二十八章 セシリア宅へ

「二人とも、おまたせ。申告は何とか出来たよ。で、これからセシリアの家にいくんだよな?」


「フ、フランツさん!? あぁ、無事申告出来たようで良かったです。ええ、アニータとの話は済んだので、彼女とはここで別れて私の家に向かいましょう。エミリアも首を長くして待っているでしょうし!」


「フランツ君おかえり~。ゆっく~りしてきても良かったのに。……う~ん? これからセシリアちゃんの家に向かうのね。じゃあ、お姉さんも一緒に行こうかしら? ねぇ、いいわよね?」

遠目で見た時は泣き出しそうな顔していたはずなのに席に戻るまでに何があったんだろうか? セシリアは妙に落ち着きがない様子だ。

隣にいるアニータは黒曜石のような瞳で俺を真っすぐ見つめている。

見つめられると恥ずかしいが、視線は鋭く冷たく刺さるというか警戒されているようにも伺える。


「うんうん……うん? アニータは来なくていいんですよ?」


「セシリアちゃん、さっき話したこと忘れたの? だいたいエミリアは良くてなんで私は駄目なのよ?」


「そんな邪険にしなくてもアニータさんも一緒に来てもらったらどうだ? 久しぶりに会ったのなら家でゆっくり話すのもいいんじゃないか」


「フランツさん! アニータが来ると大変なのですよ。主に食事面でなのですが……」


「酷いわね。ちょっと、ほんのちょっどだけお酒の減りが早いだけじゃないの! ほらセシリアちゃんいくわよ」

ふむふむ、食事面か。大ぐらいの酒飲みってことかな? 豪快な性格っぽいしみたままって感じだから違和感はないような?


外に出ると城下町の道は薄っすらと光が灯っていて吐く息は白い。

電気ではないんだろうが、薄い昼白色の光を放っていて近づくとほんのりと温かい。周囲を見るとレンガ作り家や道もありファンタジーでありがちな西洋風な城下町である。よく見ると上には立派な屋敷が多く見える。ってことはこの世界の人間には上下関係もとい貴族と平民の位があるってことか。


「そんな時間かかってないように思ったけど、意外と時間食っていたんだな。もう陽が落ちかかってるな。にしても上に見える立派なお屋敷にはどんな人が住んでるんだろうな」


「そうですね。王都に着いたのが午後でしたし、新規の申し込みだったので思ったより時間はかかりましたね。……そ、それは、ですね。」


「……はぁ。あのねフランツ君? 私達は今からそこに向かうのよ。そんな物珍しそうな言い方をするんじゃないわよ」


「……へっ? 今から行くの? え? ちょっとまって!?」

状況を理解できない俺を不安そうに見つめるセシリアの面影が気になるのだが呆れかえっているアニータにより俺は腕を掴まれ連行される。


――って、セシリアって貴族のお嬢様だったってことかよ!? ご実家に行くのがとても怖くなってきたんだが! 








城下町の中央付近まで戻ったあと城へと延びる坂をゆっくりと登っていく。

少しずつ街の雰囲気が活気のあるものから落ち着いたものへと変わっていくのが肌で感じられる。

現実世界で引き籠りだった俺にとって、とても居心地が悪く周囲の服装を見るにとても場違いな場所である。


「……そろそろ到着します。心の準備は良いですね?」


「うん? ……あぁ。いつものあれね。もう慣れたわ」


「……お、おう。俺はいつでもいけるぞ! なんでもこい!」

心の準備って――うわ~。すっごい大きな門が見えてきたんだけど……これマジもんの貴族のお屋敷じゃん……

俺たちが門へと近づくと自動ドアのように門が開いていく。

自動ではなく執事が開けてくれたようだが、開かれた道の両サイドにはメイド達が列をなして俺たち迎え入れてくれる。


「おかえりなさいませ。セシリアお嬢様。旦那様と奥様がお待ちしております。——ご友人の方々ですね。お話は伺っております。こちらへ」


「只今戻りました。もう、こんなにも盛大に迎え入れなくてもよいと言ったではありませんか。ぱっ……ごほんっ。父上の仕業ですね」


「いいじゃないの。一年以上も戻っていなかったのでしょう? これぐらいは許しであげなさい。ささっ、早く元気な顔を見せてあげましょ。ほら、フランツ君もぼーっとしてないでいくわよ」


「……は、はひ」

住んでる世界が違うじゃないか……本当にこの先に入ってしまっていいのだろうか。

アニータは慣れているいるのかズガズガと中へと入っているし屋敷の入口には見慣れたツインテールのちびっこエルフが手を振っている。みんな神経ずぶとすぎじゃないか!? こうなったら俺も男の度胸ってもんをみせてやる! そう誓ったがこのあと珍事により頭を抱えることになるのである。 

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