二十九章 セシリアの両親
「やっと帰って来たようだな。頼まれたものはちゃんと買っておいたぞ! うげっ、アニータも一緒なのかよ」
「うげっとは何よ? エミリア久しぶりに会ったというのに酷いわね」
「エミリアありがとうございます。あとで構いませんので、フランツさんに渡してあげてください。——フランツさん?」
「あぁ。エミリアありがとう助かったよ」
ちびっこエルフはしっかりと頼んだことを済ませてくれていたようで、その容姿とは裏腹に出来る子なのかもしれない。だがアニータを見た時の反応を見るにみんな苦手としているのが伺えるんだが、そこまで悪い印象はないんだよな。
「ほ、ほら! セシリア両親が待っているようだし中に入るぞ」
「こら! エミリア待ちなさいよ。私を無視するんじゃないの」
「あ、ちょっと。二人とも急がなくても大丈夫ですってば! フランツさんもゆるりとしてくださいね」
「お、おう。なんだか落ち着かないけど努力してみるよ」
賑やかなことは良いことだとは思うが陰キャな俺にとってこの空間は居心地がわるくてな。
ちびっこエルフに催促されるまま歩いていくと某ドームぐらいの屋敷の扉が音を立てて開かれる。
まず目に飛び込んできたのが豪華な装飾で飾られた内装、窓が多数あって光が方々から差し込みとても開放的なロビーでとても広い。手すりの付いた階段の両脇にライオンのような銅像もあるな。この家の紋章みたいなのが首にかかっている。
ロビーに入ると恰幅のいい40代ぐらいの男性と華奢ではあるが落ち着いた雰囲気を漂わせている同年代ぐらいの女性が階段の目の前で待ち構えていた。
「セシリアさん、おかえりなさい。食事の準備はできています。そちらで今日までのお話を聞かせてくださいな。——少しばかり騒がしくなるかもしれませんがご友人の方々もご一緒にどうぞ」
自然な動きで俺たちを迎えてくれたのはセシリアに似た雰囲気を持つ女性であった。
ゆったりしているようで蒼いの瞳は強い意志を感じさせ、透明感のある金髪を後ろで結いこんであり顔は何処となくセシリアに似ている。
身に着けているドレスは上品な布でできてるのだろう艶があり肌触りも良さそうだ。
「母様、只今戻りました。私のことはあとでゆっくりお話しますし今はお客様を優先してください」
やはり母親だったようだな。セシリアに似ているのは当然だよな。優しそうに微笑んでいる姿はあの時の彼女の笑顔にそっくりである。
母と娘の再開を微笑ましく見届けていると、ひときわ大きい声がロビーに轟く。
よく見るとその声の主から縄が伸びていて、その先は母親に繋がっているようにみえるんだが……
「セ、セシリアちゃん! パパはとても心配していたんだよ!? 何も言わずに出て行ってしまってとても悲しかったんだよ……どうしてパパに何も言わずに出て行ってしまったんだい!? もう冒険なんてしちゃだめだよ!」
「……父様。こうなるとわかっていたので私は黙って出ていたのです。母様にはしっかり私の考えを伝え認めて下さいましたので問題ありません。あと、お客様の前で見っともない姿を晒さないで下さい」
……どうやらあの男性はセシリアのお父さんらしい。金の髪に野性的なオールバック、釣り目ぎみの青い瞳が一見強面に思わせるが御覧の通りである。純白の正装を身に纏いるのもあって体格がより引き締まって見える。腰に剣を携えているところを見るに武人なのだろが、とても残念な人のようだ。
「け、けれどね!? セシリアちゃんは可愛くて綺麗な女の子なんだ。どこの馬の骨かもわからない薄汚い男に襲われたりしたら大変じゃないか! あと、外の世界は魔物もしるし女の子が一人旅なんて、もうパパはセシリアちゃんが心配で心配で……」
セシリアのお父さん? は縋る様に彼女のスカート丈を掴みつつ涙を滝のように流しながら懇願している。
「……セシリアさん」
「………はい。母様」
あっ。無言の圧とあの視線は以前、俺に向けられたものと同じだ。とても残念なものを見る時のあれである。
短いやり取りを終えた母と娘は父親をぐるぐる巻きにし無言で食堂のある方へと連行していく。
「フランツ君は初めてだろうけど、このやりとりは何時ものことなのよね。ただ今回はちょっとだけ状況が変わりそうだから気よ付けてね?」
「セシリアの父上はほんと心配性だな。そうそう、フランツこのあと大変だろうが頑張れよ」
「な、なんだよ。大変なことって!? 俺はまだ何もしてないぞ!」
「まぁ、すぐわかることよ。心しておきなさいね」
「骨は私が拾ってやる。安心しろ!」
アニータとエミリアは呆れかえって傍観していたかと思ったら、とても不安なことを伝えてくる。この先、俺はどうなってしまうんだろうか……
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