅針盤が描かれていて針が二つ常に動いているのが見える。それを囲うように金の縁取りがあり、紅の宝石が細かく散りばめられ、古風な中に煌びやかな装飾された逸品である。


「失くしたのかな? ははっ」

やばい、やばいぞ。これを持ってないって、この世界の人間じゃないって言っているようなもんじゃないか!?

内心で動揺を抑え込んでいると彼女がこっそりと助言をくれる。


「確証はありませんが、失くしたのであれば新たに作る事は出来るはずです。ですが、お金もかかりますし、なにより身分証にもなるので、無いとこの先困ることが起こる可能性もありますね。なので、王都に向かいましょう」


「う~ん。今の状態だと身分も無いようなもんだしな。とりあえず、その時計を作ってもらいに王都に向かうしかなさそうか」

不可能ではないのであれば、一部の望みにかけて王都に行き新しい時計を作成してもらうか。


ちなみに、この時計の機能は自身の【各種パラメータ】【レベル】【スキル】【状態】【マップ】【アイテム収納】等の機能が付いているらしい。で、楽しそうな機能があってそれは【自身の強化】である。元ソロゲーマーとしては、是非ともゲットしたい品である。

ただ、残念なことに他人のステータスなどは覗けない。——あくまでソロでは自分だけである。例外は誰かと同行するとその人の状態などが見れるって仕様だな。


――まぁ、俺ずっとソロぼっちだったしな。しかも、この時計持っていないと同行することが出来ないとか現在は色々制限付きってことになる。


「よし! そうと決まれば目指すは王都。——セシリア、道案内頼めるかな?」


「はい! この先、険しい道が多いですが、フランツさん頑張りましょう! 」

とても聞きたくなかった言葉が彼女の口から発せられる。俺の異世界ライフはまだまだ前途多難のようだ。


こうして、俺たちはミュコスで支度を終えたあと、セシリアが住む王都「スヴェートラント」へ旅立つのであった。

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