十二章 彼女の意外な一面
う~ん。とても、とっても、この先が心配になってきたぞ。
つい先ほどウルフ討伐を終えてミュコスに戻る最中であるのだが、この討伐の時に俺は知りたくなかった事実に直面したでのある。
さきほど結論に至ったのだが、どうやらゲームに似た世界に転生したっぽい。
待てよ? 転移かもしれないぞ? だって、リアルの俺の容姿に近いからだ。
でも髪色とか目の色が違うんだよな。
セシリアさんにそれとなく俺の印象を聞いてみたんだけど、散々なものだった。聞かなかったほうがマシなぐらいに――まじつれぇわ。
彼女が見た限り髪は茶色のややストレートショート、瞳は覇気のない水色、肌が青白く、筋肉がほぼなく、やせ型……いや、痩せすぎらしい。唯一の救いは長身であること。
顔は悪くないらしい。悪くないっていうのは彼女から見てだから、そこは素直にうれしかった。
――容姿はリアルに近いが身長は低かったはずだけどな。
やはり転生なのだろうか。そうなると、現実世界でのVRゲームイベントを終え、そのまま眠るように死んだってことだろうな。部屋なんて片付けてなかったし、ゴミもすごかったしな。
1LDKのゴミ屋敷の中、眠るように死んだ姿を全国ニュースで晒したと思うと恥ずかしすぎて穴があったら入りたい気分だ。
「……はぁ。穴があったら入りたい……」
「穴ですか? 残念ですが周囲に入れそうな穴はないですね。」
無意識にこぼした独り言に真面目に反応をくれるセシリアさん。
「ほんと残念だよ。って、そこじゃない!」
「フランツさんが穴が欲しいっていうから捜したのに酷いです! あと、ため息ばかりついていると、幸せが逃げるっていわれていますよ」
にしても、変なところが真面目な子だよな。あと感情が豊かである。
戦闘時は凛々しく気高くみえるのだが、それが終わると可憐な一人の女性に戻る。
普段の彼女は笑顔を絶やすことがほぼなく、他人にも親身に接し、俺なんかに寄り添ってくれる。綺麗な中にも幼さがあるのがポイントが高いし、何気なく見せるかわいい仕草に胸がドキッとする。
「はい。すみませんでした。ところで、セシリアさんって歳いくつなのかな? 俺は21歳なんだけど」
何気なく、ほんとになんも考えずに聞いた俺に対し、彼女の表情が抜け落ちたのが嫌でもわかった。
「あの、ですね? 女性に年齢を聞くなんて失礼じゃありませんか? その、じゅ、じゅ、う、はちです! もう!」
たしかにそうだよな。日本では古来から女性の歳を聞くのは……って、あれ? じゅ、う、はち? 恥じらいながらも年齢は教えてくれる。若いかな? っと思ていたけれど、予想以上に若かった。そら、幼さもまだあるわけだな。
「言動と行動から年上かな? って思っていたんだけど、まさか年下だったとは……ちょっ、まって!? セシリアさん剣を握って何をする気ですか!?」
俺はまた地雷を踏んでしまったらしい、青筋を立て鬼のような形相の彼女は剣を抜きわなわなと震えつつこちらへと歩み寄ってきていた。
「その年齢の割には落ち着いてるね? とか、年齢言ったら驚かれたり。私だって……私だって、お、女の子なんですよ!! フランツさんも一度ならず、二度までも私を侮辱するとは、もう許しませんからぁ!」
彼女は瞳に涙を滲ませ、荒れ狂う暴風のように剣を振り回し俺に襲い掛かる。
かと思われたのだが、へちょんとその場に座り込んで泣き出してしまった。
「あの~セシリアさん? 大丈夫ですか?」
何事もなかったかように冷静を装い彼女の顔を覗き見る。
「うぅ。みんな酷いです。フランツさんはもっと酷いです。……ぐすんっ」
どうしたものか、リアルで彼女いない歴=年齢な俺にこの状況を解決できる自信はまったくないのである。わなわなと右往左往していると不意に袖を掴まれる。
「……」
当然、その犯人はセシリアさんであり、無言で俺に何かを訴えている。その姿は柴犬が餌を求め真剣に訴えているかのように見えしまい、不謹慎だが笑ってしまいそうになる。
「セシリアさん、ごめんなさい。……俺が悪かったです」
俺は地面に頭を擦り付ける勢いで土下座をする。俺が住んでいた日本で古来より伝わる誠心誠意を込めた謝罪の方法である。
「だめ、です。……さん付けは許さないです」
どうやら謝罪だけでは許してくれないようだ。年下だからってのはわかるんだが、男友達ならまだしも、女性に対し呼び捨てをするなんて恥ずかしいな。
「セ、セシリア……ごめんなさい。俺が悪かったです」
俺は誠意を込め再度謝罪をする。彼女の顔はいつもの可憐なものではなく涙と嗚咽で酷いものだった。言葉が彼女にと届いたのだろう、両耳を主に染め表情が色を取り戻す。
「はぁ~。良くできました。――許します。ですが、敬語とさん付けはこれから禁止とします! いいですね?」
「お、おう。セ、セシリア、これからもよろしくな!」
「はい! フランツさん、これからもよろしくお願いします!」
その時の彼女の溢れんばかりの笑顔は俺の生涯で忘れられないものとなる。
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